閑話

第10話 過去の記憶

「姉さん、なんで太陽を創ったんだ?」

「暖かさが欲しかったからよ」

 私の疑問に、姉さんが答えてくれる。


「暖かさ? それは体に感じる熱の事かい?」

「ふふっ、ちょっと違うかしらね」

 何がおかしかったのか、姉さんは私の言葉に楽しそうにくすくすと笑う。

 むぅ。


「そんなに拗ねないで頂戴、おいで私の可愛い弟くん」

「私はもう、子供ではないぞっ」

「ふふっ」

 私を抱きしめ、ただ笑うだけ。


「は、離してくれーっ」

「だーめ、私があなたに暖かさを教えてあげます♪」

「い、いやあああ」

 どんなにもがいても、姉さんは離してくれなかった。


 わ、分からない。何がしたいのだ、姉さん。なんだか胸の奥がむずむずして、無性に叫びたい気分だぞっ。これが暖かさとでも言うつもりなのかっ?





「つ、疲れた……」

「分かってくれたかしら?」

 分かるものか。そう言ってやりたい。しかし、一切の影を落とさずおニコニコt笑うこの笑顔が好きだった。

 そんな好きな笑顔を自分で壊すなんて、私には出来ない。


「あ、ああ。分かった………………気がする」

「そう、よかった」

 更に輝きを増した笑顔に、私は黙り込んでしまった。



「ねぇ、太陽の暖かさってね、すべての生き物に必要だと思うの」

「突然どうしたんだ?」

「私は時々思うんだ。太陽の光は命を育んでくれる恵みの光だけど、常に輝き続ければ大地のすべてを焼き尽くしてしまう」

 そうだろう。だからこそ、姉さんは眠るのだ。姉さんが眠れば太陽は沈み、夜が訪れる。疲れた体と心を癒してくれる夜が来るのだ。


 しかし、その為に2人は極短い時間しか邂逅できない。


「だからね、あなたが生まれてくれてとても嬉しいのよ」

「む、むぅ」

 な、なんだ? 今日の姉さんはおかしいぞ。いつも優しいけど、こんな直接何か言ってくる事なんてなかったのに……。

 と言うか、む、胸が苦しい。なんだろう。ポカポカしてぎゅってなる。よく、わからないけど、胸が苦しいんだ。


「ふふっ。それが暖かさなのよ」

「!」

 私の口に人差し指を当て微笑む。


「うわああああああああっ」

「きゃっ」


 なんだ!? なんなのだこれはっ!!


 私は走り出した。

 あのまま姉さんの近くにいたら、何かとんでもない事をしでかしてしまいそうだったのだ。

 それがどんな事なのかはわからない。わからないけど、胸が苦しい! 兄さんが起きてきたらこの感情を全部ぶつけてやるっ。


 私だけこの感じを味わうのは、不公平だ! こうなれば兄さんは強制的に巻き込んでやるっ。

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