第4話

「貴女がいきなり二日も寝込んだのは、これが原因だったってわけね」

 報告書から顔を上げて、言ってきたのは上司、ローザである。

 リコネスは精一杯に説得力を出そうと、力強く言い放った。

「貴重な情報を書き残せたのは、ギルドに対する大きな貢献でもあると思います!」

「休んだ分の給料は引いておくわね」

「がーん!」

 頭を抱えるリコネス。だがそれを無視してローザは改めて報告書を見やった。半眼で。

「それで……なんでこんな形式になってるわけ?」

「格好良くできたと思います!」

 パッと表情を力強いものに変え、また大きな声で言う。

 報告書は、職場に復帰してから丸一日をかけて書き上げた力作だった。

 その評価を期待して、リコネスは眼前の上司をきらきらとした瞳で見つめた。

 思えばそれほどしっかりと見るのは初めてだったかもしれない。常に何かで怒られて、やや目線を外すことになっていたような気がする。

 ローザ・エヴァン。二十五歳だったと記憶している。

 黒く真っ直ぐな長髪に、切れ長の目。それほど痩躯というわけでもなく、平均的に見えるが、発される気配からナイフの持つ鋭い細さと、鞭のしなやかさを思わせる。

 声もそうした雰囲気と同質のものだが、奥底に鈍器のような迫力があった。

 総じてリコネスは、武器っぽい人だと感じていた。

 そんな上司は、満足げな部下とは対照的に悩むような顔を見せて、

「まあ……最初よりはマシだからいいわ」

 渋々といった様子で肩をすくめた。そして、今度はそれに対して不服そうなリコネスに、別の紙を突き出してみせる。

「ともかく。早速だけど次の仕事よ。二日も休んだ分、しっかり働いてもらうわ」

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