第29話

 光輪祭は三回戦で行われる。その年によって試験内容は様々だ。筆記試験だけの年もあれば、三回戦とも戦闘だけだったときもある。マラソン、サバイバルゲーム、中にはしりとりやじゃんけん大会などもあったそうだ。

 今回の一回戦、会場はローゼンティーナの大講堂とグラウンドだ。大講堂の扉が開かれており、グラウンドと直結していた。

「なにをするんだ?」

 ヨウは隣にで呆然とするサイに問いかけた。

「僕も光輪祭は初めてで」

 前日、レイチェルから動ける服装でと指示を受けた。ヨウとサイは、ローゼンティーナ指定の戦闘服を身につけてきた。実際、会場に着てみると、皆戦闘服を着ている。しかし、その服はエストリエが身につけるスタイリッシュなものだったが。

「シジマ、もしかすると、光輪祭に出るメンバーで、エストリエじゃないのは俺とサイだけじゃないのか?」

 ソフィアライズ出来る人物は、各チーム二名のみ。他の三名は生身で戦うが、自ずと実力者はエストリエと言うことになるだろう。

「まあ、そうだろうね……。うちのチームは、エストリエが二名だけだけど……」

 シジマは残念そうに呟く。その横にいるレイチェルは、俯き唇を噛みしめていた。その表情は重く、単純にアリティアがいないことだけとは思えなかった。

「先輩、大丈夫ですか?」

 レイチェルはハッと我に返ると、とってつけたような笑顔を浮かべて「ええ、大丈夫よ」と答えた。

「アリティアちゃんはいないけど、私たちだけで、出来る所まで全力を尽くしましょう」

 レイチェルはそう言うが、アリティアがいない状況でこのチームが何処まで出来るのか、疑問だ。ここ数週間、アリティアと過ごして一つ分かったことがある。彼女は自由奔放で、何者にも縛られない。勉強だってろくにしないし、戦闘訓練だってまともに受けない。だが、彼女は自分がこの学園でナンバーワンだと思っている。初め、ヨウは彼女の強がり、もしくはプライドがそう言わせているだけだと思っていたが、違った。

 勉強はともかくとしても、彼女の戦闘能力の高さは、エストリエの中でも群を抜いているかも知れない。実際、ヨウは彼女が戦う所をこの目で見たことはない。ソフィアライズしているのだって見たことはない。だけど、分かるのだ。他の誰よりも、アリティアは力がある。だからこそ、ローゼンティーナは彼女の素行不良などに目をつむり、エストリエの第七席というポジションを与えているのだ。

「僕たちで大丈夫なのかな……。頭を使うのは得意だけど、戦うのは苦手なんだ」

 サイは言いながらも、不安そうに辺りを見渡す。確かに、筆記試験だけならばレイチェルとサイだけでなんとでもなるかも知れないが、動ける服装、そして、集合場所がグラウンドであるということが不安にさせる。

「得手不得手はあるだろうけど、本来、私たちは戦うのが本分だから……」

 レイチェルの言葉を裏付けるように、突然放送が入った。


『これより、第899回。光輪祭を執り行う』


 青空に学園長であるアリエールの姿が投影された。アリエールの背後には副学園長であるシノの姿もある。どこからともなく大歓声が響き渡ってくる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る