第10話
強烈な夕日がヨウの目を射貫く。ヨウは目を細め、手で日差しを作った。漠々と広がる砂漠。赤い陽光によって砂丘に陰影がつけられ、燃えるような幻想的な風景が生まれていた。
先日、あそこでヨウはアタラは戦った。まあ、ヨウは逃げているだけだったが。
息をするのも大変だった灼熱の砂漠。足を取り、動きを抑制する細かい砂。何をするのも億劫だった砂漠の生活もだいぶ長かった。最終日には、アタラに襲われるという予想外のことまで体験した。ずっと歩いてきた砂漠を空調の効いた室内で眺めていると、全てが別世界のできごとのように思えてしまうから不思議だ。
「こっちよ」
レッドストーンに見とれていたヨウに、マリアが声を掛けた。エレベーターに乗ったマリアに続く。マリアは最上階である二〇階を押す。音も無く、箱は浮上を開始する。これも、セフィラーを動力として動いており、圧縮したセフィラーを噴出して上下を繰り返している。大戦前は、電気でこれらが動いていたらしいが、魔神機によりインフラの殆どを破壊された人類は、明鏡より提供されたセフィラーの技術によりこれまでとは別の方向で技術を発展させてきた。今ではセフィラーで動く列車や自動車が普及しているが、ごく一部では、未だに電気を使用している場所もあるらしい。
エレベーターは二〇階に到着する。
「ここが、一般の生徒達が出入りできる最上階よ。ここから、専用エレベーターに乗って、六〇階まで行くわ」
そう言って、マリアは近くのエレベーターの前に立った。先ほどのエレベーターが、青い扉だったのに対し、こちらは赤い扉だ。自動的にシグナルプレートを読み取り、扉が開いた。ヨウはマリアに促され、箱の中に入った。
「最上階に」
マリアが告げると、エレベーターは音も無く上がっていく。
階数表示が三〇階を過ぎたところで、自然光がエレベーターに差し込んでくる。ガラス張りの壁の向こうには、木々に囲まれたブルーレイクが一望できた。昨日、あの湖の畔で見知らぬ女性にあられも無い姿を見られてしまった。恐らく、ここの関係者だろう。もしかすると、また会うことがあるかもしれない。
「複雑だな……」
マリアといい、昨日の女子生徒いい、こうも大事な部分を連続で見られるとは思っていなかった。ヨウの視線を感じてか、マリアはこちらを見るとニコリと微笑んだ。
最上階に到着したヨウは、マリアに案内され廊下を歩く。毛足の長い絨毯に、壁にはランプが灯っている。先ほどまでは近代的な建物だったが、このエリアはあえて中世ヨーロッパの文明を似せているようだ。
「此処が生徒会室よ」
マリアが立ち止まり、扉を示す。
「昨日、君を救いに行ったのは、生徒会のメンバーよ。みんな、ソフィアリアクターで、エストリエの一員でもある。まあ、学生の中のエリートね」
「ゼノンもですか?」
「いいえ、彼は違うわ。流石に、あそこまで素行不良だとね」
マリアは笑いながら扉を開ける。
「みんな、そろってる?」
中に入りながらマリアが声を掛ける。
「生徒会は二人だけよ。後は、雑用が一名」
答えたのは、机の上に腰を下ろした赤髪の女性だった。ショートカットで前髪をピンで止めている。こちらを値踏みするような目つきは鋭く、口元にはいたずらな笑みが浮かんでいる。
「そう、会長はいないのね。紹介するわ、彼女はアリティアさん。そして、その向かいの席に座ってる大人しい子が、マサムネ君」
「……よろしく」
手元で展開されているシグナルブックから顔を上げたマサムネは、小柄で視線を合わせない男子生徒だった。何かに怯えるように視線を彷徨わせている。小さな声で挨拶を済ませると、またブックに視線を落とした。
アリティアは何も言わず、手を軽く上げただけだ。
「先輩、お茶が入りました」
奥の扉が開いた。出てきたのはシジマだった。シジマはこちらを見ると、驚いたように目を見開き、次に破顔した。
「良かった! 無事だったんだね! ゼノンにやられて、気を失ったまま起きないって聞いていたから、心配していたんだよ」
「ゼノン達は情けないやつだって、笑っていたわよ」
アリティアは意地の悪い笑みを浮かべる。
「面目ない」
ヨウは言い訳できない。
「疲れが溜まっていたらしくて、そのまま寝ていたのよ。どこにも異常は見られないわ」
「ふ~ん、砂漠を歩いてきたキチガイだものね。そりゃ、疲れも溜まるわ」
「アリティア先輩、失礼ですよ」
「失礼って、何がよ。私は事実を言っているし、何より、あの見事な負けっぷりは感心してるのよ」
アリティアの言葉は辛辣だったが、こちらを傷つけようしていないことは、その軽い言葉と楽しそうな表情で一目瞭然だった。下手に本心を隠す人よりも、こういったさっぱりしている人の方が、ヨウには好感が持てた。
「それで、ヨウ君はこれから学園長に?」
「うん。元々、此処にはアリエール…、学園長に用事があってきたからね」
「そうか」
「もしかしたら、此処に厄介になるかもしれない。その時はよろしく」
ヨウは手を差し出す。シジマは笑みを浮かべ、手を握り替えしてくれた。
「じゃ、行くわよ」
マリアの言葉に頷いたヨウは、皆に挨拶をして生徒会室を後にした。
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