第27話
夜、ヨウはアリティアの部屋を訪れていた。男子生徒と女子生徒の部屋の行き来は、基本的に制限されていない。だが、ヨウ達はローゼンティーナの学生だ。節度ある学生生活は暗黙の了解として保たれなければならない。まして、間違いがあって女子生徒が妊娠でもしようものなら、大変なことになる。ローゼンティーナの生徒は、その大半が国の代表として来ている。その代表者が、肝心な勉学に励まず、妊娠で途中退場になったら、個人のメンツだけでなく、国としても体裁が取れない。ローゼンティーナとしても、管理者としての体裁が取れないため、行き過ぎた男女交際は禁止している。
「こんな真夜中に女子の部屋に来るなんて……」
部屋の主であるアリティア・ジジル・ウォンは、赤い瞳を細めてヨウを見た。広い室内に、光量の落とした飴色の室内灯。ぼんやりと光の中に浮かび上がるアリティアは、娼館の娼婦のように艶っぽかった。
「残念だけど、ヨウ。私はあなたと男女の関係になるつもりはなわよ」
溜息をつきながら、ヨウは肩をすくめる。
「あなたとは、男女の関係よりも、もっと楽しめる関係を築けそうだからね」
「………ですね。俺も、先輩は男女の関係よりも、もっと別の関係を築きたいですよ」
入り口に立っていたヨウは足を進めて、ベッドに横たわるアリティアの前まで来た。
「実は、先輩にお願いがあってきました」
「お願い?」
アリティアは目をつり上げると、ベッドの上で胡座を掻いた。タンクトップにショーツという出で立ちのアリティアは、ヨウを前にしても無防備の状態だ。これは、信用されているのではなく、単純にヨウのことを男として見ていないのだろう。
「ローゼンティーナに侵入したいんです。正規のルートではなく、なんの履歴も残さず侵入したいです」
「シグナルプレートを使わずに、ローゼンティーナの警備をくぐり抜けて、か……」
「はい」
用件を伝えたヨウは、手近にあった椅子に腰を掛けた。
「ヨウ、お前は何をしにローゼンティーナに入学したんだ? 学園長達の肝いりで入学した事は、周知の事実だ。ゼノンとの戦いで、相応の実力があることも実証済み。今は廃れた魔法をあそこまで使いこなす人物は、ローゼンティーナでもごく少数だ」
探るような眼差しが、ヨウの上を舐める。ヨウは居心地が悪そうに身じろぎをした。
「質問を質問で返しますが、アリティア先輩は、ローゼンティーナを信用していますか?」
「それは、どういうことかしら?」
アリティアの雰囲気が変わる。緩んでいた部屋の空気が引き締まり、暖かかった部屋の気温が下がったように感じられる。
「答えにくい質問ね。ヨウはローゼンティーナの息が掛かっているんでしょう? 下手に告げ口をされたら、私の身が危ないじゃない」
「問題ありませんよ。俺を信じて欲しいです。俺は、アリエールやシノは信じていますけど、ローゼンティーナという組織は疑っています」
「………もしかして、あなたはローゼンティーナより、もっと上の人間かしら?」
「何処にも属していません、今のところは。俺が先輩の下についたのは、先輩なら顔が広くて力もある。だから、ローゼンティーナの事も調べられると思ったからです」
「………なるほどね。で? 何を調べるつもり? お金の流れ? それとも、各国の情報?」
「魔神機と、量産型ソフィアです」
アリティアの呼吸が止まった。
一番怪しいのは、神聖アムルタートとガイゼスト帝国だ。アリティアは、ガイゼスト帝国より派遣されてきている。確証はないが、アリティアがガイゼスト帝国にソフィアの情報を流していてもおかしくはない。直接は関わっていなくても、関与している可能性は十分にある。
これは賭だった。ここでアリティアが黒だと分かった瞬間、ヨウはアリティアと敵対することになる。最悪、殺し合いに発展するかもしれない。見たところ、アリティアはソフィアを装備していない。もちろん、ソフィアを装備していないと思われる就寝時間を選んでヨウは訪れた。そして、彼女の体を確認した。アリティアは、ネックレスにソフィアを嵌めている。そのネックレスは、ヨウの背後。テーブルの上に置かれていた。
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