第4話 不思議な少女

僕は左肩を押さえつつ、桜の木の後ろから現れた少女に動揺を見せつつ、僕はにらむ。

「だいじょぶですか?」

とても苦しくて弱弱しい声だった。僕が答えないと消えるかもしれないと言う儚さを感じるのだった。

僕は動揺と綾との二人の思い出の場所を汚された怒りを隠して質問をするのだった。

「君は?」

僕は間の抜けた質問をする。

口調が怒りっぽくなったのは仕方ないだろう。

僕と綾との思い出が詰まった場所と言う事と、左肩の痛みのせいだ。

彼女は右手の人差指を顎に乗せて、少し考え事をしているようだった。

質問の意図が分かっているのか?

こいつはもしかして変な人かもしれない。

変な奴に関わる必要は無い。醜態を見られた動揺と質問が上手く逃げられなかったのを悟ると逃げだそうとした。方向転換に行おうとする。

だが上手くいかなかった。

ぽてっ

僕は無様にこける。

僕は桜の木を蹴り過ぎて足を痛めていたのだ。

痛い。

自業自得だ。

「大丈夫ですかー?」

彼女はかがみこみ優しく訪ねてくれた。

僕は直ぐに立てないよう事と醜態を見られたと言うか知られ過ぎ事に対して、恥ずかしさを紛らわそうとして質問を重ねてする。

「君は?誰?」

いろいろな意味を込めてもう一度訪ねたのだった。

どうして僕と綾の大切な思い出の場所にいるのか?

この場所で何をしているのか。

そして本当に誰なんだと言う思いだった。

やはり感情的で怒りと苛立ちを隠せず強い口調で尋ねるのだった。

「えーと」

名前を悩む人なんているのだろうか?

危ない気がする。感情的になっているから危険信号を無視するのだった。

ただ誰かに当たりたかった。

「私はあの桜の様に、美しく咲くと書いて桜美咲と言います」

ふわっと風が吹き、桜の花びらが舞い散る。

桜の花びらに包まれた不思議な少女。

僕は怒りを忘れて彼女を見入るのだった。

「あの立てますか?」

優しく訪ねてくる。

僕の感情を無視した様にのほほんと質問をするこの少女に怒りを覚えていた。

俺と綾の秘密の思い出の場所なのに。

こんなに俺は感情的なのに。

一体何なんだ。

だけど彼女は春に吹く風の様にさわやかで優しかった。

僕の怒りに満ちた疑問に対して僕に話しかけてくるのだった。

「大丈夫ですか?」

「大丈夫だったら立っているよと言葉を飲み込む。

僕は桜美咲を睨み付け、心の中で毒づく。

あまりにみじめな返答だったから。

「あの、痛いですか」

「あのどこかへいけよ。僕は見世物じゃない」

これ以上二人だけの思い出の場所を汚さないでくれ。

そんな意味を込めて言う。

まだ綾に捕らえられている自分がいると思い知らされる。

「もしかして、私の投げた缶コーヒーが原因ですか?」

バカかこのあほ女?

そんな事とは無関係に僕は彼女は話しかけてくる。

彼女は、しゃがみ込んで、地面に落ちた缶コーヒーを拾い上げて土を払い、缶コーヒーを両手で包み込むように持つとそっと僕に差し出した。

「慰謝料です」

その無神経な言葉で僕はついに切れてしまった。

「どこかに行けっているんだよ!放っておいてくれ」

でも無様にこけて、切れているなんてどれだけ無様だろう。

地面に座り込んで切れている姿は滑稽だろう。

とても美咲は心配そうに僕を覗き込んでくる。

僕の状態が分かったのだろう。泣きそうな瞳だった。

「あのお医者さんを読んできましょうか?」

僕と視線を合う。とても悲しそうな瞳だった。

その瞳は綾とこの桜の木の下で最後にあった時の瞳を連想させる。

やめてくれ。

そんな瞳で見ないでくれ。

その瞳に耐えられなかった。

僕は叫んでいた。

「俺の事を思うのなら消えてくれ」

僕は叫んでいた。

桜美咲はとても寂しそうなほほ笑んだ。

「分かりました。さよならです」

さようなら。

この一言は寂しすぎる。

たぶん、こんなに寂しい言葉は無い。

優しく桜の花びらが降り注ぐ。

僕は一瞬目を閉じる。

再び目を開けると、彼女の姿は無かった。

彼女のさよならの言葉と共に夕暮れの中に消えてしまった。

まるで桜吹雪が連れ去ったかのように。

僕はその寂しい言葉を胸に泣いていた。


                          続く

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