第8話 人を知った王
「君達はなにがしたかったんだい?」
私に当たる直前に折れた剣を前に、呆然としている貴族様に問いかける。しかし、答えは返ってこない。
「ふむ、出ておいでラビス」
私の言葉に泉の中からラビス達が出てくる。
彼らは神素のみを糧として生きている。たとえどのような場所でも関係なく生存できる。故に、見つからないであろう泉の中に隠れていて貰ったのだ。
「な、なんだその生き物は? 兎に似てるけど……兎より丸っこいし、耳は短いな」
ラビス達を見て驚きの声を上げるディレン。どうやら彼には見えているらしい。悪意はないのだろう。
「……君には見えてないようだね」
貴族様の周りをぴょこぴょこ跳ねているラビス達にまるで気づかない。彼には悪意がある、という事なのか。
「ああっ。なるほど、さっきのは私を攻撃しようとしたんだね!」
邪神と戦った時を思い出した。私達王は、この世界に存在するモノで傷つける事は出来ない。世界そのものが私達の子供なのだ。
まぁ、私ではなく姉と兄の、だけれども。
「くっくそが! なんで泉の調査に来て訳の分からない奴と戦わなければいけないんだ! やってられるかっ。そいつを殺せディレン」
「む、無理じゃないですか? 剣が勝手に折れましたよ……それに、見た事もない生き物が守ってます」
「何を言っているっ。あいつは1人だけじゃねぇか! びびって適当な事言ってないで殺せ!!」
喚き発てる貴族様を、睨み付けたディレンがこちらに向き直り、新たな鉄塊を抜いて構える。
「君達はなんなのだい?」
「俺達か? ダレス人だよ。ここら一帯はそこで怒ってる貴族様の領土なんだ」
「ダレス人?」
「知らないのか? 人種の中でも武勇に優れた種族さ」
「人種? ……それが君達の種族なのかい?」
「そうだよ。で、言ったろ。貴族様に逆らえる奴はいないって、怨むなら俺じゃなくて貴族様を怨んでくれ」
ディレンはそう言い放つと、鉄塊を振るう。
意味がないと言うのに、ご苦労な事だ。
「やっぱり無理だよなぁ……」
半ばからぽっきりと折れた鉄塊を見つめ、悲しそうに呟く。
「人と言うのは、世界を理解していないのか?」
自然から進化した弊害か、彼らは世界に満ちる神素を理解してない。それを悟った命の王は冷徹に言う。
「ディレン、まさかとは思うが……王を名乗る者はいるか?」
「そりゃあいるよ、貴族様の上に立ってるのが王様だぜ」
なるほど。
王は生まれていたのだな。しかし、なら何故世界に神素を満たさない? 分からない事だらけだ。
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