第27話 異世界サードウェイブ
「うわ! 本気で異世界なんだ! なにこれ!」
窓から入って来た
さらに挙動不審になるロータス様と「修羅場! 修羅場!」と面白そうに騒ぐサクア、興味なさそうに冷蔵庫からルートビアを取り出して飲むが事態をまとめてくれるとかそういうことは一切してくれなさそうなローゼ。
誰かに事情を説明しようとすると他の人から突っ込みが入って、まるで話が進まない状態。その様子をポカンとした様子で眺めるコモちゃん。
こうなったらもういちいち説明していても拉致があかないので、コモちゃんに実際に異世界を見てもらうしかない!
そう思った俺は、問答無用で全員を外に追い出して、そのまま街中へと歩き出すのであった。異世界に来てしまったなんて、あまりのことにショックを受けて、コモちゃんが前後不覚になってしまったらどうしよう。そんな心配をしながらの苦渋の決断であったが、
「ねえ、あれ竜? あれ竜なの?」
しかし、幼馴染は、意外とすぐに順応して、そとのエキゾチックな風景を脳天気に楽しんでいるようであった。
「竜が貨車引いてる? 竜車? 竜車でいいの?」
俺が初めてこの風景を見た時にはもっと愕然としてしていまい、足元ががくがくとして危うく倒れかけてしまいそうなくらいであったが……
コモちゃんは昔から度胸が座ってる子だって思ってたけど、この慌てなさは大したものである。まあ、先に俺がここにいたので、たった一人で異世界に放り出されたのよりはましだと思うが、それにしてもたいしたものであった。
今の問題はむしろ、
「で、なんなんですかこの女。使い魔殿もいつのまにか女連れ込むとは、えらくなったものですな」
窓から異世界に幼馴染がやってくると言う信じられない現象をこの二人にどう説明するかだが、
「む!」
「えっ、そうなんですか。ローゼ様。やることやってれば、私生活は関与しない。使い魔としてしっかり働いてくれるなら、その他の時間に何をしようが構わない……まあ確かに私もこのイケてない男子がどこでどんな女と乳繰り合おうが関心はないですが」
「む!」
「え? 違う? ヤルことをヤってても構わない。私生活は関与しない……でもあの使い魔殿がそんな甲斐性があるとも思えませんが」
無意味にシモネタに脱線しかけている魔法使いサイド二人であった。
「む!」
「え? 使い魔殿も所詮は男。衝動には逆らえない?」
「む!」
「え? 昨夜も使い魔殿は衝動に身を任せた? ひどく使い魔殿のすごく興奮した状態が使い魔を結ぶ
「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
俺はケラケラと笑いながら人のプライベート気軽にバラそうとするこの悪魔二人の言葉を大声でなんとかごまかすのだった。
「どうかしたの?」
コモちゃんは街の風景に夢中で、ローゼたちの話は聞こえてなかったらしい。
「なんでもないと言うか……」
そっとしておいてほしい。
昨日の夜、酔って帰ってついムッシュがムラムラ……ローゼたちとつるんでいるせいでこの
「まあいいけど。でも、なんだか、あんたらしくなく随分騒がしい人たちとつるんでるのね」
俺のあまり追求してほしくないことは、長年の付き合いでの阿吽の呼吸で無視してくれたコモちゃんは、ローゼとサクアを見ながらちょっとびっくりしたような顔をしながら言う。
こちとら付き合いたくて付き合っているわけじゃないわいな。
いうこと聞かないと、闇から闇に葬られてしまいそうになったり、放っておくと世界が滅亡しそうになったり、こいつら悪評ばかり目立つけど悪気はなくて影では街のみんなのためになるようなこともたまには——ごくたまにはやっていたり……
「ふふ」
「……? どうかした?」
「なんだかあんた楽しそうね」
「へっ?」
そんなわけはないと、俺は強く反論しようと思うが、心を見透かしたかのようにじっと見つめるその真っ直ぐな目を見ると俺はそれ以上何も言えなくなってしまうのであった。
*
さてその後、コモちゃんは異世界から来た幼馴染だという説明をみんなにちゃんとしようとしたのだが、立ち話もなんなので……と向かったのが最近できたコーヒーショップであった。
で、
「
店にはいって驚くコモちゃん。白木とかがふんだんに使われたオシャレな感じの店内。カウンターにはドリッパーがずらりと並べられて、客の注文に合わせて
まあ、この頃日本でも流行っている系のコーヒーショップだね。
サードウェイブコーヒーとか呼ばれている、産地や抽出方法にこだわったコーヒーをだすような店のことだ。
「スタバとかがあったら、異世界にまで進出してんだ、さすが! って笑ってすましたところだけど、こんな日本の最新のコーヒショップ見たいなのが、あるとなんでこの中世世界でこんなのあるんだってつっこみたくなるわよね」
コモちゃんの、スタバは許せて、サードウェイブは許せないその境目が微妙であるが、
「いやいや、そもそも中世ヨーロッパ世界にコーヒがあるのがおかしいんじゃないか?」
俺は、そういう細かい話はおいといて、そもそも論を言う。
「そうなの?」
びっくりしたような顔のコモちゃん。
俺は首肯しながら言う。
「……そもそも中世という漠然とした言い方でどの時代をさすのかが問題だが、一般に十四世紀のイタリアルネサンスが始める前まで、長くても東ローマ帝国の滅亡の十五世紀までとすれば、十六世紀以降にヨーロッパで一般化したコーヒーが中世世界に普通にあると言うことがおかしい」
「へえ」
「特に、コーヒーのドリップ式抽出に至っては1800年頃の発明だし、この店で使っているペーパーフィルターはメリタが1908年に作り出すまでなかったと言う。これはもう中世とはいえないだろう。少なくとも、この中世風世界でドリップ式でコーヒーを入れる店があるのは変だ。もちろんエスプレッソ出す店でもおかしいけどね」
「ふうん……」
「まあ、結局、この世界は偽中世風であるが、中世と同じ物資、風俗の世界ではないということだ。——でも、サードウェイブコーヒー風の店があるのはどうかと思うけどね。そもそもサードウェイブコーヒーと言うのは、コーヒーが大規模に一般に広がった十九世紀後半から二十世紀半ば以降までつづくファーストウェイブ、それ以降にスタバとかに代表されるシアトル系コーヒーチェーンとかが高品質のコーヒーを出すものが隆盛となったセカンドウェイブ、その下地があってのサードウェイブだ。大量消費世界であり独自のイノベーションの文化を持つアメリカと言うマーケットの中での積み重ねたコーヒーショップの歴史があって出現した形態と言える」
「なるほど」
「事実、同じように消費社会の日本では実はアメリカのサードウェイブコーヒーブームのの元になったと言う日本の喫茶店文化がありながら、セカンドウェイブコーヒーショップの大規模な受け入れはあっても、サードウェイブのような文化をつくりだすことはなく……」
「ちょと、待って……」
「ん?」
コモちゃんが俺のサードウェイブコーヒーに関する講釈を途中で遮る。
あまりの名解説に感動の言葉でも伝えたいのだろうか。
「ちょっと、あんた、その手の……」
「へ? スマホ?」
違った。
「そうよスマホよ。サードウェイブでも何でもいいけど、異世界で最新コーヒショップがあることより、あんたが普通にスマホ使ってるその方がおかしくないの?」
「いや……」
そりゃ、スマホが使えると言うのは電波も来ていると言うことで、こんな世界に日本のキャリアがアンテナ立てているわけもなし……
俺がコーヒーの歴史やサードウェイブについてすらでスラスラ話せるわけでもなく、スマホを見て検索しながらだから言えたわけだが、
「む!」
「え! そういうことですかローゼ様!」
何だどうした。俺とコモちゃんの会話を聞いていたローゼが何やら思いついたようだ。
「む!」
「はい。使い魔殿がインターネットとかいう下等魔術を通して、スマホやPCとか言う魔道具が使えるようにと繋いだ、世界の抜け穴をこの女性がくぐり抜けて来た」
「む!」
「ひえー! なるほど。使い魔殿のスマホには知り合いの登録がこの女性一人しかなく……」
「む!」
「……ぶっちゃけ、実在する女性だと思わんかった。使い魔殿が見栄をはって仮想の存在を作っていたんだと思ったと。仮想の存在扱いなので、仮想世界を通って彼女は入り込むことができたと……」
なんかこのクソ魔法使いコンビに散々の言われようの俺だが、登録云々は事実なので反論のしようもない。なので、俺はぐぬぬと言う顔をしながら下を向いていたのだが、
「……ん、で私がこんなとこに入り込んだ理由がわかったってことで良いかな?」
「む!」
「その通りです。それに戻るのも簡単にできるでしょうとのことです。あなたはローゼ様の転移大魔法の特異点ですので、理を超えて世界の行き来ができるようになったと思ってください」
「ふうん。……そんな簡単に戻れると言うなら……」
今まで子供時代から散々翻弄された、
そして、
「もうちょっと、
俺の安寧は、今日もまた完全に遠のいたことを知るのであった。
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