第9話 何もしない王
「結局あんたは何者なんだ?」
ディレンの問いかけに、私のもつ答えは一つだけ。
「私かい? 私は王、命の王だよ」
その答えにディレンは、ぽかんと大口を開けて呆然としている。
何かおかしな事でも言ったかな?
「あー……なんだ、つまりは、御伽噺、それも最初期の神話に出てくるあれか?」
「? 何を言っているかわからないけど、私は命の王。生まれてから一度も名前が変わった事はないよ」
ディレンは、あちゃーと言いながら額に手を当てる。
「いやいや、ない。ないから、いくらなんでもないから」
必死に否定の言葉を紡いでいく。
「そもそも、原初の3王は邪神と相打ちになったはずだろ? 生きてるわけねぇじゃん、それに偉い学者様達の話じゃあ少なくとも千年の時が経ってるみたいだしな」
「そうなのかい? それは多くの時を必要としたのだな……」
身体の修復と停止の呪いを解くのにそれだけの時を必要としたのか。
「ふむ、私達の話が伝わっているという事は、私の子供達は生き残れたのだね」
私は嬉しげに呟いた。
守りたかったものをすべて守る事は出来なかった。けれど、少しでも守る事が出きていたのだ。これが嬉しくないわけがない。
「まじめに話そうぜ、そろそろ貴族様も怒っちまう」
「貴族様? あぁ、彼なら眠らせて置いたよ。あまり神素の無駄遣いはするべきじゃないのだけど、君からは聞きたい話があるからね」
「なに―――っ」
ディレンは慌てて振り返る、そこで倒れている貴族様に気づいた。そして呟いた「冗談だろ、いつやったってんだ?」と。
「さぁ、話を聞かせておくれ。私はこの世界の今を知りたいんだ」
「な、なあ、マジで命の王だなんて言わないよな? い、今のはただの魔法だよね?」
――――――魔法。
その言葉にザラッとした言いようのない不安を感じた。私はそんな法則を知らない。神法、霊法、邪法、うち二つは邪神側が使ったもので前者が私達3人の王が用いた世界の法則。
魔の法則、そんなものは存在しなかった。
「……魔法とは、なんだい?」
「え、知らないのか? て事は、さっきの魔法じゃねぇのか……」
ぶつぶつと何かを言っているが、今はそれどころじゃない。この嫌な予感を確かめなくてはいけない。
「教えてくれ、魔法とやらを」
再度詰め寄った私に、ディレンは「わかった、わかったから離れろっ」ぐいっと私を押し退け距離を取る。
「便利なものだ。人の生活からは切っても切れないほど密着した存在さ。簡易的なものでよければ俺にだって使える。まぁ生活魔法って奴だな」
「使ってくれないか?」
「いいぜ」
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