第6話

「………」

 ボリュームがある長い赤毛と、大きな眼鏡。眼鏡の奥の瞳はカッと見開かれ、ヨウのある一点だけを見つめていた。

「………え?」

 少女と同じく、ヨウも固まった。引きつる笑みを浮かべたヨウは、彼女の視線の先にある物を目で追った。ヨウの視線は下半身に向いた。そこにあるのは、立派に成長した男性器。

 砂を踏みしめ、女性は半歩下がる。ディスプレイになっている眼鏡がキラキラと瞬き、様々な数字や文字がディスプレイを埋め尽くす。そして、左目のディスプレイにヨウの性器が拡大される。性器の輪郭がディスプレイに表示され、そこに様々な数字が現れる。

「あの……俺のを数値化されると、少し恥ずかしいんだけど。たぶん、標準サイズだと思うんだけど、違うかな?」

 そそくさと隠しながら、ヨウは尋ねた。男性器のサイズなど、今まで余り気にしたことは無かった。ヨウの言葉に、今まで固まっていた女性の顔が真っ赤に染まる。金縛りから解けたように、アタフタと眼鏡を外し両手を振る。

「へ、へ、変態だわ! 破廉恥! 恥を知りなさい! 恥を!」

 少女は吠えるようにそれらを言葉を発すると、パタパタと駆けだしたが、数歩も走らないうちに小石に躓いて前のめりに倒れた。少女は四つん這いに倒れたまま、キッとこちらを睨み付けた。そして、再び股間をその目でとらえると、また顔を赤くして明後日の方を向いた。

「つ、つ、通報よ! け、けけけ、警備員に言いますからね!」

 それだけを言い残し、少女は走って森の中へ消えてしまった。

「なんだったんだ……?」

 珍客の登場に、ヨウは毒気を抜かれたように放心した。

 結局、あの少女は警備員には通報しなかったようだ。もし、警備員が来たなら、逆にこちらの事情を説明して、学園にいる知人に連絡をつけることが出来たかもしれないが、結局、それも叶わなかった。

 満点の星空の下、虫の音を子守歌代わりにヨウは浅い眠りについた。



 翌朝、ヨウは警備員に事情を説明し、知り合いに連絡を取ってもらった。師であるジンオウから事前に連絡がいっていた為、ヨウは疑われることなく学園に入ることができた。

 初めて見るローゼンティーナの中枢。ここには、世界中の軍事力に匹敵する力が集まっている。特に、オリジナルソフィアの力は、ほかのソフィアと一線を画す戦闘力を秘めている。ローゼンティーナでは、オリジナルソフィアを元に様々なタイプのソフィアを作り出しているが、今でもオリジナルに勝るソフィアは作り出せていない。

 ヨウはエントランスの椅子に腰を下ろしながら、学生達を横目で見た。赤、白、青、黒。四色のローブを纏った生徒。四つの寮によって制服が違うと話には聞いていた。各寮はライバル同士であり、互いに切磋琢磨しながら上を目指すように組織が作られているらしい。実際目にするまで、本当かどうか疑わしかったが、どうやらその話は本当のようだ。同色のローブを纏った者同士がグループになっており、ほかの寮生と会話している生徒はごく少数だ。

 誰もが夢と希望を持ってローゼンティーナに来る。だが、その中でもソフィアを手にできるのは、ごく一部の生徒だけだ。そして、ソフィアを手に入れたら最後、ソフィアを手放すまでここを離れることができない。

 魔神戦争で荒廃したガイア。同じ轍を踏まないため、明鏡が先頭に立って世界のバランスを取ろうとした。そこで作り出されたのが、ローゼンティーナだ。魔神戦争の折に各地に散らばった魔神機。終戦と共に、そのほとんどは再び明鏡に封印されたが、中には破壊され各地に取り残された魔神機もいる。破壊されたと言っても、魔神機は自己修復機能を持っており、いつ復活するか分からない。明鏡といえど、全ての魔神機を管理できているわけでは無いようだ。嘘か本当か分からないが、ジンオウが魔神機は異世界から来たと言っていた。もし、その話が本当だとしたら、明鏡は魔神機を維持管理しているだけで、実際に操っていないことになる。

 魔神機の機動。そのキーとなるのが、文明だ。魔神機は発展しすぎた文明に反応し、活動を開始する。明鏡に住まう星守の言葉を信じるならば、『世界を滅ぼすほどの過ぎた軍事力』に反応するらしい。ならば、ここでの研究でソフィアを量産し続ければ、もしかすると、いずれその力に反応して世界のどこかで魔神機が復活するかもしれない。

 それだけではない。近年、ローゼンティーナでのみ生産されていたソフィアの情報が他国に渡り、各国が競うようにソフィアの研究を始めた。今のところ、他国で作られたソフィアが実践で使用された形跡は見られないが、もしも、ソフィアが量産され前線に投入されたなら、一気にパワーバランスが崩れ、第二の魔神戦争を引き起こす事になりかねない。

「それだけは、阻止しなきゃな」

 フードを深く被り直し、ヨウは低い言葉で呟いた。

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