第49話


 バチッ…バチバチ…………!


 背部の翼に空いた穴から黄色い火花が飛び散った。

 セフィラーの刀身は、マルキニウム製の丸い外装を激しく傷つけただけだった。

「クッ!」

 ヨウの一撃は、ドレスの装甲を削り取っただけで、リアクターまで届かなかった。予想以上にドレスの防御力が高かった。丸みを帯びたフォルムが刀身を滑らせたのだ。そして、恐らくソフィアの精霊が自発的に発動したであろう、防御フィールドがさらに攻撃の威力を削いでいた。

「あの翼の穴からでる光、あれが邪魔だ」

 ヨウの攻撃が当たる瞬間、翼の穴から電磁フィールドが展開され、収束していたセフィラーが拡散されてしまったのだ。見た目は華奢だが、明らかにこのソフィアは防御型のソフィアだ。

「敵だ!」

 ノーマル三人がヨウに向けてプラズマガンを放ってくるが、ヨウはお構いなしにノーマルへ切り込んでいく。リアクターにダメージが与えられないのならば、残された手段は限られている。ノーマルを潰すだけだ。

 セフィラーを凝縮させた刀身を振り回し、飛んでくるプラズマの弾丸を叩き落として、一気に距離を詰めた。

「させるか!」

 倒れたリアクターがヨウの背中を狙ってくるが、それをレイチェルとサイがプラズマガンで援護してくれた。

「シジマ!」

「分かってる!」

 すぐさま、シジマが木々の間を抜けて、敵リアクターにブレードを突き立てた。雪蛍のウィングが展開され、セフィラーを放出する。だが、その刀身はあと一歩という所で、敵リアクターの防御フィールドによって阻まれてしまっていた。

「邪魔だ! 退け!」

 男が吠えると同時に、防御フィールドが球状に広がり、シジマを押し退けた。ヨウは背後から迫る防御フィールドから逃れるように、敵のノーマルに向けて跳躍した。刀身のセフィラーの出力を上げ、刃を一回り大きくした。

「ハァァァァ!」

 実戦だったら、こんな特攻は絶対にしない。これは光輪祭。実戦形式はあくまでも『形式』であって、実戦ではない。ジンオウにはどやされるかも知れないが、命の保証がされている限り、多少の無理をすることは可能だ。

 頭部と心臓、致命的になる箇所だけ防御をし、ヨウはノーマル三人の懐に飛び込んだ。

「ツッ!」

 右膝に一発、左脇腹に一発、プラズマガンを受けたが、激しい痛みが続くだけで目立った外傷はない。痺れる体に鞭を入れ、ヨウは目の前の女性ノーマルにセフィラーの剣を振り抜いた。強力な光が弾けるのと、悲鳴が聞こえるのが同時だった。本来ならば、セフィラーの刃は敵を両断するほどの威力を持っているが、今回使っている柄は訓練用の柄で、セフィラーの刃は対象物に触れた瞬間、その性質を電気に変え、相手に電気ショックを与えた。

「次!」

 続けざま、ヨウは男の敵ノーマルに刃を走らせた。一振り、二振り、まるで風が木々の間を抜けていくかのような滑らかな動きで、ヨウは二人のノーマルを一瞬にして切り結んでいた。

「まずは、ノーマル三人」

 ノーマル一人が一〇点。これで、三〇点がブルーレイク・ロッジから引かれ、ブラックウッド・ロッジに加算された。後に残るのはリアクターだったが、それが厄介だった。

「シジマ!」

 シジマは二人のリアクターに囲まれていた。

 レイチェルとサイがシジマを援護しようとプラズマガンを打っているが、防御フィールドに全て弾かれていた。

「シジマか、と言うことは、お前等はアリティアのチームだな。残念だったな!」

「アルマイト・フィズ! やはり、君の装甲を抜くのは一筋縄じゃいかないか」

 防御フィールドを張っているリアクター、アルマイトをシジマは苦々しく睨み付ける。そして、シジマの後ろにいるリアクターは、緩やかに地面に降りると、片膝をつきゆっくりと地面に右手を添えた。甲虫を連想させる丸みを帯び、ごついフォルムのドレス。白い霧の中でも浮かび上がる深紅の外装は、それだけで屈強かつ力強さを表現していた。

「シジマ、悪いな。これで、俺たちの勝ちだ」

「ミザキ先輩、不意を突けば、アルマイトだけは倒せると思ったんですけどね」

 顔だけを後ろに向けたシジマは、ゆっくりと翼を動かし、ふわりと浮遊した。

 ミザキと呼ばれたリアクターは、シジマ越しにチームメイトのアルマイトと視線を交わした。アルマイトが頷くのと、地面が大きく揺れたのは同時だった。

 地の底から何かが来る。そう思ったときには、ヨウの体は反射的に動いていた。近くの木を蹴り、宙を飛ぶ。手を伸ばし、横枝を掴んだヨウは、体操選手宜しく、体を大きく降って太い木の枝に上った。

「逃げて!」

 レイチェルが叫ぶが、その叫び声は地鳴りに飲み込まれた。

「先輩!」

 ヨウは叫ぶが、どうすることも出来なかった。

 それまで地面だった場所は水のように揺らめき、あらゆる物を飲み込んでいく。サイもレイチェルも、逃げる暇も無く地面に飲み込まれた。ヨウの立っている木も、底なし沼に沈み込むように地面へと吸い込まれていく。気を失っている敵ノーマルの三人も、サイ達と同じように地面へと飲み込まれた。

「これが、リアクターの力か……!」

 セフィラーを変換し、奇跡を起こす。魔法と同じ原理だが、やはり、威力は桁違いだった。

「ヨウ!」

 シジマが低空を飛び、ヨウの体を攫った。

「一先ず逃げるぞ!」

 ヨウの返答を待たず、シジマは猛スピードで森の中を飛んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る