第42話 砕ける破壊神と生まれる何か
俺が両手で掴んでいるのはアダマンタイトで造られた破壊神と呼ばれる像の右足。その右足から続く像の体は像が壊してきた町の瓦礫の上に倒れこんでいる。倒れながらも4本の腕と左足を激しく動かして俺の手を振りほどこうとしているが、瓦礫の山をさらに細かく砕く事しかできていない。
あまり暴れるなよ。
このまま瓦礫の上に倒れたままにしておくと町の被害が大きくなりそうなので、掴んだ右足に力を入れて像の体を持ち上げた。
ゴバッ、ガララララララ
暴れる像の腕や足にまとわりついていた瓦礫が落ちていく。
誰かに当たるかな?
両手で真上に像を持ち上げたまま、俺は首を回して辺りを確かめた。像が倒れていた辺りには誰も居ない様だ。像と戦ていた黄色いローブの者達は今は俺の背後に居るから、像を持ち上げた時の瓦礫は届いていないだろう。
「な、何をしているんだぁぁぁ!!」
「おい、あれは誰だ!?」
「どうやって持ち上げた!? 何の魔法を使っているんだ!?」
その背後に居る者達が上げる悲鳴の様な声が聞こえてくる。
魔法じゃなくて筋肉だよ。
俺がそう言おうとした時、像の表面が一瞬だが赤く光ったように見えた。
キュン
あ!
振り返った時には町を貫く様に真っすぐ、白い光が伸びていく。
ジュバアアァァァァァァァァアアアァァァァァン
そして、光が当たった所が全て溶け、そして破裂した。
そうだった……こいつは目から光を放つんだった。となると足を掴んで持ち上げている場合じゃないな。さっさと頭を潰してしまわないと。だが、地面に倒したらまたこいつは暴れてしまう。今だって俺の手の上で暴れ続けているんだからな。
倒さない様にしながら頭まで到達する方法……足元から順に砕いていくというのはどうだろうか?
ありだな。
どうやって砕こう。
殴るか?
でも俺は殴り慣れていないから空振りしそうだな。掴んだまま握りつぶすのが良さそうだ。それの方が筋肉の良さも伝わりやすそうだしな。
俺は像を持ち上げたまま右足を掴んでいる両手の掌に力を込めた。
握力で潰す。
ビギジッ!!
アダマンタイトの黒い表面が一瞬振るえ、そして粉々に砕け散った。そして砕けてなくなった右足の場所に落ちて来た右足首を掴んだ俺は、その足首を同じように握りしめる。
バギビジッ!! ビギジッ!! ギバブジッ!! ビビギジッ!! ブバギジッ!!
足首を砕く。次に、ふくらはぎ、膝、太腿。そして、腰。腰を砕く事で左足が千切れ、地面に転がったが足を支える体が無いのでただ地面の上でのたうつだけだった。腰から上は足よりも太いが、出来るだけ真ん中辺りを掴んでそのまま砕いていった。
グギバジッ!! ゲブバジッ!! ギギベジッ!!
腹、胸下、胸を砕き、とうとう首を掴んだ。一気に砕いて終わらせる。
ビジジッ!!
首を砕き、顎の下を掴んだ時、額の第三の目が光を貯めているかの様に赤く輝くのが見えた。
あの光を放つのか!?
そう思った俺は顎の下から手を離し、第三の目が下に向くように頭をクルッと半回転させる。
これ以上は町を壊させない!
半回転させた結果、俺は両手で額を挟む様に掴んでいる。つまり、第三の目は俺の真上にあるという事になる。
よし、このまま、第三の目を砕いて……
キュン
うわ!
俺が砕くよりも早く、光が放たれた。俺はその光を遮ろうと右手をかざす。
ヂヂヂヂヂヂ
小さな鳥が鳴くような音が俺の右手から聞こえる。白く眩しい光の中、目を細めて見上げると像が放つ光が俺の右の掌に遮られて逃げ場を失い光の球へと変化していた。
光って掴めるのか!?
光の球は俺の手に遮られて徐々に大きくなって行く。俺の手から溢れ出そうだが、手の中に広がる感触が俺にある事を気づかせてくれた。
これも握りつぶせるかも?
俺は右の掌に力を込めた。俺の手の中にある白い光の球が歪み、そして……
チュボン!
それは破裂しそうな力をより大きな力で封じ込め、そして力そのものを粉々に砕く。そんな感触だった。
「あの光を……受け止めた!?」
「だから、あれは何の魔法だ!?」
「わからん! 分かるわけないだろ!?」
像の第三の目にはまっているゆがんだ水晶から溢れる混沌の力で放った光を自分の掌で受けきった時、俺の中で今まで溜まっていた分厚い雲の様なモヤモヤしたものが一気に晴れた。
あ! そうか!!
今まで魔法という未知のものや、オデさんという謎の存在、そして自分の筋肉、それらの関係が理解できず、ただ闇雲に恐れを抱いて来たのだが、それが分かったのだ。
それら全てが力という観点では同じものだという事に。
あの魔感紙が魔法を使えない俺に激しく反応したのも、それについてテオフーラが言っていた生命力という言葉の意味も、そして、アルゴナイトやゆがんだ水晶の事も。難しく考える必要は無かったのだ、要するに力が強いかどうかという至極単純な関係だったのだ。
今、俺の手の中にあるこの像の頭。第三の目があり、額にエメスという赤い字が浮かび、再び粉々になったアダマンタイトを集めて元に戻ろうとしているこの像。
現時点では俺の力の方が強い。
掴んでいるだけで、いや、見ただけで俺にはそれが分かる様な気がする。この後、この像が何度復活しようとも、俺はこの像を砕き続ける事が出来るだろう。そして、それを繰り返すことで俺の体は、筋肉は、さらに強くなってしまうかも知れない。
無駄な事はやめろ。
元の身体に戻ろうとする像。その力の中心は第三の目ではなく、その上で赤く光るエメスという文字にある事が分かった。その力を砕こうと俺は右の拳をその文字に叩き込む。
ゴズン!
あ、ちょっとずれた。
格好つけてパンチにした結果、殴り慣れていない俺の右拳は文字の真ん中ではなく、少し左にずれてしまう。
横着せずに額の部分を握りつぶした方がよかったかもな?
ピキィィィィィイイィイイィィィィィィィン!!
俺の右拳はエメスという文字のエの部分を巻き込んで像の額に突き刺さっている。つまり、俺が消すことができたのはエメスという文字のエの部分だけ。そして残ったメスという文字はまだ赤く光っていたのだが、そのメスという文字が甲高い金属音を放ちながら赤い光の粒をまき散らして消えて行った。
それと共に集まりかけていた像の体が再び粉々に砕けて行く。俺が掴んでいる頭の部分も同様に粉々に砕け散った。
キュピーン
その中で1つだけ小さな欠片が地面に転がった。それは第三の目、輝く何とかというゆがんだ水晶だった。
これは砕けないのか?
最初からそうだったのか、それとも像にはまってからそうなったのか、力について理解する前の俺は気が付かなかったが、このゆがんだ水晶から渦巻く様な、漂う様な、そして噴き出す様な力を感じた。
これは、良くない力だな。
ミシェルさんは力に善悪は無いと言っていたが、うまく言えないがこの力は違う気がする。力自体は悪くなくても、この力を得た者はおそらく全員が破壊を望んでしまうだろうからだ。それは、とめどなく溢れる力を解放せずにはいられないからだと俺は感じた。
あのアダマンタイトの像が踊っていたのは破壊したいのではなく、単純に溢れる力を解放していただけなのだろう。それは、このゆがんだ水晶がそれを持つにふさわしくない者にも力を与えてしまうからだ。そして、混沌と言っていたこの力はそれを望んでやっている様に思えた。
俺はその事に悪意に近い物を感じたのだ。
これはここで砕いておくべきだな。
地面に転がるゆがんだ水晶を俺は手に取りそして握った。
「モキュ」
それは結構柔らかい感触だった。握りしめた手の中に何か柔らかい物の感触が広がる。
何だ? それにモキュって言った?
握りしめた右手を開くとその上に見た事もない物が乗っていた。
「モキュキュ」
たくさんの手足の様な触手と小さなとんがり帽子に赤い3つの瞳があり、横一文字に裂けた様な口のある。そう、それはまるでオデさんだった。
小さいオデさんだな。
その小さいオデさんは、俺の掌の上でモゾモゾと蠢きながら踊っているのかと思ったら、急に俺の顔に向かって飛んできた。
「うわ!」
「モキュッキュゥ!」
何かされた!?
そう思って俺は自分の顔に張り付く小さいオデさんをはがそうとするが、オデさんは俺の指の間をすり抜けて頭の上に登って行った。
「んん?」
「モキュキュゥ」
俺を攻撃してきたのかと思った小さいオデさんは、俺の頭の上を一通り動き回ると、髪の毛に触手を絡ませるようにして立ち止まった。丁度、俺の頭の真ん中辺りだ。
一体、何をして……
「モキュゥゥゥーン」
頭の上にいる小さいオデさんを掴もうと頭の上に手を伸ばすと、小さい触手が俺の指先にまとわりついた。どうやら攻撃しているのではなくて、じゃれている様だ。
可愛いな。
いや、見た目は全く全然可愛くは無いのだが、小さくてじゃれつく様子がなんとなく可愛いと思ってしまったのだ。まあ、蜘蛛とか虫とか嫌いじゃないしな。
そこに居たいのか?
「モキュン!」
あのゆがんだ水晶を握ると、小さいオデさんが生まれるのか……じゃあ、俺が出会ったオデさんもそうやって生まれたのだろうか? 全く同じ方法という事ではないだろうが、基本的な手順は似たようなものなのかもしれない。
オデさんは見た目はあれし、何でも食べようとするヤバイやつだったが、俺の命の恩人でもある。そう考えるとこの小さいオデさんを放ってはおけないかな。
「わかりました。でも悪い事をしたら、オデさんみたいに食べちゃいますよ」
「モキュキュン!」
食べてもいいのか? いや、俺の言っている事が分かっていないのだろう。小さいオデさんが現れるという変な結果になったが、とにかく暴れる像を止める事ができた。
「お前、何者だ!!」
ほっとする俺に声をかけてきたのは、像を止めようとしていた黄色いローブを着ている魔法使い達の1人だった。像の光を食らってその殆どがやられてしまったはずだが、俺を取り囲む様に数十人が立っていた。
「無事だったんですか?」
誰かの治療で元気になったのかとほっとしたのだが、どうやらそうでは無い様だ。
「無事? それはどういう意味だ? 一体、ここで何があった? 破壊神は何処に消えた?」
話がかみ合わない。俺を取り囲んでいるのは像と戦っていた者達とは別の魔法使いなのだろうか?
「隊長、あのローブ、あれは、フシュタン公国の魔法局のローブです」
「何? 本当か?」
「はい」
「お前はフシュタン公国の魔法局の者か?」
フシュタン? あ、そうだ、ロマの魔法局やエルコテの学園があるのはフシュタン公国という国だった。こんな事件を起こしたミシェルさんに教えてもらった情報が、こういう場面で役立つ事になんとも言えない気持ちになったが、俺は素直に返事をした。
「はい。僕はロマの魔法局の局員です」
「ロマ? フシュタン公国の首都か……そうか。つまり、これは宣戦布告ということだな」
「え?」
「国交のない他国でこれだけ暴れたのだ。この者を捕らえよ。局に連れて行くぞ。残りの隊は救助を続けろ、町の修復については、私から要請を出しておく」
「はっ!」
10人程を残して、取り囲んでいた者達は要救助者の捜索に向かって行った。残った10人程の者達は両手を俺に向かって真っすぐ伸ばしながらゆっくりと俺に近づいてきた。
「あの、宣戦布告ではなくてですね」
「事情は後で聞く。とにかく一緒に来てもらうぞ!」
事情を聞いてもらえるのなら、おとなしくついて行くか。
「わかりました」
「よし」
俺を取り囲む様にしながら、黄色いローブを着た者達が歩き出したので、俺は先頭の魔法使いの後をついて行った。
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