第41話 魔法使いと破壊神
道理の通らない破壊、その前には人の力など無に等しい。まるで地面すれすれを突き進む隕石の落下の様に町をえぐりながら真っすぐに進む巨大な像。何ができるか分からないがそれでも俺は瓦礫を乗り越え像を追った。
ドゴォォォン
バズゥゥゥン
ギバァァァン
聞いた事も無い様な音が町に響き渡り、その音に驚いた人々や破壊された建物から避難していた人々が像が通り過ぎた瓦礫の山の上に立っている。中には、瓦礫を掘り起こして救助を行っている者達もいる様だ。
「ここに人がいるぞ! 救護班! こっちだ!!」
「魔法局の者達は動いているのか!?」
「はい! 既に1番から5番が向かっています。まもなく戦闘に入るかと」
「よし、我々は進路上の人々の避難と、人命救助に徹するぞ!」
「はっ!!」
救助を行いながらそう叫んでいるのは黄色いローブを着た者達だった。数人で大きな瓦礫を持ち上げたり、怪我をしている人に治療をしているようだが、それらは全て魔法で行われている様だった。
魔法で物を運ぶこともできるのか。
怪我や疲労を治す事が出来る事は知っていたが、そんな方法があるとは思わなかった。やっぱり便利だな魔法は。いやいや、俺の筋肉にだって良い仕事ができるはずだ! 俺は忙しく動きまわる者達に声をかけた。
「あの、何かお手伝いする事はありますか?」
大きな瓦礫を取り除いた数名の者達の内の1人が振り返る。埃まみれの黄色いローブをまとい、汚れた顔もそのままに俺を見上げたのは、日焼けした顔に深く刻まれた皺が特徴的な男だった。その鋭い目が俺を一瞬で品定めする。
「でかいな。ん? 君は……学生? かね?」
「あ、いえ。違います」
「そうか。見慣れないローブを着ているが、どんな魔法が得意なんだ?」
得意な魔法!?
「いえ、得意な魔法は……」
「治療か、操作か、どちらでも手伝ってもらえるなら助かるが?」
「あ、え、えっと……瓦礫の除去でしたら……」
「そうか、操作だな。わかった。ではまだ被害の軽い、あの辺りの瓦礫の下に要救助者が居ないか確認してくれ。もし要救助者を見つけた時には我々を呼んでくれたら良い。だが、無理はするな。救助する者が怪我をしては意味が無いからな」
鋭い視線は変わらないが、その口元は少し綻んだ。像を止めたい気持ちはあったが、瓦礫に埋もれている人達を無視することはできない。
「はい!」
俺は指示された場所に向かった。そこは民家だったようで、家の半分ぐらいが崩壊している。まだ建っている部分からは住民らしき人の気配は無いので既に避難しているのだろう。後は瓦礫の下に誰も居なければ良いのだが……。
俺は家の前の道に瓦礫を拾い上げて運んだ。俺の運び方は単純だ、掴んで持ち上げて運ぶ。
ゴ……コトン
ガ……コトン
ズ……コトン
積み重なった瓦礫を次々に持ち上げ、それを道に並べて行った。レンガを積み上げた様な壁は思ったより脆いので、力任せに動かすと無駄に砕けてしまう事が分かったので、俺は壁を壊さない様にそっと持ち上げ、そっと運んで、そっと置く。重さは大したことは無いが、繊細で正確な動きをするのはそれはそれで良い筋トレになりそうだ。俺は腰や関節を傷めない様に注意しながらその作業を繰り返した。
よし、ここは終わった。
顔を上げて辺りを見渡すと、黄色いローブの者達はまだ先程と同じ建物の瓦礫の除去を行っている。
遅いな。そんなに慎重にやらないとダメな場所なのだろうか?
俺が作業の終わりの報告を彼らに伝えようとした時、すでにかなり遠くまで進んでいる像の辺りで大きな爆発音が鳴り響いた。
ゴオゴゴオオゴゴゴオオォォォォォォン
俺だけでなく、その場にいた全ての物達がそちらを向いた。
「始まったか」
「はい」
瓦礫を魔法で持ち上げている黄色いローブの者達がそう呟く。
あの巨大な像が小指の先ほどの大きさになっているが、その周りで赤い光がいくつも輝いている。
「1番隊から仕掛けたようですね」
「そうだな。炎のリヨウが暴れているな」
あれは魔法なのか? 爆発というよりは炎の筋の様な物が何本も伸びているように見える。あのアダマンタイトという黒い金属に炎が効くのだろうか?
俺はその攻防をもっと近くで見たくなってしまい、そちらに向かって走った。
「あ、おい! 君!! 近づいちゃいかん!」
後ろで誰かがそう叫んだが、俺は言い知れない不安を感じて走った。何かこう、これ以上あの像を刺激してはいけない気がしたのだ。
近づいていくことで何となくの状況が理解出来て来た。崩れていない建物の上に居る魔法使い達が、建物の上を移動しながら像に攻撃を仕掛けている様だ。何本もの炎の筋が像に伸び、像が燃え上がっている様に見える。
ちゃんと効いている?
だが、像自体はそれらに対し特に特別な動きをする様子はなく、相変わらず踊るように前進し続けていた。
やっぱり効いていない?
キュン
それは突然の出来事だった。像と魔法使いの攻防を全体でとらえる事が出来る位置まで近づいていた俺の頭上を炎とは異なる白と言うか黄色い光が通り過ぎた。
ジュバアアァァァァァァァァアアアァァァァァン
溶けた。そして破裂した。
光が通り過ぎた後の建物の変化を言葉にするなら正にそんな感じだ。光が放たれたのは像の額、あの輝く何とかがはまっている場所だ。その光を放ちながら像は首を一回転させたのだ。その額にある第三の目が見つめていたのは建物の上で像を取り囲んでいた魔法使い達だった。
彼らは建物ごと溶かされ破裂したのだ……一瞬で。
「くそ! 1番がやれた! 今のはなんだ!?」
「次は我々が行く!」
「待て! シユウ!! 我等も行くぞ!」
「シィジ! 分かった。トゥマ! シン! 残っている我々で一気に倒すぞ!」
「おう!!」
像と並走しながら建物の上に新たな魔法使い達が現れた。その数はさっきの4倍程だ。全員黄色いローブをまとっている。
「我々はやつの足を止めるぞ!」
像の前に位置する者達が像の足元に冷気の塊が襲う。
なるほど! 凍らせて足を止めるのか。それは中々良さそうな作戦だ。
「我々は奴の腕を抑えるぞ!」
左右の者が腕に向かって泥の様な物が降り注ぐ、それは像の腕に次々に纏わりつき固まって行く。
おお、すごいぞ! 腕の動きが鈍くなったように見える。
「あの目の光を出させるな!」
後ろにいる者達が像の頭部に風の様な物を纏わりつかせた。竜巻の様な風の渦が像の頭部を包み込んだ。
空気の渦で光を防ぐという事か? そんな事できるのだろうか?
「動きが鈍くなったぞ! このまま焼き焦がしてやる!」
最初の炎の線を放つ者達の様に、周りを取り囲んで電撃の様な物を放った。動きが鈍くなった像の周りをスパークの様な物が走っている。あれはアレッサンドロさんの雷の様なものか。デボラが作ったアダマンタイトはそれで溶けていたが、像もこれで溶けるのだろうか。
徐々に動きが鈍くなる像を見ていると彼らの魔法はちゃんと効いている様なのだが、俺の中の不安は消えては居なかった。だが、そんな俺の不安とは裏腹に、足元を凍らされ、腕の動きを封じられ、光を放つことも出来なくなった像に変化が現れた。
ピキィィィィン
甲高いその音と共に像の足と腕が裂けたのだ。そして、それに合わせて胴体から首も転げ落ちる。
ゴオオォォォン!!
それを見た魔法使い達から歓声が沸き起こる。
「やったぞ!!」
「おおおお!!」
まだ凍り付いている両足の前に胴体と首が転がり、その両側に4本の腕だった泥の塊が落ちている。それらを取り囲む様に魔法使い達が建物の上から降りて来た。
「やはり、この像はアダマンタイトで出来ている様ですね」
「うむ。しかし、こんな硬い金属をどうやって動かしていたんだ?」
「恐らくですが、あの額の目の様な部分が関係しているのではないかと」
「局から何か情報はあったのか?」
「いえ、ですが例のあの者達の仕業ではないかと……」
「それはただの噂に過ぎない、安易に信じてはならんぞ」
「隊長、これはこの後どうするのですか?」
「そうだな、とりあえず局に運んでしまおう。ここにこのままにするわけにもいかないし、これ以上の破壊もここではできないだろう」
「分かりました」
「その後は我々も瓦礫の撤去と要救助者の捜索と負傷者の治療に回るぞ!」
「はい!」
近くまで来ている俺に気づく暇もなく、魔法使い達は忙しく動き回っている。どうやら壊れた像をどこかに回収する様だ。不安を感じていた俺の予感が外れて少しほっとして俺は彼らの作業を眺めていた。何か手伝えるならと思ったのだが、かえって邪魔になりそうな気がしたのだ。
コトコトコトコト
それは最初は小さな音だった。
ゴトゴトゴトゴト
だがすぐに大きくなり。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
大地を揺るがすような轟音へと変化した。
「なんだ!?」
「隊長! こいつ、動いています!!」
「何!?」
魔法使い達が再び魔法を放とうとしたその時、泥にまみれた腕が首を持ち上げる。
キュン
眩しい光が俺の目の前を通り過ぎた。
ジュバアアァァァアアアァァァァァン
そして、足元の地面ごと周りにいた魔法使い達を溶かしてしまった。
「うわぁぁぁ!!」
「たいちょぉぉぉぉぉ!!」
「ぎゃあぁぁ!」
痛みと困惑と恐怖を含んだ絶叫が聞こえる。その声を力に代える様に像は足と腕、そして首を取り戻し立ち上がった。
エメス
初めて動き出した時と同じように額に赤い文字が浮かんだ。あの文字が浮かぶと復活するのか? いや、違うな。あの第三の目、輝く何とかがある限り、この像は復活するんだろう。つまり、壊すなら像の体ではなく、あの目という事か。うまく行くだろうか? だが、何もせずに見守っていては何の為にここまで像を追って来たのかわからない。
ドゴォォン! ドゴォォン! ドゴォォン!
完全に元に戻った像は再び歩き出そうとしている。
だめだ! これ以上は行かせない!! どこまでできるか分からないが、ここから先は俺がやる! 筋肉の名にかけて、お前を止めて見せる!!
俺に背を向けている像の足元に向かう。
「な! お前! 何をしている!!」
「危ない! 近寄るな!!」
生き残っている魔法使いが俺に気づいたようだ。だが、構わず俺は足の下に入り込み、踏みつけられる足に両手を伸ばした。
パシッ
あれ?
「え?」
「へぇ?」
「はひぃ?」
町を砕き、地面を割り、人々を踏みつぶしてきた像の足は、意外とあっさりと俺の両手で抑え込めた。
えい!
と心の中で掛け声をかけて、掴んだ足を軸に像を後ろに向かって振り下ろす。
グゴバァァァァアアァァン!
地響きを上げて像が地面に倒れる。
か、軽い……。
ものすごく重そうに見えた像は、意外な程軽かった。
そ、そんな物なの? これ? 弱くない?
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