閑話

第15話 邪神との対話



 ――燃える大地。炎の上に立つ邪神は、どこまでも横暴に、不遜に、見下しながら問い掛ける。


「我と共に来い、輩よ」


 それは私に向けられた言葉。私に差し出された救いの手。――理解できない。なぜ私が彼と同胞なのだろうか。それに、私の世界を焼き尽くさんとする彼を許せはしない。

 彼は、私の疑問に答えるように話だす。


「そう不思議に思うことはない。我らは世界の意思にすぎない部品だ、本来ならば意思をもつ事さえ出来ない人形でしかない」

「――私は己が意志をもっているっ」

「ふっ、そう猛るな。思わず殺したくなってしまうだろう」


 そこら一帯を燃やしている炎が、彼の声に反応し黒く染まる――不気味だ。なんなのだろうか、あんなモノ見た事がない。

 

「くく、怯えるな。大したモノではない、我の感情に引き摺られただけの事よ」

「何故この世界を壊そうとするっ」

「何故だと? ――知らぬわ。我とて無理やりこの地へと送られたにすぎん」

「ならば、私達が争う理由など、どこにもないではないか!」


 必死に彼を説得しようとするが、彼は私を嗤うだけで耳を貸そうとはしない。


「我と共に来れるのは貴様だけだ。それ以外の連中に、神としての格はない」

「神……? それは君と何か関係があるのか?」


 この世界に現れた彼は邪神と名乗った。ならば神と言う言葉に何かしらの意味がある可能性は高い。

 邪神は私の考えを肯定する。


「あるとも。我らは理の外にいるのだ、枠の中に納まっている原住の民とは根本的に違う」

「何が違うと言うんだ? 私が生み出した命も、私達と何一つ変わらないし、姉さんも兄さんも、私となんら変わらない」


 その言葉を聞いた瞬間――――邪神は声高に嗤う。彼の瞳には、私がよほど滑稽に映ったらしい。


「愚かだ、あぁ実に愚かだ。なんと嘆かわしいのだ――――――輩よ、元来貴様は神であり王などと言う存在ではない。そこで倒れている2人の王が、貴様をという愚かな存在に縛り付けている」


 先ほどまでは嗤っていたのに、急に悲しそうに話だした。……彼は何を知っているというのだろうか。私には想像もつかない。


「所詮、奴ら王は――別次元の映し身でしかない。存在するモノを映して誕生した紛い物でしかないのだ!」

「……別、次元? それに紛い物だって? 私達はここに生きているっ。今と言うこの時を!」

「だから愚かだと言うのだよ。我や貴様は――新たなモノを生み出していく存在。まさいく原初の存在だ。だが、彼らは違う。ただの模倣だ――いくつかの存在が重なり交わり合った、世界を維持するだけの部品でしかない」


 邪神が詰まらなさそうに呟いた最後の言葉が、私の胸に突き刺さった。

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