第28話
「………なるほど。量産型ソフィアの情報を、私がガイゼストに流してるって言いたいのね?」
「いいえ。その可能性もあるかも知れません。だけど、それを調べるためには、どうしてもローゼンティーナの中枢に潜り込む必要があります。アリエールもシノも、この件に関して言えば、信用ができない」
「だから、私を頼ると?」
「先輩は、それだけの力を持っているはずですから。だから、俺は先輩の付き人になったんです。先輩は俺を守護し、便宜を図る義務があるでしょう?」
「ハッキリ言うわね」
アリティアは伸びをして立ち上がった。ペタペタと素足で歩きながらヨウの横を通り過ぎる。彼女の手がソフィアに伸びることはない。冷蔵庫から冷たい水のパックを取り出すと、それを咥えて再びベッドに戻った。彼女が動き、室内の空気が僅かにかき回された。「私も隠し事はスキじゃないからハッキリ言うけど、私はガイゼストとは何の関係もないわよ。もちろん、私の後見人はガイゼストの皇帝って事になっているけどね。私が国に忠義立てするような人物に見える?」
正直言って、見えない。これほどまでに自由奔放に生きている人間は、ヨウは師であるジンオウ以外に知らない。
「見えないでしょう? ま、そういうことよ。十中八九、量産型ソフィアについてはガイゼストが絡んでいるでしょうね。ガイゼストだけじゃなくて、アムルタートも十分怪しいか」
「そんなこと言って良いんですか?」
「だから、私は国とかそんなのに興味ないの。ここを卒業したら、どっかのお金持ちの所に嫁いで、好き勝手暮らしたいだけなんだから」
「アバウトな人生設計ですね……」
「現実的でしょう? ここを優秀な成績で卒業できれば、それだけで人生勝ち組よ」
アリティアは裏表のない笑顔で答える。ヨウは毒気が抜かれたように、気を抜いた。
「ほら」
薄暗い室内を水のパックが舞う。
「あっ」
パックの口から水が零れる。ヨウは慌ててパックに手を伸ばした。手を伸ばし、ヨウは悟った。
「ッッッッ!」
アリティアは目にもとまらぬ早さでベッドの上から動くと、ヨウの脇をすり抜け背後を取った。細い腕を首に回し、一瞬にして極めてくる。
「動かないで、ヨウ……」
ほんの僅かな油断だった。気を張っていれば、この程度簡単に対応できたはずだった。
「残念だけど、私の方が一枚上手ね」
アリティアは耳元でゾッとするような冷たい声で呟く。普段の自堕落な姿からは想像できない、俊敏で無駄のない動き。アリエールやシノ達から一目置かれていることはある。皮肉にも、それを悟ったときには遅かった。殺される。そう思った瞬間、ヨウの首から拘束が解かれた。ヨウは背中を軽く押され、ベッドの上に転がるようにして倒れた。
「私とやり合うには、まだまだ甘ちゃん。もし、私が本当に敵だったら死んでるわよ」
アリティアはヨウが腰を下ろしていた椅子に座ると、テーブルにあったシグナルブックを手に取った。
「ローゼンティーナに入る手はずは整えてやるわ。都合の良いことに、このロッジはセンサーから逃れられる通路があってね、そこを通れば外に行けるわ。ローゼンティーナに入るには、流石にセンサーがある所を通らなければいけないけど、そこは私が知り合いの警備員に手配しておく」
「先輩…」
あっけにとられたヨウは、締め上げられた首をさすりながら、ベッドの縁に腰を掛けた。
「ただし、中に入ってからのことは、どうにもできないわよ。そこは、自力で何とかしなさいね」
「ありがとうございます、助かりました」
「優しい先輩でしょう? ヨウの甘さを指摘し、さらに望みまで叶えるんですから。と言うわけで、ヨウ、明日からの光輪祭、私は出席もしないから、適当にやっておいてね」
アリティアはそう言うと、ヨウを部屋から追い出し眠ってしまった。
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