第9話
「と、まあこんな感じでしたけど、依頼は達成です!」
「貴女がいいならいいけどね、別に……」
包帯でぐるぐる巻きにされた姿で元気に笑うリコネスを見ながら、ローザは呆れ半分で肩をすくめた。
依頼から帰還して、また丸一日休んでからのこと。提出された報告書と満足げな部下の顔とに、言い知れない眩暈を覚えたのだが……ともかく。
「言っておくけど、労災が下りるかどうかはわからないわよ」
「そんなぁ!」
ショックの顔に変わって頭を抱えるリコネス。しかしそれもすぐ、また満足げなものに戻った。
「いえ、でもいいんです。戦う冒険者さんたちを報告できましたから」
「……そんなんでいいわけ?」
「いーんです!」
断言して、リコネスは上司にずいっと詰め寄った。眉を吊り上げ、真剣な顔で。
「私が同行員になったのは元々、冒険者さんの勇敢な姿を克明に残したいと思ったからなんです」
(肝心の冒険者の活躍を見逃してたみたいだけど)
という言葉を、ローザは飲み込んだ。言わずにおいてやることにして、彼女の話に乗る。
「そういえば履歴書にも、そんなことが書いてあったわね。冒険者に憧れているとか」
「はいっ」
今度はぐいっと背筋を伸ばし、胸を張る。どこか得意げな顔で、リコネスは自分の腰に手を当てた。
「それはそれはもう、憧れすぎて冒険者のライセンスまで取っちゃったくらいなんですよ。町の外に出る依頼はやったことありませんけど」
「まあ……貴女には受けさせられないわね。危なっかしくて」
「でも同行員なら、できると思うんです! 今回だって無事に成功しましたし」
無事かどうかは……とローザは訝しくリコネスの姿を上から下まで見やったが、結局何も言わず、吐息するだけに終わらせた。ある種の優しさかもしれない。
「とにかく私は、これからもっともっと困難な仕事をこなして、ランク二の依頼に同行できるようになりたいんです! その方が、冒険者さんたちの勇ましく戦う姿を見やすいですから!」
「ランク二に、ねぇ……」
ローザはどこか含みを持たせて言うと、リコネスから視線を外した。身体の向きまで変えて、デスクに向かって書類をぱらぱらと眺め始めてしまう。
一方のリコネスはさして気にした様子もなく、天井を見上げて意気込みに拳を振り上げていた――意気込みすぎて、ローザの呟きが聞こえないほどに。
「貴女が希望するなら、すぐに叶うと思うけどね」
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