第2話「あなたにお会いする為に生まれてきました」
「ういーっす」
ごたごたしたせいで今朝はいつもより遅い登校になってしまったな。
「おう、水崎。腹押さえてどうしたんだ? 朝便の出が悪かったのか」
「ちげーよ。通り魔にボディーブロー受けたんだよ。お前らも気をつけろよ、奴らは我々のすぐ近くに潜んでるからな」
具体的には同じクラスにいる。気を抜いたらいつ攻撃されるかわかったもんじゃねぇ。
しかもあの暴力時計、さりげなく2発打ち込んでたからね? ホントはボクシンググローブの付喪神とかじゃないの? 正直『ですですぅパンチ』の後遺症がここまで残るとは思わなかったよ。
「相変わらずお前の言う事は意味不明だな」
「じきにわかるさ、じきにな……」
意味深キャラを演じて自分の席に着席する。俺のキャラがブレブレだな。
落ち着いたところで改めて辺りを見渡せば、生徒の中にもかなりの割合で付喪神持ちがいる。
うちの高校は付喪神は同行OKだ。ただし、当然授業中は静かにしないといけないし、人化してはいけない等、ほかにもいくつかの規則がある。
付喪神が激増した時、この辺りは教育関係者の中でもかなり意見が割れたらしい。とは言っても、俺は当時まだ物心ついて少ししたぐらいの頃だ。具体的にどういう経緯があったかは知らない。
そんな事はどうでもいいから、付喪神は他の生徒に危害を加えてはいけないという項目が無いか調べてみたが、校則にのっていなかった。何故だ。
ただ何となく授業を受けて、休み時間に顔馴染み達と馬鹿をやって、時折現れる殺人時計の奇襲をかわしながら、部活をやるでもなく、放課後のチャイムと共に帰路につく。
いつからだろうな、毎日がこんなルーチンワークの繰り返しになっちまったのは。
少なくとも小学生の頃は1日1日がキラキラ輝く色とりどりの日々を送っていた気がする。中学の時はどうだっただろうか? 日々が色褪せたのは高校に入ってからか?
この年でこんな枯れた事を考える自分が嫌になるな。
なんて若々しさのない高校生だ……そういえば今年高二病か。それに違いない。
そうこう青春ならぬ黒冬に想いを馳せているといつの間にか自宅に到着していた。
「あー、鍵かかってるな。母さん出かけてんのか」
玄関扉のキーポイントに手の平をかざすと、すぐにロックが解除される。
「ただいまー」
当然唯一の家族である母さんがいないので、その挨拶に返事はないはずだった。
はずだった……。
「おかえりなさい、渚さん」
見覚えの無い愛らしい少女が玄関にちょこんと正座し三つ指をついていた。
「ん?」
誰だこいつは? 俺の名前を知ってるって事は知り合いか? いや、そりゃ無いだろ。
淡いブロンドの髪と白を基調とした服装……こんな天使みたいな印象の少女を忘れるとは思えない。羽とか生えてても似合いそうだもん。
しかし服の色はともかく、その形状がいただけない。ボディラインがくっきり浮かび上がったきわどい服装だ。ピチピチだ。ちなみに年齢もピチピチっぽい。
そのあどけなさの残った顔立ちが、服飾の艶かしさと絶妙な割合で溶け合い、えも言わぬ儚さと背徳感を醸し出している。
非日常のその光景に、思わず思考がフリーズしてしまう。
凍てつく俺の心境とは裏腹に、少女は見るもの全てに暖かさを与えるような笑みを浮かべている。
にっこりと微笑むご尊顔から放たれる視線は、間違いなく俺の顔に固定されていた。
「ひぇっ……!」
事案……その二文字が俺の脳裏を駆け巡る。
いくら俺自身が10代とはいえ、少女誘拐&監禁で明日の一面をかざったりしてしまったら人生シャットダウンだ。これにて閉幕待ったなし!
「世界はこの俺を貶めて何になるというのだ! 運命とはこうも残酷だというのか!」
追い詰められたマッドサイエンティスト風に発狂してみた。現代風の自己防衛(俺アレンジ)だ。
「??」
少女はわけがわからないと言った風に首をかしげている。
まぁ俺も自分で変な発狂しててわけわからないしな。同じように首をかしげておこう。ついでに頬に人差し指をあてて、ぶりっ子ポーズで知らぬ存ぜぬを貫き通そう。俺の名前って女っぽいし何とかなるだろ。
そんな風にシュールな状況が生まれそうになった直後、玄関のノブが音をたてる。
「渚? 玄関に立ったままでどうしたの?」
母さんは俺の後ろに立っている。つまり今しがたの俺の奇行は目撃されていない……ひゅー、助かったぜ。
「いや、それがさ……」
体を横へずらす。当然母さんの視線は、俺の肩越しに少女の方へと向けられる。
「その子は? まさか誘拐じゃないでしょうね?」
なんで真っ先に息子の犯罪を疑うのかな?
しかしながら、奇しくも母の疑問に答える少女の次の言葉でこの事態を把握するに至る。
「申し遅れました、私は湊重工製ウィンドバイク『ER-25ZR』の付喪神 。渚さん、あなたにお会いする為に生まれてきました」
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