剣と魔法と、

 今しかない、とアルカスは思った。


 魔王を倒した後、遺跡の中は魔物も石碑もなく、その名の通り遺跡だった。あの迷宮は魔王復活までしか存在しなかったようだ。何のための迷宮だったのか、魔王を倒して有頂天のアルカス一行に、疑問を抱く者はいなかった。

 行きの半分の時間で遺跡を抜ける。

 リゾート開発事業部の特設キャンプに着いてみれば、遺跡内の檻にいた調査団の皆さんがいるじゃないか。

 彼らが言うには、遺跡内の地下へ伸びる階段を降りたあたりから記憶がなく、気がつくと遺跡の入口付近に倒れていたそうだ。

 俺たちを誘うためのエサだったのかもしれない。

 モヤモヤした部分があるが、確かめる術がない。まあ、みんな無事だったんだし、エリザベも仲間と再開できて喜んでるし、良しとしよう。


 その夜、盛大な宴が行われた。

 この様子だと、朝まで飲み明かす勢いだな。少し夜風にあたってこよう、と席を外したアルカス。すると偶然向かった場所にエリザベがいるじゃないか。

 お酒はあまり得意じゃないんです。

 なんて笑うエリザベ。

 今なら二人きり・・・・


 告白するなら今しかない、そう思った。


 初めて出会った時から気になっていました。


 好きです! 俺と付き合ってください

 

 思い切って自分の気持ちを打ち明けるアルカス。

 エリザベは最初驚いた表情をしたが、すぐに笑顔になった。おいおい、これは好感触なんじゃないか。気持ちが高まるアルカス。


 お気持ちはとても嬉しいです。ありがとうございます。

 皆さんにはお話しましたが、勇者様にはしてなかったようですね。男性の方からはよく間違わられるのですが、実は私、『男』なんです。


 そうなんだ。男なんだ・・・・!!!!!!!!!! なに、男なのか!!

 絶句。


 ですがもし、私が男だと分かっても、思って下さるなら、喜んでお受けします。

 いいえ、勇者様なら私の全てを捧げても構いません。


 恥ずかしそうな仕草を見せるエリザベ。

 ちくしょう、可愛いじゃねえか。

 一瞬抱きしめそうになるが、衝動にブレーキをかけるアルカス。

 とても複雑な心境だった。


 ―翌朝。

 さっきまで祝宴で盛り上がり、眠ったばかりの仲間をたたき起こし、アルカス一行は旅の支度を始めた。

 ブツブツ文句を言われたが知ったこっちゃない。

 十分な水と食料の提供に感謝し、太陽がかなり登ってから出発。

 ネコババと四人の盗賊は旅に同行しない。

 なぜなら、彼らは遺跡の観光案内役を買って出たからだ。リゾート開発事業部は大歓迎である。これから遺跡観光で人が呼べるし、しかも案内役が魔王を倒した勇者のメンバー、とくれば多くの観光客が集まってくるはず。

 ウハウハである。

 とはいえ、あいつらはあくまで盗賊団。何かよからぬ事を考えているのだろうが、あえて知らないフリをしておこう。

 ほどほどにしとけよ、お前ら。

 

 「また面白い事があったら呼んでくれよ」

とネコババ。


 「こちらに来られることがあれば、声をかけてくださいね。待っています」

と、笑顔で手を振るエリザベ。

 

 その顔は反則だ。

 男でもいいかな、と変な気持ちが湧き上がってくる。一刻も早くここから離れないと、良くない方向へ進んでしまいそうだ。

 立ったまま寝ている魔法使いたちに発破をかける。

 大勢に見送られ、アルカス一行は特設キャンプを後した。


 砂の国までの旅は何の問題もなく、順調、快適なものだった。

 旅が終わりに近づくにつれ、同じ姫でも姉のほう、クレオ姫と仲良くなれないものかと、真剣に考え始めるアルカス。戦闘ではとても相性がいいパトラ姫だが、男女の恋愛となると話は別だ。

 彼の好みは清楚でおしとやかな女性。クレオ姫はまさに理想の女性。

 勇者となって、宮殿の出入り自由を許された今、何とか策を練ってみよう。チャンスはあるはずだ。既成事実を作ってしまうという手もあるな。と、ニヤニヤしていると、パトラ姫に睨まれた。

 その目はやめてくれ。心の中を見透かされているようで怖い。


 姫専用のセレブ馬車の故障があったものの、日が落ちるまでに砂の国へ到着。

 正門をくぐって、ようやく終わった、という達成感。

 明日宮殿で祝宴をあげる約束をして、姫とネゴとはここで一旦別れる。俺は家に寄ってから、いつもの酒場でクンセイとバンとで酒盛りだ。

 「先に行って、場を温めときます」

そう言って酒場へ直行の二人。

 えらいことになるんじゃないかと、ちょっと心配だが、まあ今日はいいか。

 街の大通りを横目に見ながら、俺は自宅の鍛冶屋へ。


 家の前にあの男が立っていた。

 そこにいるのが当たり前、みたいな顔で立っているから、思わず『よう、今帰ったぞ』なんて声をかけそうになった。

 「やあ、旦那。お帰りなさい」

いつもの笑顔で手を上げる男。

 「どうでした、今回の旅は? あの遺跡の迷宮をクリアするとは、さすが勇者様だ。そろそろ帰って来られるだろうと思って、追加報酬を持ってきやした」

そう言って、手に持つ袋を掲げる。

 「おお、それはすまないな」


 て、待て待て。

 そんなタイミングよく待っているか?

 この男、一体何者なんだ?


 だが、その前に・・・・

 ちょっと家の前の様子がおかしい。

 見慣れない荷馬車が二台と異国の服を着た男たち。

 その答えは、男の言葉。


 「旦那の親父さんが帰ってますぜ」


 親父が、帰っている・・・・

 ななな、なにぃ!!!


 家の中からひょっこり顔を出す親父。

 五年ぶりの再会だ。

 「ちっとも腕を上げとらんな、ヒムラハム」

 第一声がそれかよ。ま、親父らしいが。

 親父は早足で俺に近づき、三本の剣を見る。時々俺に向ける視線が痛い。

 「剣の腕は、まあ多少はマシになってきたようだな」

 「相変わらず厳しいですな、親父さん」

親父は男の方を向き、

 「良い剣を鍛えるためには、剣の腕も大事だからな」

 「そんなもんですかね」

 首をすくめる男。


 ちょ、ちょ。ちょっと待て。


 「親父、この男と顔見知りなのか?」

 俺の質問が悪かった(?)のか、親父に変な顔をされた。

 「何だお前、この男の正体を知らんのか?」

逆に聞かれた。

 つか、知ってるのか?!

 「まあまあ。積もる話もあるでしょうが、お二人とも旅から帰ったばかりだ。続きは酒場でしませんか?」

 「お、いいねえ。そうしよう。お前ら、そこで待ってろ」

 親父は異国の服の男達に声をかけてさっさと酒場へ向かう。

 男は俺に歩み寄り、

 「早速で申し訳ないんですが、また良い儲け話を持ってきやした。今回は親父さんも交えての相談ってことで。ささ、まずは酒場で乾杯しましょう」

と憎めない笑顔で俺の腕を引っ張る。


 何が何だか、さっぱり分からない。


 分かっているのは、近い未来に新しい冒険が待っている、てことだけだ。




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剣と魔法と、ちょっとの冒険とⅡ『3つのダンジョンと魔王の復活』 九里須 大 @madara

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