第34話

 ヴィレアゾットに戻ってきたのがいつだったか。ギルドに報告をしたのがいつだったか。報告書を書いたのは誰で、どうやって、どんなことを書いたのか。そもそも帰還までの間は――

 それらの疑問の答えは、全て空白だった。リコネスは、恐らく自分が行ったであろうことを全て空白にしていた。消したのか、消えてしまったのか、いずれにせよ彼女は何も覚えていないし、覚えていないことすら認識していないようだった。

 ただ、それは対外的に表れるものではなかった。彼女はそうしたことを誰に尋ねるわけでも、告白するわけでもなく、空白のまま通り過ごしていた。

 だからというわけではないが、リコネスは当然として、依頼失敗の責任と処罰を受けることになった――少なくともそれは間違いないと、伝えてきたのはローザである。

 報告書が提出された翌日、上司である彼女が先にそれを確認し、近く正式に処罰が下されるだろうと明かしてきた。その内容についてはローザの推測だが、最も現実的だと思われるのは同行員業務からの除外だった。ただしそれに次いで考えられる可能性は、解雇である。

 いずれにしても――リコネスはそれら全てについて、全くの空白だった。

 彼女はただひたすらに、震えていた。何も語らず、目の焦点も合わず、自宅に帰っているかどうかもわからないほど、茫然自失として絶望に沈んでいた。

 ローザが見たリコネスの姿はほとんどが、自分のデスクで俯き、震えながら、口の中で何かを呪詛のように呟き続ける、壊れた少女のものだった。

「私は……見殺しに、した……私は、また……冒険者を……何もできない……」

 全ての生気が失われていた。光を灯さず、何も映し込まない瞳が見つめるのはなんだろうかと――ローザは不意に考えてしまう。

 そんな壊れた少女が多少なりとも顔を上げたのは、帰還から丸二日が経過した頃。

 依頼の再発行と同時に、オデッサの救出依頼が、ギルドから提出された時だった。

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