第6話 発進! 黒鉄の城テスラ!

「其処までだテスラ!」


 そう叫んで、俺とティナは屋上に繋がるドアを蹴破る。


 飛び出した屋上の空は漆黒の雷雲が迫る静かな空。幸運にもまだ雨は降っていない。天は俺達に味方しているようだ。


 もし降っていたら濡れた床から電撃を喰らって瞬殺されていた可能性があるからな。本当に危なかった。


「やっと来たか! 歓迎するぞ少年少女! こいつは君達にお返ししよう!」


 テスラロボはドアのすぐ横の壁にチビを投げつける。


 既にボロボロのチビはぐちゃっという嫌な音を立てて、壁の染み一歩手前の姿になっていた。


「あっ、チビ!」


 ティナが悲鳴を上げる。


 ショゴス……いやチビは力なく崩れ落ち、なんとか残った手のひらサイズの体組織が震えるように動いているだけだ。


「よくやった。戻ってこいチビ」


 俺はそう言ってチビに手を差し伸べる。


 小さくなったチビは俺の腕を伝って胸ポケットへと滑りこんだ。


「ふははは! ショゴスなどに愛着を持つのか? 何時手を噛むかも分からない危険な奉仕種族だぞ?」


 俺はチビを胸のポケットに入れて保護した後、屋上の給水タンクの上に立つテスラ、そしてテスラロボと向かい合う。


「それって飼い主が悪いだけじゃないか? 愛情不足だよ愛情不足」


「……ああ残念だよ有葉緑郎。君と私は通じ合えるのではないかと思っていたんだ。何故邪悪を邪悪として断ち切ることができないのだ」


「俺はよく話し合って、よく分かり合えたつもりだよ。なにせお互いがお互いをはっきりと不倶戴天の間柄だと認識できているんだから」


「不倶戴天、な!」


 バチバチという音、そして明滅する紫光。


 テスラは赤い髪をかき上げ、緑の瞳で俺を睨む。


「……残念だ」


 情念さえ漂わせるその姿に俺は密かな戦慄を覚えていた。


「非常に残念だ。なぜだか少し腹立たしいよ。君は私の友人に似ていた。だからなのだろうかね……まあ全ては過ぎたことだ」


「ハワード・フィリップス・ラブクラフトのことか?」


「そうさ。ブラザーフッドの若き支部長。プロヴィデンスの守護者。彼が居たから私はブラザーフッドに与したし、彼が居なくなったから私はブラザーフッドから抜けた。彼は私の数少ない理解者だった。君と同じように小説家を目指していたよ……まあ、支部長としての仕事に忙殺されて大成はできなかったがね」


「…………」


「なあMr.ロクロー、今からでも遅くは無い。筆を折れ。物語はそれを作る者に救いも、幸せも、何一つ与えない。なのに君は物語に全てを、己のささやかな幸せさえも、いやそれどころかこの世界さえも必要なら捧げるのか?」


「今更だよ。今まで本を読んだも、物語を書いたのも、そうせずにはいられなかったからだ。だから俺はこの力を手に入れた。お前だってそうだったのだろうテスラ? 止められなかった。止める気も無かったか? だってそういうものだものな、俺達のような望者アクターという存在は!」


「ははは! 違いあるまい! 良いだろう筆を執れ! そして全てを失い、夢の如く儚くなれば良い! それが我らに似合いの末路だ! 欲の望者共にはな!」


「ああ、そうだ。俺は、俺達は、ここで夢の如く命を燃やそうじゃないか」


 俺の両手に具現化する朱金色の本と銀色の万年筆。これこそが俺の中に宿る神。たった一つの可能性。


 そうだよ。好きだ。そして人として持つべきであった多くを捨て、人が尊いと思う多くを捨てた。親を、友を、初恋を、社会との繋がりを、数多く失ってしまうことさえ気にならなくなっていた。


 もはや物語を通じてしか世界を見ることができなくなっていた。


 物語、それが俺の全て。だからこそ、クトゥルーの力を与えられたあの時に、かの旧支配者が持つ最も詩的な部分が俺へのギフトとして選ばれたのだ。


「最終決戦だ、ニコラ・テスラ。幾らお前が賢しら顔して言葉で繕ったところで、貴様のその独善は俺を含めた多くの望者アクターが持つ人の世を壊す欲望グリードと何ら変わりない」


 だから、俺の愉悦でお前の独善を喰らい尽くす。


「ときめいたぞロクロー・アルバ! 君を我が仇敵と認めよう! 1%の才能しか持たぬ哀れで愚かな道化よ! 私に食らいつき、引き千切り、ついに蹂躙してみせろ!」


「言われずともだ! 紫光帝サンダーロード!」


「来たまえ怨敵ぼんこつ、否、夢創王パルプフィクションライター!」


 俺は内なる異能グリード、即ち神の力へと呼びかける。


 我とともに戦えと。


「我が銀筆よ————始源を著せ。瀛神謡コールオブクトゥルー!」


 朱金の魔本が、銀の筆が、蒼白い燐光を放って俺の周囲を乱舞する。


破滅時計ドゥームズデイの鐘よ鳴れ! 強いぞ僕らの機巧神チクタクマン!」


 テスラロボは窓から飛び出してきた無数のテスラロボと空中で合体。全長20m程の巨大テスラ型ロボット(サン●イズ勇●風味)に変じ、テスラを自らの体内へと収める。


人神機マン・ゴッド・マシーンニコラ・テスラ! ただいま見参!」


「そうか、お前何言ってるんだ……」


 背中から巨大な両手剣を取り出して構えるテスラロボ! 驚く無かれ目が光る! あの馬鹿まだ隠し玉が有ったのかよ!


「ロクロー、落ち着いて。ロクローはちゃんと守ってあげるから、そこで私の演出だけしっかり考えててよ」


「わ、わかってる! 決して俺はびびってなどいない!」


 そうだ。だがどんな巨大な相手でもティナは怯まない。


「肩に力入りすぎだよ? リラックスリラックス。もし生きて帰れたらちゅーしてやるぜぃ、いぇい」


「なっ、何を言っているんだ!?」


「あは、冗談冗談。乙女の純情は安くないってば」


 彼女はいつも通りの軽口を叩き、それからにこりと笑い、一歩前に踏み出す。


「さて、そろそろティナも出番だね!」


 同時にティナもスカジャンの内側から青いブローチを取り出す。


「輝く星の名の下に! 全てを神理に打ちひしぐ! 神話開幕アレア・イァクタ・エスト!」


 魔本から次々飛び出すページが、銀の筆から溢れ出すインクが、俺の願う夢を現実へと変える魔法に変わる。


【宙で回転する青いブローチは光で屋上を満たし、その光に包まれながらティナはその宇宙的変身を開始する】


【手にはピンクのフリルがついた蒼の指抜きグローブ、足元にはピンクのリボンの付いたハイヒール、タイツが彼女の腿を包み、上半身もパフスリーブの蒼いドレスに変化する】


【たなびくドレスのスカートは細やかに金色の刺繍が施され、弾ける飛沫のようであった】


【最後に白かった髮が蒼く染まり、小さな光を散らしつつ可愛らしい真珠と海星の髪飾りが何処からか出てくれば変身は完了である!】


【なおこの変身の間だが、ティナの素肌はまぶしい光に包まれており彼女の裸体は一切見えない! 魔法少女だから! 俺の中で様式美だから!】


「波濤の神子みこ! プリティー☆トゥルー只今見参!」


 波を模した動きで両腕を揺らし、叫ぶティナ!


 素晴らしい。正しく魔法少女の理想を体現している。


「さて、変身まで待ってやったのだ。先手はこちらがもらおうか!」


 実は空気を読んでいたテスラ、そして彼女の操る巨大テスラロボはティナへと真っ直ぐに剣を振り下ろす。


 ティナは裏拳で剣の軌道をずらすことで直撃を避けた。だが逸れた剣がマンションを抉る。


「マジかよっ!」


 振動で思わず屋上から叩き落とされそうになる俺だったが、其処は流石にティナも慣れたもの。


「ロクロー、執筆!」


 俺が頼む前に俺の周囲を強力な結界で包み、空中へと結界ごと打ち上げて安全な場所へ退避させる。


「オッケー!」


【ティナは振り下ろされたDXテスラブレードを駆け上がり、テスラロボの右手首に震脚を叩き込む】


【打撃の衝撃と同時に魔力を放って旧支配者の呪いを刻みこみ、テスラの持つ機械操作チクタクマンの異能で修繕ができないようにしているのだ!】


 しかしやられっぱなしのテスラロボではない。


 ロボは右腕に張り付いたティナを力任せにマンションへと払い飛ばす。


【ティナは空中で態勢を整え、無数の魔力障壁を展開】


【空一面を埋め尽くさんばかりの障壁を踏み台にしながらテスラロボと同様に空中へと舞い上がる】


 いくら保持魔力が多くても一度に使える量は限られている。


 だから俺の異能による補助でそのキャパシティを補う。今のティナは本来なら一瞬では出せない量の魔力障壁を展開し、空中を自在に駆けまわる。


「テスラティックサンダー!」


 テスラロボからテスラの雄叫びが轟く。


 それと同時にテスラロボの全身から放たれた電撃が次々魔力障壁を砕き、ティナの足場を奪っていく。


【だがそれは好機。動きの止まったテスラロボ相手に再びティナは肉薄する】


「ちぇいあああああああああああああああ!」


【二度目の打撃は胸元、コクピットが有ると予測される場所】


【まず右拳で一撃、そして流れるような肘打ち、そして最後はありったけの魔力を推進剤に使った鉄山靠体当たり


【見事! テスラロボの心臓は砕け散り、中からテスラの姿が覗く!】


「やってくれたな小娘ぇ!」


 悪魔の絶叫と共にテスラロボはティナの小さな身体を左手で掴みとった。


「このまま握りつぶして……なにいっ!? 電力不足? これでは出力が上がらん! 何故電力供給が絶たれている!」


「へへっ、ブラザーフッドは私とロクローだけじゃないんだよねえ。というかあれだよ。?」


「馬鹿な……ぬっ!?」


 コクピットの内側から突如として十文字槍を持った男が飛び出す。


 真田さんだ!


「不意打ちとはちょこざいな!」


 突然現れた真田さんはそのニヘラっとした笑みを崩さぬまま、ティナの生み出した魔力の足場に着地して槍を構える。


「いやぁ……しくじっちゃったか。おじさん歳だねえ。後は若い二人に任せるとしようか」


 そう言って俺にウインクをすると真田さんは影に溶けて消えた。


 なんだあの忍者。


「今の男か! 裏から手を回してこの街への送電そのものを止めたな! 私の電力吸収を遅らせる為に!」


 ああ……朝から忙しかったのってそのせいだったのかい真田さん。


 あれ、じゃあテスラって聞いただけで今の展開まで予測してたのあの人!?


 今更ながら伊達に支部長やってる訳じゃないのだと感心させられる。


「それだけじゃないよ! 本来ならジョーカーになる筈だった椋を囮にして予備戦力のテスラロボを引きつけ、直接の戦闘を嫌う貴方を表舞台に引きずりだした!」


「ふん! だがその程度ならば我がテスラロボの勇気の力で――――」


「――――残念だったなイカ娘! 説明不足だ!」


 爆発と共に俺達が先ほど居た屋上が吹き飛ぶ。


 現れたのは黄衣を纏う疾風の戦士、如月椋。


 又の名を――――仮面ハスター!


「やはり僕が居なければ締まらないだろう!」


「椋!?」


「緑郎、約束通り来てやったぞ!」 


「なにっ!? 馬鹿な、早過ぎるぞ!」


 動揺するテスラ。椋はそれに高笑いを上げて答える。


「あははは! 簡単なことさ。君の自慢の量産型テスラロボならば電力不足でもう動けやしないんだよ! そっちの巨大テスラロボと同じようにね!」


「椋、いつの間にそんなことを……」


「ああそれね! 今朝から僕らが忙しかったのは、ニコラ・テスラの無限送電機構ワールドワイアレスシステムの破壊工作も同時に行っていたからなんだよ! 国内に隠匿されていたものは半分近く破壊できた! これでテスラ充電速度は八割削れたって寸法さ!」


「この短時間で私の秘匿していた無限送電機構の半数を破壊だと!? 幾らその風の異能グリードを以てしてもそんなことが……!」


「残念だったねMr.ニコラ。日本のブラザーフッド支部は基本的に仲が良い。特に……鎌倉支部には恩も売っていたしね。ジャパニーズ癒着スタイル!」


 鎌倉! 俺がダゴン秘密教団に捕まった事件の時に世話になった連中か!


 ありがとう鎌倉のオカマの人! あと幼女!


「そうか! そうだったか! それは良い! 俺がマヌケヅラで捕まっている間に事態は良い方へ進んでいたようだな!」


「フハハハハ! 凡骨共が揃いも揃って数の力で私に迫ったか! 悪くない! 実に悪くないぞ! 凡人ども、今の貴様らは輝いている! だがまだだ!」


 テスラのロボの表面から無数の火花と空気の爆ぜる音が発生する。また何かが起きている!?


生体電流機関ガルヴァーニドライブ全力解放オーバードライブ! 我が生命の交流電力は無限電圧で貴様らを打ち砕くぞ!」


 再び動き出す左腕、またゆっくりとティナの身体が締め上げられる。


「あ゛ぅ……!」


「ティナ! くそっ……手伝え椋!」


「君の頼みならね」


【ティナは己の水の魔力を冷気へと変換し続ける】


【生み出された絶対零度は鋼を、大気を、全てを凍てつかせ、静止させる】


 ティナの魔術を強化して作った一時的な絶対零度、これで時間は稼げる。


 しかも防御のついでに相手の動きまで封じることができる。今ならば最高の一撃が叩き込める筈だ。


「今だ椋!」


超月弾導ルナティックシュート!」


 圧縮大気を炸裂させ、ロケットのようにテスラロボへと突っ込む椋。


 狙いは左肘だが――――


「見切ったぞ!」


 巨大テスラロボは右腕だけでDXテスラブレードを振り、椋をなぎ払おうとした。


 ま、俺が大人しくそんなことをさせる訳は無いのだが。


【椋は無数の触手を圧縮し、収束し、高密度の触手による壁を作り上げた】


【妖しくぬめる分厚い肉壁により、DXテスラブレードは飲み込まれその速度を完全に殺された】


【一方で椋は大量の触手をDXテスラブレードにまとわりつかせて動きを封じた後で触手を自切!】


【身軽になったその姿は音速を超え、ティナを捕まえる左腕を一撃で蹴り折った】


「おのれっ!」


 左腕を引きちぎられたテスラロボ。


 ティナはそのいましめから素早く飛び出し、振り返りざまに巨大な氷弾をテスラロボの推進器に叩きつける。


 テスラロボは空中でバランスを崩し、四肢をばたつかせながらなんとか飛行状態を継続する。


 だがその頃には俺達は完全に態勢を建て直していた。前衛に椋とティナ、そして後方で支援の構えをとる俺。


「二人共! 確実に例のアレで仕留めるぞ!」


「オッケー!」


「緑郎! 君の身体に負担がかかるぞ?」


「構わん、チャンスは今しかない!」


 テスラロボは明らかに動きに精彩を欠いていた。


 それは恐らく影使いマイノグーラ異能グリードを持つ真田さんによるコクピットへの奇襲のせいだ。


 俺の見えなかったコクピットでの一瞬の攻防を凌ぎ切ったテスラは確かに恐ろしい。


 だが、その後からだ。テスラは二度目の奇襲に警戒せざるを得なくなった。そうなれば巨大ロボットの操縦だっておぼつかなくなるというものだ。


「オーケー緑郎! 僕がこいつを止める! その間に!」


「応ッ!」


【椋は大気操作に精神を集中させ、巨大な竜巻の中へテスラロボを閉じ込める】


「ティナっ!」


「はいはーい!」


 ティナは俺の視線で全てを理解し、テスラロボの頭上へと飛び上がる。


 俺の持つ生命力を注ぐことで、ティナの力はまだ高められるのだ。


 そして放つ究極の一撃、テスラロボを完膚なきまでに打ち砕くにはその宿敵であるクトゥルーの力さえ利用するしかない。


【少女の蒼衣は神の力人々の祈りに応じて光の羽をその背に生やす】


【彼女は己の内に眠る神の力を震わせ、両腕を前に構える】


【光の羽による姿勢制御で魔力はより強く鋭く破壊を齎す兵器と化す】


【放たれた蒼き光条は夜空を貫く神の息吹】


【少女は高らかにその閃く光の名を謳う――――】


星辰正シキ刻来タレリセイクリッドソリスティス!」


 降り注ぐ極大の光線は、頭上の雷雲ごとテスラロボを飲み込んだ。


「おのれっ! おのれっ! ああ、おのれっ! こんなに楽しいのは久しぶりだ! 素晴らしいぞ! 実に実に実に実に実に!」


 テスラロボを覆う雷の檻。


 雷は光の柱を防ぎ、テスラロボへのダメージを抑えているようだ。


 しかし、テスラロボは既に限界を迎えていた。


「「砕け散れええええええええええ!」」


 俺とティナの叫びが重なる。


「馬鹿な!! ああなんてことだ!! これは良いぞ!! 私も負けるのか!? ありえん、馬鹿な、ふふ……馬鹿なあああああああああああ!!!!」


 テスラロボは砕け散った。


 その残骸は周囲の建物を巻き込みながら飛び散ったかと思うと、すぐに光の粒子となって消え去る。


 光の柱を撃ち込まれたマンション跡地、其処には気を失ったテスラだけが眠るように横たわっていた。


「はいはい、あとはおじさんに任せなさいってね」


 真田さんが突然影の中から現れると、テスラをその中に引きずり込み何処かに消えた。


「ロクロー……ティナ、もう限界かも……」


「ちょ、ちょっと待て!?」


 ティナの魔力が切れ、俺の身体は自由落下を始める。


 俺は照れ隠しにキメ顔で椋にこう言った。


「――――椋、助けて」


「なんで偉そうなのさ君」


 椋の大気操作で俺は地面に無事着地。遅れてティナもゆっくりと地面に落ちてくる。


「僕はその女に触れるのも汚らわしいと思っている。だから君が受け止めてやりたまえ緑郎」


「非戦闘員の俺に華を持たせてくれるのか?」


「さっさと行かないか!」


 椋は変身を解除して、ティナの身体を包む空気の塊も消え去る。


 再び自由落下を開始したティナの細くて小さな身体を俺は受け止めた。


 俺の腕の中で彼女の着ていた服は普段のスカジャン姿に変わった。


 寝息を立ててゆっくり眠っているみたいだ。


「さっきも言ったけどさ……緑郎、あまり無茶をするなよ?」


「どういうことだ椋?」


「緑郎の左目、少し蛸みたいになってるよ」


「なにっ!?」


 俺は慌てて自分の異能グリードを停止させる。朱金色の本と銀色の万年筆は一瞬で光の粒子になって消え去った。


望者アクターは暴走の可能性から逃れられない……気をつけようね、お互いに」


「なあ椋。俺がもしも人間ではなくなったら……」


「君は黙って逃げ出して、その娘と生きなよ。そうしたら僕が殺しにいってやる」


「……すまんな」


「僕に何か有った時も頼むぜ?」


「勿論だ」


 異能グリードの代償。それは欲望の暴走による自我の消失。


 もしも俺が全ての絆を失い、欲望しか無くなってしまったなら……。


 ニコラ・テスラ、彼は遠い未来の俺達の姿なのかもしれない。


 いや女になるのはごめんだけどね。


【第六話 発進! 黒鉄の城テスラ! 完】

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