蜃気楼
桜之 玲
第1話
……眩しい。
目を閉じていてもいつものように太陽の光は強く地上に差し込み、瞼がじわじわと熱くなっているのが分かる。
うっすらと目を開けると真夏の陽の光を浴びたコンクリートがまるでフライパンみたいに昨晩降った雨を蒸発させ、じめつく空気が私にまとわりついてくるような感覚に襲われる。
けれど私は、普通なら家に篭もりたくなるような環境の中、いつもの公園の、いつもの特等席に座って今日こそは、と待ち続ける。
小さい頃から一人が好きだった。
私は小学校で学んでいた時から、休み時間はいつも教室で本を読むのだ。
なんだか本を読んでいるときは自分のいる世界とは時間の流れが違って、見たこともないような風景が見える。それは今後の自分の人生で出会うことが出来ないような、複雑で壮絶な風景。
本を読むときは一人が良い。白くてなにもない部屋で、一人で飛び込みたい。
だから私はいつも一人でいた。
「もうこんな時間……。」
朝起きるといつもより起きた時間が10分ほど遅く、私は鉛のように重い体を無理やり起こす。
高校1年生になり、特に頭が良くも悪くもない私は、普通くらいの、そこらへんの高校に通っていた。
顔を洗おうと鏡の前に立つと酷く寝癖の立った黒髪を肩まで伸ばした女の子がそこにいる。きゅ、と締まっている顔、ニキビやシミがひとつも無い肌。私、
…うん、今日も大丈夫。
誰に対して言うのでもなくそう私は呟き、さっ、と簡単に化粧を終え、朝食を取るために1階に降りた。
「あ…おはよ、凜」
「おはようお姉ちゃん」
既に朝食は作られており、濃いめの化粧をして、渋谷にでも行くような感じのお姉ちゃんはもう食べ始めていた。
「お姉ちゃん……なに、今日はどこよ」
「あー、気づいちゃう?今日は彼氏とデート♪」
うわぁ…、だからそんな綺麗にしてるんだ。
お姉ちゃんそんなに化粧しなくても可愛いのに……。
もぐもぐとスクランブルエッグを食べる姉こと
今日は日曜日。ついこないだ持っていた本を読み終えてしまったので新しい本を探そうと思い、私は本屋にでも行こうかな、と考えている。
「りんりんー、りんりんは仲良い男の子とかいるのぉ~?」
……まったく…、本当に迷惑。そういうのいらないし…。とは言えず、あぁ、うん。まぁ……それなりに。と言葉を濁してしまう。実際、仲が良いと言える男子はいない。おそらく私の性格が原因だろう、とは分かっているのだが、なんだかどうしても異性とは上手く話せない。
なんだか姉と話をすると朝からにやにやしてきて腹が立つので私は早めに朝食を済まし外に出ることにした。
外に出ると快晴で、5月の暖かさが風に流され、肌をゆったりと撫でつける。駅の5階に設置されている本屋に向かうつもりだが、幸い私の家から駅までは片道5分程度で着くという、あまり体力に自信が無い私でも疲れずに行けるなかなか良い環境である。
ただ、私はこの5分がとても長く、少し苦しいような良いような複雑な感情をいったりきたりしてしまって、精神的には本当に疲れる。
原因はすれ違う人の目線、だ。
私は容姿には少しの自信があるものの、他者からどう思われているかが一番怖い。
でしゃばってません。と言うように化粧は薄くしているのだが、通り過ぎる人はたいてい私を見る。変かな、そんなにおかしいかな、と考えてしまいどうしても俯いてしまう。
優しそうな目で私を見てくれる人は、私の事を変だと思っていないだろうけれど、少し不機嫌そうな顔をした人が通り過ぎるとすごく怖い。ただの自意識過剰だと私自身知っているけれど、どうしても怖いのだ。
「ふぅ……」
やっと着いた…。
なんか疲れたな……、あ、本買ったらカフェでコーヒーでも飲みながら読もう…。
カフェに入るのも少しだけ怖いけれど、ここのカフェの女の店員さんはいつでもにこにこしているので少しだけ気が楽だ。
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