第6話桜舞う街
僕は美咲さんと一緒に、駅前に来ていた。特に何か食べ物屋さんが多いと言う訳でも無く、マックとたこ焼き屋と松屋があるだけだった。
それにしても久しぶりに食べる食事だなと思う。
「さぁ、何が食べたいのかな?」
「やっぱり学生はマックじゃないですか?」
「そうだね。僕も久しぶりにマックを食べたいよ」
「ハンバーガーでミミズの肉を繋ぎに、成長ホルモンを打った狂牛病の牛の肉を使って、暴利をむさぼっているんですよね」
「それ以上はいけない。それは迷信だよ。噂の時代が古いのか新しいのかはっきりして欲しいよ。幅が広すぎると思うよ」
不思議そうに首をかしげる美咲さん。
「公園にいるといろいろな噂が聞こえてきますからね」
ピントのズレた回答だった。
「学生じゃ無かったのかな?」
「現役女子高生ですよ」
「天正元年生まれにしたらサバを読み過ぎているんじゃないかな?」
「だから天正元年じゃありません。ずーと後の時代です。現役JK.ですよ現役!」
そんな話をしていたらマックに着いた。
「順平さんと話していると疲れます」
そんなことをつぶやく美咲さんに対して僕は綾を重ねていた。一緒に良くマックに来ていたなと思う。
寂しさと悔しさが胸を締め上げる。
「ハンバーガーは美味しいですか」
首を傾げた不思議な動作。でも少し疲れと僕の事を気遣ってテンションを
上げようとしてくれるのが分かった。
綾・・・
僕はテンションを少し上げて行った。
「食べたら分かるよ。好みは分かれると思うよ」
そう言って店内に入る。
「はい」
このテンションの上げ方は綾に似ている様な気がした。
綾は自分がしんどくてもテンションを上げて付き合ってくれる所があった。
初めて、寂しいと言う感情を僕は知った。
綾がいるから、寂しさを人生で感じる事は無かった。
綾。失ったものの大きさに気づかされる
そんな事を考えながらカウンターに向かう。
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりでしょうか」
そんな声で現実に引き戻される。
美咲さんは怯えた様な表情で僕を見ていた。
「あのどうすれば良いですか?」
僕も久しぶりのマックだ。どんなメニューがあるのだろう。
面倒なので適当に決めた。お金も無いし。
「バニラシェイク二つとハンバーガーセット2つ。飲み物はコーラでお願いします」
「はい。バニラシェイク二つとハンバーガーセット二つ、飲み物はコーラですね。テイクアウトなさりますか?」
「テイクアウトでお願いします」
そう言いながら僕はお会計を済ませた。
「むぅー。勝手決めないでください。私のファーストフード店デビューですよ」
僕が勝手に買い物をして綾と分け合う時良く言われていたセリフだ。
綾。また落ち込む。
「まぁ。許してあげます。ハンバーガー楽しみです」
そう言ってまた話題を変えて、励ましてくれた。
「お待たせしました」
そう言ってお店の店員さんは手早く商品を袋に入れると、商品を渡してくれるのだった。
綾音さんが少しぼうっとしている様だった。疲れたのかなと思う。
「綾音さん行くよ」
「すいません。今行きます」
お店を出ると食べる場所も無いので、商店街に置かれたベンチに座っていた。そよ風が吹き、桜の花びらが舞い踊る。そんな中で美咲さんとハンバーガーを食べていた。美咲さんが両手を使って、ゆっくりと味わう様にハンバーガーを食べていた。名残惜しむかのように。
「不思議な触感ですね」
しみじみと述べる。
特に会話をする事も無く、無言で食事が続く。
はらり・・・はらり・・・
無言の二人を包む様に桜の花びらが僕達を包み込むのだった。
「あの順平さん。これってデートと言う奴ですか?」
で?デート。綾と一緒に行動していたけどデートと言う感覚は無かった。だからこれは初デートなのか?男とは単純で勝手なものだ。綾に振られたばかりなのに。
「私は初めてのデートでした」
いつのまにかハンバーガーを食べ終わった美咲さんが言っていた。見るとポテトもコーラもシェイクも飲み終わっていた。
「食事をしただけだし」
「ありがとうございました。今日はこの辺にしておきましょう。少し疲れました。さようなら」
綾を失った恐怖心が僕を襲う。もう誰も失いたくない。
「桜の木まで送って行くよ」
「良いですよ。洋平さん。ゆっくりと休んでください」
「じゃぁ。また明日」
「えっ?」
「明日、公園の桜の木の下で会おう」
「洋平さんはわがままですね。本来は今日までの約束ですけど、明日会いましょう。商店街の出口まで送ってくれますか?」
「良いよ。そこまで一緒に行こう」
そう言って僕達は商店街の出口まで桜の舞う中歩き出すのだった。
桜の花びらは僕の悲しみを溶かす様に、美咲さんを守る様に舞い踊り包み込むのだった。
続く
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