第3話 生誕させし王

 私を構成する神素を生命へと変えていく。


 構成する神素は少なくて良い。

 私を構成する1%にも満たない量だ。


 小さな生命体を創り、生み出せる神素を増やそう。と考えたのだ。


 光の球体が掌に浮かびあがる。これは卵だ。私が子供を生み出す際に使う、限定的な神法の一つ。

 大きさにして、両手で包める程に小さい。


 その光の球体が割れ――中から茶色くてまん丸の姿をした生命体が生まれた。


「きゅ?」


 体から真上に向けてぴょこんと飛び出た尖り耳。手は付いていないが、足はちまっと出ている。

 円らな碧眼でこちらを見つめ、パタパタと忙しなく耳を動かしている。

 

「ふむ、君は異業種と戦えなさそうだね」

「きゅきゅ」


 その愛らしさで魅了する、くらいしかできなさそうだ。いや、異業種相手に意味のない行動だけど。そんな事を考えていると、不意に掌がくすぐったくなる。


 見てみると、生まれたばかりの子供が小さな体を掌に擦りつけて、何かをねだるようにぺろぺろと指を舐めている。


「お腹でも、空かせたのかい? ふふ、お食べ」

「きゅう!」


 ぺろぺろと舐めている部分から、僅かばかりの神素を放出する。それを悟った瞬間、嬉しげに鳴いた。

 しばらくすれば、空気中にある神素を食べられるようになる。そうすれば、この子がもつ生命の息吹――命の輝きを神素へと変えられる。


 ……別に、犠牲や生贄にするわけではないよ。ただ、そこで生きている。それだけで命の輝きを発するんだ。それを少しばかり分けて貰うだけだ。



「きゅ……」

 やがて、満足したのかコロンと横になる。どうやらこのまま寝るつもりらしい。……困った。ずっと手にもっているのは疲れてしまう。


「やはり、可愛いものだね」


 ぐでっと寝転がる姿はとても愛らしい。

 しかし、困った。

 このまま寝かせておいてあげたいのだが、まだやる事がある。少なくとも、後十は生み出したい。

 でなければ、神素を確保できるほど育たない。


「ごめんね」


 起こさないように、そっと地面に移す。

 これでいい。


「さぁ、生まれなさい」


 そう呟いて両手を広げる。

 すると、先ほどと同じ光の球体が九つ地面に転がる。


 それぞれの卵に亀裂が入り、中から白・黒・青・赤・緑・茶色と多種多様な色合いをした子供達が出てくる。先ほどの子と姿は似通っているが、色が違ければ目つきも違う。


 どうやら、無事に生まれてくれたみたいだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る