第29話 ダンジョンクエスト開始
と言うわけで……。
聖戦士の教会にやってきた俺たちは、ロータスの顔パスで警備厳重な地下ダンジョンの入り口をあっさりと開けてもらうのだが、目の前の、いかにも魔境と行った感じの不気味なシワが何重にもよった岩の洞窟に、
「あ、あれ……ちょっと……」
まるでビビることもなく、近所の散歩でもするように、あっさりとその中に入るのだった。
「まて、まって……」
俺は慌てて駆け寄って、最後尾に追いつきながら思う。
いや、ダンジョンだぞダンジョン。
こんなあっさり入って行って良いのか?
入るのにいろいろ装備揃えたり地図を手に入れたりそう言うのはなくて良いのか?
中には魔物がうようよしてるんだよな? そんなところに気軽に手ぶらで入って良いのか?
俺は、このお気楽な連中に説教しようと、
「みんな、ちょっとよく考えてから……コモちゃんも……」
まずは前にいる幼馴染に声をかけようとするのだが、
「うわーこれがダンジョンなんですね。どこまで続いているんですか」
ビビっている俺と違って、まだこの異世界の怖さがピンときてないかもしれない、能天気なコモちゃんは、呑気にそんな質問をする。
「まだ最深部まで探検した者はおりませんが、八十階層までの存在は確認されております」
ロータスがそれに答える。
「へえ、そんなに……と言うかどれくらいすごいのか正直実感ないけど……」
確かにどれくらいすごいのかよくわからないな。
「その時、最深部到達クエストを受けもった聖戦士の探検隊は、五十人編成で一ヶ月の旅程を経てやっとそこまで到達したのですが、戻るにはさらに一ヶ月以上かかったと言うことです。聖戦士の中でもかなり屈強で凄腕の者たちばかり集めたのですが、それでも少なからぬ犠牲者を出しながらやっとのクエスト達成となったとのことです」
仲間の聖戦士の苦難の解説をするロータスの顔は少し苦渋に満ちた様子になる。それは、このダンジョンの攻略の困難さ、恐ろしさを伝えてくる。
「じゃあ、あれなんだよね。やっぱり、モンスターが中にはうじゃうじゃいて、入ってくる冒険者なんかを殺そうと手ぐすねひいて待ってるんだよね」
「まあ、そういうことになります……」
「まて、まって。じゃあこんなあっさり歩いてて良いのか!」
俺は、ロータスの無責任な発言を聞き流せずにおれは思わずツッコミをいれるが、
「まあ、このくらいの階層じゃ……」
横目でローゼを見る聖女様。
——ああ、そうか。
「む!」
「そうですローゼ様。モンスターどもはローゼ様が
そりゃ、モンスターもビビって出てこれないよな。魔王クラスが軍団でせめて来るのをいつも一瞬で全滅させていたローゼだものな(第3話参照)。モンスターたちは野生の勘でこんな危ない奴の前には出てこなくなるよな。
でも、
「ええ、じゃあ。せっかく異世界にきてダンジョンにまで入ったのにモンスターとかまるで見れないんですが……なんか心残りで帰りたくなないな(チラっ)」
コモちゃんはロータスをチラ見しながらちょっとわざとらしい口調でそんなことを言う。
ああ、これは分かっててやってるな。
ロータスが早くコモちゃんを元の世界に返したくて、ダンジョンに連れてきたってこと分かってて、拗ねて見せていじってる感じだな。
「そ……それは……もっと深い階層に行けば……」
この幼馴染が、そもそも本当にダンジョンを見たいかは謎だ。コモちゃんはオタクな会話ばかりの俺と話合わせられるくらいだから、少しオタクっぽいとこあるし、ダンジョン系のゲームとかも少しはやっているのを聞いたことがあるが、そんな深くはまっていたとは思えない。どちらかと言わなくても一般人よりの彼女は、ダンジョンに本気でこだわっているとも思えなかった。
だが、
「む!」
「確かに、このままじゃつまらないですね。ローゼ様の力で一気に一番下まで行って見ましょうか!」
言われた言葉をその通りにしかうけとれない二人が運悪く一緒にいた。
「……あ、待って、そんな本気では……」
危機を察して止めにかかったコモちゃんの言葉も虚しく……。
「
ローゼが杖を目の間に差し出すとそれが巨大なドリルに変わる。それを地面につきさせば、土煙をあげながらドリルはすぐに地面の下に消え、そのまま下の階層に達しその地面を掘り進んでいるのか? 岩を砕く物凄い音が穴の中からして来るのだが、さらに下へ下へとドリルが進んでいるのか? 音はどんどんと遠くなっていき、
「止まった……?」
ついにかすかな騒音も聞こえなくなったが、これはダンジョンの最下層までドリルがたどり着いたと言うことだろうか?
「む!」
「さすがローゼ様。あっという間にダンジョンの最下層まで穴を作ってしまいました」
「む!」
「じゃああとは……」
俺は嫌な予感がして後ずさるが、
「む!」
「飛び込むだけ!」
「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
後ろからサクアに尻を蹴られて、あっさりと穴の中に落ちて行ってしまうのだった。
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