第2話

少女


夜道は嫌い。暗くて怖い。

不安な感情は、纏わり付く妄想と襲いかかるような恐怖感。

自然に小走りになってしまう。

そういえば、さっきから、だれかが後をつけてくる。

まさか・・・気のせい気のせい。

ふふ、ただの妄想、妄想よ。


今日の夕焼けはホンとに綺麗だった。

だれもいない教室で彼と二人で眺めた夕日、綺麗だった。

あの時、わたしたちがああなったのはきっとそう、自然な現象だったはず。

今でも彼のぬくもりを感じる。

私たちは不思議な時間を漂った気がする。

そう、それは確かな記憶で・・・あの時、赤い夕日が私たちを狂わせた。


少女はいきなり背後から抱きすくめられた。

「!!」

恐怖に呑まれて悲鳴が喉の奥でつっかえた。

そう、暗い夜道ーー。

少女は小さな叫び声を漏らしたが、背後の男の匂いと自分以外、だれもいない。


次の刹那、少女の身体は地に叩きつけられ、学ランを着た男・・・少年が少女の上に覆いかぶさってきた。

少女は訳も判らず硬直した。

「ひぃぃっっ!!」

少年は少女の頬へナイフをちらつかせながら。

「あんなの、あんなの君じゃない・・・君じゃ・・・あの子じゃない!!」

そう叫ぶと少女の制服を一気に引き裂いた。

「い、やだ・・・。・・・あなた・・・」

少女は必死にもがき、少年の身体を引き離すと逃げようと立ち上がった。

少年はすかさず少女の腕をつかみ、その身体を地面にたたきつけた。

少年は何度も何度も少女の頭を殴りつけた。

少女はやがて力を失ったように抵抗を止めぐったりと虚空を見つめていた

。少年は少女の口を左手で塞ぎ、右の手でナイフを喉元につきたてた。

「い・・・いや・・・」

「あばれんな。」

「タス・・・タスケテ・・・い・・いや・・・」

少年は少女のスカートをナイフで破り、下着を引き千切った。

少年は少女の身体を犯した。少女の眼はうつろで魂はそこには存在していなかった。


ことを終え、少年は立ち上がった。

その下で、ぼろぼろになって最後の力を振り絞るように地を這う少女。その背中に銀色の刃物が振り下ろされた。

「消えうせろ!!このニセモノ!」

少女の全ての思考が飛散した。

銀色の月影へ紅が飛び、闇は紅く染まった。


世界が暗転した。


少女は絶命した。



少年・証言


「彼女はとても綺麗なコだった。まじめそうで、素直そうな。何より純粋で優しい、聖母マリアのような子だったんだ。教室で、教室であんなことするような子じゃないんだ。僕は、僕は、あこがれていたんだ。誰よりも、誰よりも神聖で大切な僕の“想い”だった。」

「・・・・」

「人は見かけによらないとは云うけれど、でも、僕は信じている。あれは彼女じゃない。彼女じゃなかったんだ!!だから、だから僕は、彼女を汚す偽物を、僕は消した。それだけだった。」

「その“偽物”はその後?」

「その後?ああ、もちろんあの偽物は、真っ黒な夜の海、深い深い海の底へ呑み込まれた。もう誰の眼にも触れぬよう。」

悲しみにうち震え慟哭していたはずの彼の表情が悪鬼のごとく豹変し、歓喜に感極まったがごとく叫んだ。

「そうさ、彼女が!僕のマリアが汚されぬように!!」

少年は媚びるような視線を男へ向けた。

「ねぇ?僕は、僕は何か間違ったことをしましたか?僕は、正しいことをしました・・・よね?」

少年はニヤッと薄気味の悪い微笑みを浮かべ、男を下から見つめた。



男は少年に一枚の写真を渡した。写真には茶髪のOL風の女が写っていた。

「ああ、この女。」

少年は冷たく無表情な視線を写真に落とした。

「この女は、あの時、僕をぐっとにらみつけて来たんだ。なんにもしていないのに。ただ、混んでる電車でさ。てすりに掴まって揺られていただけさ、僕は。なのに、あの女はシートに座っていて、一番はじっこにさ。」

「そう、それで、それで僕をにらみつけた後、勝ち誇ったようにさニヤっとして笑ったんだよ、僕のことを。嘲るように笑ったのさ。」

「ムカついた。だから、だから消したんだ。」

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