閑話 過去の亡霊

第5話 悪夢を見て、子供に癒される王

 赤く燃えた大地、迫り来る異業種の軍勢。

 それらを笑いながら戦闘に立つ邪悪の化身――邪神。

 一度腕を振るえば大地は裂け、歩を進めれば枯れた土地しか残らない。


 私の子供達が次々と異業種に捕食され、大地を血で穢していく。

 どんなに泣き叫んでも、彼らに届く事はない。



 ――――これは夢だ。終わってしまった出来事。既に取り返しようのない悲嘆な夢。あぁ、私達は止めたかった。

 私達の愛しき子供達を目の前で惨殺され、食われ、弄ばれ、壊れた玩具のように扱われている、その光景を止めたかった。


 私を輩と呼んだ彼は、何故その身を闇に堕としてしまったのだろうか。

 どれほど悩んでも、私にはその答えが見つからない。


 所詮、過ぎてしまった過去だ。

 いくら悩もうとも何かが変わるわけでもない。


 ただ、もう二度とあんな光景は見たくないな……。


 心に焼きついた赤、赤、赤。大地が燃える赤。子供達が死に絶え流す血の赤。枯れ果て血が混じった大地の赤。

 

 世界が終焉を迎えたあの日。

 彼が現れ、異業種を引き連れてきたあの時を。


 私は、二度とあの光景を忘れる事ができない。






「きゅう……」

 頬を湿らしていく、温かさに目を覚ました。

「――ララ、どうしたんだい? そんなに悲しそうな顔をして」

 どうやら、ララが私の頬を舐めて起こしてくれたようだね。

「きゅう、きゅう……」

「ん、そうだね。懐かしい夢を見たよ」

「きゅいっ」

 ララが小さな耳で、私の頬に触れる。どうやら心配してくれているみたいだ。

「心配してくれるのかい? ……ありがとう」

 感謝を告げ、両手で優しく包み地面に下ろす。

 

 体を起き上がらせ、昇った太陽に向けて伸びをする。服にくっ付いた砂がさらさらと地面に落ちていく。



「あぁ姉さん。私は大丈夫だよ」

 どこか心配そうにくすんだ色をした太陽に向けて、ぽつりと呟く。


 太陽は姉さんの象徴であり、化身だ。

 きっと、姉さんが死んでもこの世界を見守ってくれたのだろう。

 でも、私は大丈夫だ。

 

「きゅ!」

「「「きゅうっ」」」

 ララの鳴き声で横並びで綺麗に整列するラビス達。たった2日目でしっかりとリーダーをしている。

 私が太陽を見ている間に皆を呼んでくれたらしい。いい子だ。


「君達は早起きだね。私はもう少し寝たいんだけど?」

 悪夢を見た所為でろくに寝れた気がしない。

 もう少し寝ては駄目かな? とララを見つめると、ダメです! とばかりに尖り耳でばってんを作る。……器用なものだね。


「……分かったよ。ほら、おいで」

 苦笑を浮かべて掌から神素を放出する。ラビス達が食べやすいように屈む。


「きゅい!」

「「「きゅう」」」


 食べる順番を事前に決めていたらしく、ララが食べ終えると2匹ずつ私の手元に来る。どうやら、生まれた順番で決めたらしい。

  

 賢い子達だ。

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