第34話

「たいした工程はないのよ。殆どがオートマチックになっていて、私たちは管理するだけ。だけど、その作業は機械的ではなくて、呪術的な物がメインなの。まず、核を生成し、その核に呪術的な契約を施して、核を特殊な容器に入れて精製するの。外郭を作ると言った方が良いかしら? イメージとしては、真珠を貝の中に入れて作るような感じ。その課程で、大半のソフィアは使い物にならなくなって消滅してしまうわ。理論上、一月に出来るのは四つだけど、実際は二つなの」

「その差が問題なのか……。誰かが猫糞しているって事か?」

「それは難しいと思うわ……。でも、確かに、誰かが横から掠め取っていると考えるのが、自然なのかも知れない」

「心当たりは?」

 メルメルは口元に手を当て、眉間に皺を寄せる。

「ない、と言えば嘘になるけど……、この学園の特質状、誰もが容疑者になりえるのよ。様々な利権と、国同士の関係……。後は、個人的な欲とか……」

 そう言って、メルメルはハッと我に返り、「私は違うわよ」と、慌てて手を振る。

「基本的に、ソフィアの研究をしている人は、誰にでもチャンスがあるわ。それなりの地位の人なら、なおさら……」

「そうか、特定は難しいか……。忍び込んだとしても、やっぱりすぐに尻尾は掴めないか」

 分かってはいたが、やはりすぐにすぐソフィア流出の真相は掴めない。今日は、研究施設内部の情報収集に終始した方が良いかもしれない。

「質的にはどうなんだ? 量産型は、すぐにでも実戦投入できるレベルなのか?」

 今日の光輪祭を見る限り、エストリエのソフィアはほぼ完成されているレベルだし、すでに実戦投入されている。

「そこも問題なのよ。四つできたと言っても、実戦につかえるような代物は、年に数個あるかないか。量産型と言ってるけど、本格的に量産はまだまだ先の話よ」

「それでも、ソフィアは着実に増えている。量産と言って良いんじゃないか? 現に、エストリエは六〇近くいるんだろう?」

「エストリエのソフィアは、アラリムのオリジナルソフィアを元に作られているから、厳密に言えば、あれはワンオフって事になるのよ。作り方も、行程も、掛かる時間も能力も桁違い。あれを量産っていったら、世界中の工場が怒っちゃうわ」

「そうなのか。だとしたら、量産型ソフィアは、戦力的にはエストリエ以下って事か」

「精霊も下位の下位。意識も何もない、力の残滓を込めたような物だから。だからこそ、人を選ばず、誰でも扱える。そこが強みかしら」

 先ほどの廊下と違い、研究施設の中は空調が効いており、明るかった。カツカツと足音が反響している。

「時代がそうさせるんだろうけど、量産が成功しても、ローゼンティーナの中だけに止めておければ良いんだけどな」

「そうね……。確かに、量産することは素晴らしいわ。あれがあれば、困っている人も大勢助けられる。だけど、ヨウの言ったとおり、ソフィアの技術が諸外国に流れているとしたら、それはとても危険な事だわ」

「だよな……」

「ローゼンティーナが圧倒的な戦力を保有しているから、現在は世界で大きな争いは起こっていない。だけど、もしそのバランスが崩れたら……」

「メルメルは、ローゼンティーナが正しいと思っている?」

「それは、どういうこと?」

 メルメルは足を止め、ヨウを見る。ヨウはメルメルの横に来ると、彼女に先を促し、肩を並べて歩き始める。

「言葉の通りさ。ローゼンティーナや明鏡は、表立っていないけど、未来へのレールをしいている。言い換えれば、それはローゼンティーナが世界を操っているって事だ」

「それって、悪いことなの?」

 素直に聞いてくるメルメルに、ヨウは言葉に詰まる。

「………俺は、このままの世界で良いと思うよ。誰が支配しようと、争いがない世界が悪いわけがない。支配者が誰に変わったとしても、これまでと同じように、平穏無事な生活が続けば問題ない。だけど」

「だけど、世の中の人、全てがそう思っているわけじゃない? そういうことでしょう?」

「まあね……。だから、ソフィアの事を調べなきゃいけない」

「そうね……だけど、ソフィアをすぐに調べることは無理かもね。今は、精製の途中だから。後、数日はそのままよ」

「付いている人は?」

「常に二三人付いているわよ。チェックは万全のはずだけど」

 長い廊下を歩き、メルメルは一つの扉の前で足を止めた。

「ちょっと待っててね」

 メルメルはヨウの手からプレートを受け取ると、蹌踉めきながら扉の中へ入っていった。やはり、扉には鍵の類いはなく、ディスプレイなども付いていない。ここは全て管理され、登録された者でしか各扉は開かないようだ。

 ヨウは人気のない廊下を見る。真っ直ぐ伸びる明るい廊下。所々扉はあるが、誰かが出てくる様子はない。

「………」

 ヨウは歩いてきた方を見つめる。

 やはり、妙な感じだった。これだけの研究施設だ。いかに深夜に忍び込んでいるとは言え、誰とも出会わないと言うことはあり得ない。怪しまれずに済むと言えば良いのだが、それにしては、全てが上手くいきすぎている感じがする。メルメルにしても、アリエールの名前を出しただけで素直に信用しすぎている気がする。

 罠か。一瞬、そう思ったが、メルメルの様子を見る限り、こちらを騙しているようには思えない。それに、先ほどから感じている視線と気配。

 ヨウは目を閉じ、セフィラーを探る。もしかすると、ヨウの目には映らない何者かが近くにいるのかも知れない。馬鹿馬鹿しいと思うかも知れないが、ヨウが相手にしようとしている相手は、人知を超えた力を要する相手なのだ。

 ヨウは深く、深く意識を集中させる。かすかなセフィラーの流れをつかみ取り、それを辿る。かすかな感覚、放たれた意識が何かに当たった。ヨウは腰に差したホルダーから銃を抜き取った。

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