第14話

 翌朝、朝食中にサイから紹介された友人というのは、シジマ・カーネギーだった。シジマはヨウを見ると、満面の笑みを浮かべて隣の席に座った。

「俺たちは、何かと縁があるみたいだね」

 嬉しそうに言うシジマの言葉に、ヨウは笑顔で頷くしか無かった。レッドストーンでの事と良い、昨日の事、そして今日だ。男相手に運命という言葉は使いたくは無いが、このシジマという男とはよほど縁が深いと思える。

 シジマはヨウ達よりも二つ上の三回生と言っていた。先輩ではあるが、シジマはそんな事を気にしない性格のようで、好感が持てた。

 シノから買い与えられた制服に袖を通す。

 白い細身のジャケットの裾は長く、臀部の中程まである。スラックスも同色だ。ジャケットの襟と袖には、金色の刺繍が施されている。その上に、ブラックウッド・ロッジの寮生であることを示す黒いローブを纏う。これで完成だ。後は、プレートとブックを持てば、全ての準備が整う。

 登校中。シジマとサイは、シノが教えてくれなかった様々な事を教えてくれた。どこのお店がおいしいとか、どこの寮に美人な生徒がいるとか、生徒の視線で語られる彼らの話は聞いていて面白く、新鮮だった。驚き、余り上手く返答のできないヨウを見て、サイは困惑したように眉根を寄せた。

「ヨウ、もしかして、僕たち迷惑だったかな?」

 サイは横を歩くシジマを見る。シジマもサイと同じように深刻そうに頷く。

「迷惑って、どうして?」

「ヨウが困ったような顔をしているからさ」

 シジマが言う。ヨウは自分の口元に手を当て、驚いたように目を見開く。

「そんな風に見えたかな? 俺は、全くそんな事を思っていなかったから……」

 ヨウは溜息をついて頭を掻く。

 原因は分かっている。師匠と離れ、ここに来る途中も同じようなことを何度か聞かれたことがあった。

「ゴメン、あまり、こういうことには慣れていないんだ。小さい頃、師匠のところに行ってから、ずっと師匠と二人きりで生活してきたから。同年代の友人というか、そういうのがいなくってさ」

「そうだったのか……」

 サイがさらにしょぼんと肩を落とす。どうやら、触れてはいけないことに触れてしまったと思ったようだ。

「サイ、別に気にするようなことじゃないよ。シジマも、気を悪くしたなら謝る。だけど、俺は全然迷惑だとか思っていないから。ただ、どう反応したら良いか、よく分からなくてさ」

「そうか。すぐになれる」

 シジマは屈託無く笑うと、ヨウの背中を元気づけるように叩いてくれた。

 昨日はビジターとして訪れたローゼンティーナだったが、生徒として訪れると、やはり雰囲気が違って見える。

 昨日の騒ぎの為か、周りの生徒達の視線が自然とヨウに集まっているのが分かる。


「あいつ、入学したのかよ」


「見て、ブラックウッド・ロッジよ……。私たちの寮に来れば良かったのに」


「シノ先生の口利きらしいぜ」


 ざわめきがさざ波のように押し寄せてくる。ヨウはそれらの声が聞こえないように振る舞いながら、同学年のサイと一緒に教室へ向かった。

 教室はすり鉢状になっていた。白を基調とした壁、天井、デスク。デスクには立体映像を映し出すモニタが備え付けられており、そこにプレートを翳すと出欠席の確認となり、メインサーバーから授業のデータが転送されてくる。

「席は特に決まっていないから。さあ、座って。あっ、ローブは脱いでね。授業中はローブを着ちゃいけないんだ」

 サイはローブを脱ぐ。見ると、他の寮生も教室に入ったら皆ローブを脱いでいる。ヨウもローブを脱いで腰を下ろした。プレートをスクリーンに翳すと、今日のカリキュラムの羅列が表示された。

 現代文、科学、物理、数学などは普通だが、ローゼンティーナ特有のセフィラー学や戦闘訓練も組み込まれていた。

「僕、あまり戦うことは得意じゃ無いんだ」

 カリキュラムを見て、サイは溜息をついた。見た目通り、彼は戦うことが苦手なようだ。

「サイは、どこの出身なの?」

「僕は、サイタルカス王国出身なんだ。神聖アムルタートの東側にある、小さな国なんだ」

「サイタルカスか……。行ったことはないな」

「四季折々の美しい景色が楽しめる良いところだよ。特産という特産はないけど、みんな穏やかで、ゆったりとした時間の流れるところなんだ」

「そうか。サイは、どうしてローゼンティーナに? やっぱり、国の意向か?」

「うん。僕の家は、あまり裕福じゃなくて。僕は、運動はできないけど、勉強はできたから。それで、国王様の目にとまって、ローゼンティーナに送られてきたんだ。ソフィアリアクターになれなくても、ここで学んだって事だけで、だいぶ就職は有利になるから」

「そういう事情で来る人もいるんだな」

「ソフィアリアクターになりたくないって言えば嘘になるけど、僕、あまり戦うのは好きじゃないんだ。だったら、ソフィアの研究をする方が好きだな」

「ソフィアの研究所もあるんだよな」

「うん。研究室は地下にあるよ」

「見学とかってできるのかな?」

「普通に行っても無理だろうけど、先生の許可がもらえれば、大丈夫かもしれないね。僕も一度どんな研究をしているのか見てみたいな」

 顎肘をついたサイは、透き通った目をキラキラと輝かせた。

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