第28話 幼馴染がダンジョンに興味を持つのは間違っているだろうか?
俺とローゼ達が店先で騒いでいたら、何をされるのかとびびった店員たちがみんな逃げ出してしまい、いつのまにかもぬけの空の店内であった。
「コーヒー飲めないのかな」
とコモちゃんは、残念そうというかあっけに取られた感じでポツリと呟くが、
「む!」
ローゼが杖を一振り。すると、店先のドリッパーにペーパーフィルターが浮かんで勝手にセットされ、挽いたコーヒー前がサラサラとその中に入り、宙に浮いたポットから湯が少しずつ注がれる。
すると、ドリッパーの下のポットにコーヒーがたまっていき——数分で完成。
「すごい……魔法がほんとにある世界なんだ……」
この一連の流れを見て、さすがにびっくりした様子の幼馴染だった。
「正直まだなんとなく、壮大などっきりとかそういうのの可能性疑ってたけど……こりゃ信じるしかないわ。——私すごいところに来ちゃったみたいね」
で、この世界の人にしてみれば、今更魔法に驚くその姿が新鮮で、みんなコモちゃんをじっとみていてしまうが、
「とりあえず飲もうか」
そのままずっとぼんやりして、コーヒーが冷めてしまうのもなんなので、そのままみんなで店の中に入っていって、コーヒーを飲みながら話を続ける。
俺がなぜこのチンチクリン魔法使いに召喚されたか。そのあとどんな事件に巻き込まれたか。今も毎日魔法使いと聖戦士に挟まれながらヒヤヒヤの毎日をすごしていること。それがいかに大変なのかということ。
でも、
「やっぱり……楽しそう……」
「え?」
幼じみはやはりそう言うのだった。
毎日がハラハラドキドキ。良く胃に穴があかないものだと自分で自分に感心している俺にしてみれば、『楽しそう』とは随分な言われようと思うのだが、
「でもあんたニコニコしてるよ」
「えっ!」
言われてみれば、自分がいかにひどい目にあったかを語る俺の口調は熱が入り、確かに少し楽しげな気分にならないでもなかったが……
思い返してみれば良い思い出的な話で、決して好きこのんでやっているわけではないが、
「でも、日本にいる時より生き生きしてるな」
と言われてしまえばそれ以上は自分で自分を見ることのできない俺はだまるしかない。
「どうかな……なら私もこっちに住んで見るのもどうかな? 面白そうかも?」
そして、調子に乗った幼馴染はさらにそんなことを言いだすのだが、
「使い魔さん……ローゼの使い魔さん」
さっきからいるかいないかわからないくらいに静かだった聖女ロータスが、突然俺の耳元で小さな声で囁く。
「この人はこのまま居座るつもりですか?」
——居座る?
「元の世界に戻らないんですか?」
——日本に?
「にほ……? 使い魔さんのいた世界ですか? ならそこです」
確かに今コモちゃんはこの世界にずっといたいようなこと言ってたな。
でも、
「飽きっぽいから。この世界に飽きたら帰ると思うけど」
「どうしたら早く飽きますか?」
どうしたら?
「そりゃ、異世界っぽいのを満喫したら……」
「それはなんですか?」
異世界っぽいの? 俺ら日本人がそう思うのって言ったら……
ここの街中は、このコーヒーショップもそうだけど、居酒屋メニューが出てくる食堂タベルナとか、妙に日本の街みたいなとこがあるし異世界に来たと言う実感が薄い。エルフがいるとか獣人がいるとかドワーフがいるとかは異世界っぽいけど、確かに俺も時々異世界にいるって言うことをふと忘れる瞬間があったりするのも事実だ。
なら、俺らがこれが異世界! と思うような経験ってなんだろ。
ちょっと考えて見る。
なんだろ? なにか冒険かな? それもぜったい元の世界になさそうな……
「ダンジョン……?」
俺は何気なくそんな言葉をつぶやくのだったが、
「ダンジョン! なんだそんなところですか! お安い御用です!」
ロータスは満面の笑みを浮かべて言うのだった。
「なら……さっさと行きましょう! すぐ今、すぐ!」
*
ダンジョンと言う話を聞いてすぐにノリノリになった
「ねえ、ダンジョンなんてあるの! 本当にあるの!」
俺もそんなものがこの街にあるなんて今の今まで知らなかったが、
「聖戦士の教会の地下がダンジョンになっているんです」
ロータスがウキウキした表情で言う。
「歴史ある施設の地下に知らぬ間にダンジョンが発達して、今のところ聖騎士協会がそこをなんとか抑えているのですが、とてもエキゾチックなダンジョンが広がっているんですよ」
「へえ——」
コモちゃんも随分興味を惹かれているようだ。
確かにダンジョンと言ったら異世界の花形といった感じだ。
様々な魔獣に、陰謀。謎。世界の秘密。階層主の大モンスター。パーティメンバーの協力、確執、和解。人生模様。出会いと別れ。戦いと安楽。
これが異世界と思えるような体験が凝縮してそこにあると言って良い。
コモちゃんも、それをみれば異世界に満足して、日本に帰ると言い出すかもしれない。
その方が良い。俺だけでなく、コモちゃんもこの世界から離れられなくなる前に、ちゃんと帰った方が良いのだが——なんとも俺の心は、微妙な様子のままモヤモヤとしてしまうのだった。
幼馴染が元の世界に帰る——そのことになとも名状しがたきモヤモヤを、俺は感じてしまうのだった。
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