第一章 大戦の傷跡

第1話 目覚めし王

 ―――かたん


 薄暗い洞窟の中で、何かが動いたのか音が反響する。

 

「……ここは、いったい」


 直前までの記憶はある。だからこそ、意味が分からなかった。何故、私は生きているのだ?

 

 ――理解出来ない。 


 奴らとの戦いで、私はあの戦いで確かに致命傷を受けたはず。

 薄暗くて見えないが、胸の辺りを触ると十字に裂けた跡がある。――間違いなく、あれは現実だった。この跡が証明してくれる。


 だが、何故治っている?

 あれが現実だとするならば、私は死んでいなければおかしいだろう。


 それにここはどこだ? 

 私はこんな洞窟を知らないぞ。 


 姉と兄も、こんな場所は創らない。

 そう確信できる。……そもそも、彼らが生み出したのは大地と海くらいなものだが。

 膨大な熱量で暗闇を焼き払い、凍て付く夜が冷やし固めて出来た大地。

 寂しさと悲しみが生み出した海。


 彼らは大きさなんて考えない。とりあえずやってみて無理なら諦めよう。が基本だ。となれば、こんな器用な場所を創れるわけがない。


 ……そもそも戦争中だ。そんな余裕はないだろう。


「灯は、ないのか」


 ――私の力で生み出せる子供達がいない。困った。

 どれくらい寝ていたのかは分からないが、力が減少し存在を維持するだけで精一杯だ。

 世界に満ちる神素も薄れている。

 これでは回復も望めないか? ――いや、その前に確認しなければならない。邪神達にどれほどの土地が奪われた……。


 両手を地面につけ、話しかける。私に教えてくれ、と。

 大地に眠る岩々が私に教えてくれる。

 あれから幾度の太陽が昇り夜が訪れたのだと、太陽の王と夜の王は私を失い邪神に決戦をを挑み相打ちになった事を。


「――そうか。すべて、終わってしまったのだね」


 私は邪神の一撃から姉を庇い、心臓を穿たれた。

 太陽と夜を体現せし王達は、私に停止の呪いをかけ逝ってしまったのか。私の回復力を信じて。

 これでも命の王だ。膨大な時間さえあれば、自然と停止も解けるし傷も治るという判断だったのだろう。


「現状は分かった。しかし、私は1人になってしまったのだね。……そうだね、私は命の王だ。例え彼らがいなくても、私の使命を――生命を体現しなければならない。命を賭して世界に太陽と夜を残した彼らのように」


 まずは、世界から消えていく神素を回復させなければいけない。神素がこの世のすべてを構成している。

 無くなってしまえば、世界を維持できずに崩壊するしかない。


「まぁ、私が私を認識している限り、神素は生み出され続けるから問題はないのだけど」


 強いて言うなら、世界に神素を撒く為に、世界を歩き回るくらいなものだ。


「私の子供達は、私を覚えているかな」


 光が入ってくる方へ歩き出す。この先に何が待ち受けるのかは分からない。

 けれど、姉と兄が繋いでくれた命だ。使命を果たし、のんびりと生きていこう。


 


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