第7話 美咲の質問

僕は美咲さんと会うために桜の木の下に来ていた。

約束を守ってくれてうれしく思った。

美咲さんは桜の木に額をくっつけいる。寝ている様にも見える。

美咲さんを包み込む様に桜の花びらがひらり、ひらりと舞い踊る。

美しい、ただそう思った。

だけどどこか悲しくて、僕は美咲さんに声をかける。

「美咲さん、何をしているんのかな?」

僕の方に振り返りながら美咲さんは答える。

「んと、充電中です」

意味は良く分からないけど、それもありだろうと思った。

「昨日は遊び過ぎて疲れました。本当は昨日までの約束だったんですけど、目的が果たせなくて今日も洋平君に会う事にしたんです」

いろいろと訳が分からない。

「目的って何かな?」

「乙女の秘密です」

小首をかしげ不思議そうにほほ笑む。

やっぱり良く分からない。

そこで別の事を尋ねる事にした。

「昨日は楽しかっただね。ありがとう」

たずねていて少しうれしくなる。

「いえ、こんなはずじゃないと思ったんですよ。あまり楽しく無かったです」

冗談の様に微笑みながら答える。怒りも残念だと言う気持ちも湧いてこない。春の木漏れ日を思わせるような笑顔だったから。

「質問良いですか?」

「良いよ」

「昨日の様な事をデートと言うんですか?」

僕はそのストレートに質問が恥ずかしくて焦る。

「別にデートじゃないと思うよ?」

恥ずかしさと焦りで疑問形になる。

「そうみたいですね。ちょっと違うみたいです」

「デートは好きな人とするものですよね?。私も洋平君も違うみたいですね」

桜の木の下で美咲さんが悲しそうな表情で答えた。

綾の表情と重なり、胸を締め上げられる。

あの日の事を思い出すのだった。

「洋平さん、大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だよ。今日はどこにいこう?」

無理をして明るく振舞おうとする。綾の事が悲しいから。それを忘れたいから。美咲さんと会っているのに日に日に綾の事が大きく感じられる。

「その前に一つ質問して良いですか?」

「良いよ」

僕は即答をした。美咲さんと話して綾の事を忘れていたいから。

何でもいいから話していたかった。

「洋平君は何をそんなに悲しんでいるんですか?」

話ていたいけど、僕は返答に詰まる。

でも怒りとか悲しみとかは湧いてこなかった。

ただいろいろな感情に胸が支配される。

答える事ができない。

「洋平さん、辛いかもしれませんが、誰かに話をすれば、話さなくても口に出せば新しい発見とか自分でも自覚していない感情とかを感じる事ができますよ。だって一人より二人じゃないですか?」

いつもの調子で綾音さんは話してくれる。まるで優しく諭してくれる様に。自分の汚い感情を吐露するのは嫌だったから、一人で怒っていたけど美咲さんに話しても良いと思った。それはきっと春だから。

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