序章

黒の襲来

第1節 悪魔の少年

 樹齢じゅれい四百年を超える大木たいぼくが侘しくひっそりと佇む草原に暖かく穏やかな潮風が吹き流れ、草花に音を奏でさせた。時折、崖下のマーテルマレ大洋たいようからは岩肌に打ち付ける波の音が聞こえてくる。

 その優しい音色で、大自然の中に溶け込むように眠っていた少女、リズが静かに目を覚ます――。

 リズはゆっくりと瞼を開き、身体を起こした。昼寝をする前は頭上に在ったはずの太陽ソルは、今まさに水平線の彼方に沈んでいく途上。そこから視線を再度空へ羽ばたかせ、橙色から藍色に変化していく夕空のグラデーションをぼーっと眺める。


「リズせんせ、リズせんせ! この本の続きは?」


 弾むような明るい声がしたかと思うと、リズが伸ばしていた脚の上に幼い女の子がすとんと乗っかってきた。イブハムさんのところのミカだ。ミカはその質問とともに、一冊の絵本を見せてくる。

 リズが眠い目をこすってから絵本に視線を向けると、視界奥の方からは騒がしい声が聞こえてきた。村の子供たちがかけっこでもしているのか、楽しそうな声を上げながら次々と大木の周りに群がりはじめる。彼らはリズのように木陰でお昼寝をしに来たわけではないらしい。


「……どうしてあそこで終わってしまったの?」

「ねえねえこの後どうなっちゃうのー?」

「リズせんせ、これで終わりじゃないんでしょー?」

「続き描かないのー?」

「ねえねえせんせー!」


 他の子供たちからも矢継ぎ早に質問が飛んできた。好奇の色であふれた瞳を輝かせ、リズの回答をまだかまだかとはやし立てた。まだなんの色にも染まりきっていない子供たちの無垢な反応に、リズは思わず笑みをこぼす。


「うーん……と、ね」


 まだ夢見心地が抜けない。あえて考える素振りを見せ、大きく伸びたりあくびをしてたっぷりと焦らしてから、


「さあ、どうなるだろうね」


 舌を出してそらとぼけた。これには大人しく待っていた子供たちも、各々おのおのが納得いかないという態度をあらわにし抗議する。


「えー、どういうことー?」

「先生が書いたんでしょー?」

「せんせー分かんないのー?」

「……本当は知ってるんでしょ?」

「まあまあ、みんな落ち着いて」


 ひっ迫して騒ぎ立てる子供たちを落ち着かせようとリズが左手を挙げると、子供たちは一斉に口を閉ざした。子供たちの視線はリズへ注がれたまま、彼女からの返答を待っている。しかし膝の上にいたミカだけは違った。


「ミカ?」


 様子がおかしい膝元の少女にリズは声をかけた。

 するとゆっくりとミカが顔をあげた。瞳に映る自分の顔が揺らめいているのが分かった。


「せんせ……くーちゃんは、ずっとこのままなの……?」


 ミカの言葉に思わず目を見張った。たかが自分の描いた絵本の中の主人公にここまで心を動かし、想ってくれているなんて……。

 咄嗟に彼女を抱きしめたい衝動に駆られたがぐっと堪え、せめてもの愛情表現としてミカの頭に左手を置き、優しく撫でた。

 ミカは生まれながらにして両親の顔を知らない孤児だが、自らの不幸にとらわれることなく、些細なことにも大きく心を動かす心優しい女の子に育っている。感受性の豊かな彼女を傷つけてしまわぬよう、なんと言葉をかけるのが適切だろうかと考えながら、リズは慎重に口を開いた。


「ミカは、くーちゃんにどうなってほしい?」

「くーちゃんに……?」


 突然の問い掛けにミカは左右へ視線を泳がせていたが、そのうち再び俯いてしまった。


「えっと、ミカは……」


 考えていることを上手く言葉にして紡げないのか、それともまだ想いがハッキリしていないのか、答えがが返ってくる様子はない。


「じゃーあ、くーちゃんがどうなったら、ミカは嬉しい?」


 優しく左の口の端をあげ、精一杯微笑みかけると、沈んでいたミカの瞳にようやく光が戻った。


「お空を飛んでほしい……! ミカは、くーちゃんに自由になってもらいたい!」


 ミカの言葉に呼応するように「オレもそれがいい!」「わたしも!」と周りの子供たちも声を重ねた。


「そっか……だったら、ミカや皆がそう思ってくれていたら、くーちゃんはお空を飛んで、あのオケアノスの彼方にだって飛んでいくことが出来るよ」


 今まさに太陽ソルが沈みきりそうな水平線の彼方をリズが指差すと、子供たちはその食指の先を一心に辿った。それから真っ先にミカの弾んだ声が響く。


「ほんとっ!?」

「うん。きっとね」

「じゃあじゃあ、ミカ、ミカエル様にお願いするねっ! くーちゃんがお空を飛べますようにって!」


 ミカは瞳に色を取り戻し、草原に咲く花に負けないくらい可愛らしい花を顔に咲かせ、胸元の祈祷具オラティオを両手で握りしめ、天使への祈りの仕草をして見せる。それからすぐに立ち上がり、村の方へと続く獣道を慌ただしく駆け戻っていった。ミカの背中を追うように、他の子供たちもリズにさよならを告げて同様に去っていった。リズはそれを手を振りながら見送る。

 子供たちが一斉にリズから離れていく中、その場から動かず「じー」っとこちらを見つめてくる少女がひとり。

 それは無色レクサスと呼ばれる御名色みないろを持たないひとが大半を占めるフィッシャドーフ村では珍しい、昼の空よりあおあお碧眼へきがん双眸そうぼうが特徴的な少女――ファナだ。

 ファナは同年代のミカたちとは違う雰囲気を持つ、少々変わっただ。年相応に感情を解放して村中を走り回ることはしない。リズの絵を見ても「すごい」とか「わー」とか「きれい!」と感嘆詞を発するわけではなく、「どうしてここはこの色にしたの?」「なぜこれを描いたの?」と、リズでも深く考えていない部分にまで疑問を持ち尋ねて来る。大人びている分他の子供たちのように手を焼かなくて済むが、リズはどうも彼女が苦手だった。


「あなたは行かなくていいの……?」


 リズはファナとのにらめっこに耐え切れなくなり口を開いた。碧眼はまばたきを一切せず、控えめな唇だけを小さく動かして答える。


「……まだ、聞いていないから」

「何を?」

「……リズが、にどうなってほしいのか」


 ファナのその問いかけに、寝ぼけていたリズの脳は完全に覚醒した。

 やはり彼女は他の子供たちとは違うものを見ている。目の色が違うと実際に見えるものまで違ってくるのかと思わず勘繰ってしまいそうになる。

 リズは無意識のうちに唾を飲み下した。彼女は答えを聞くまで動こうとはしないだろう。


 ――私は……彼女わたしにどうなってほしい……?


 それは、いざ自問しても見出すことができなかった答え――。

 だが改めて他者ファナから問い質されたためか、あるいは無垢な女の子たちの想いを受け取ったからか――。

 リズは、一足先に夜の闇を瞳に宿す少女に向き直った。


「……私も同じだよ。この広い世界へ飛び立って、色んな景色を眺めて欲しい。見ることのできなかった世界を、自分の翼で飛んで……確かめてほしかった。……と、思ってる」


 リズは自分の気持ちを確かめるように、言葉を選びながら訥々とつとつと紡ぐ。なんとなくファナの反応を恐れて、リズは言葉の途中で視線を落とした。

 それは願いだ。かつての希望でもあった。

 だが、今となってはもう――。

 しかしファナは満足のいく解答ことばを得たのか、ぺこりと年相応に可愛らしいお辞儀をするとリズのもとから去っていった。

 子供たちの喧騒はいつの間にか聞こえなくなっていた。

 草原が静けさを取り戻したころ、リズは大きく息を吐いた。ぜになった感情に、思わず表情を歪ませる。無意識の内に負の感情に囚われそうになるのを、自分の胸倉を掴んで食い止める。

 誰も救ってくれないのに、不幸な少女を演じていたって仕方がない……。

 何度目になるのか、空を見上げる。いつの間にか空には星がひとつふたつと生まれていた。視界の隅では、夜の訪れを告げる夜光虫ステラの青白い光がぽつぽつと、星よりもずっと近くで瞬きはじめている。


「私もあんな綺麗な色に染まれたら……」


 ――パキッ。


「っ!?」


 小枝の折れる音に、身体が跳ねた。咄嗟に地面に左手を突き、身を固くする。音のした方へ視線を向け目を凝らしていると、次の瞬間には森の茂みの奥から縦に長い黒い影が飛び出してきた。


「――っと……ああ、すまん、俺だ。魔物じゃないから安心してくれ」


 無抵抗の意思表示である両手を挙げたポーズのまま現れたのはヴィラーだった。リズは彼だと分かった瞬間に大きく息を吐きながら大木にもたれかかり、思いつく限りの罵声をぶつける代わりにヴィラーを睨んだ。


「しっかし、相変わらずリズは子供たちに好かれているなあ」


 ヴィラーは呑気な調子で、リズの睥睨の視線などおかまいなしに「はははっ」と笑った。温厚な彼にその気はないとわかっていても、なんだか皮肉を言われている気分だ。

 彼は一見頼りない性格をしているが、縦はリズの顔一つ分身長が高く、村の大人たちに雑ざって力仕事全般を担っているため横幅もがっちりしている。王都へ行けば誉れ高き国王直属の騎士団への入団も叶ったであろう身体能力と剣技の素質も兼ね備えているくらいだ――にもかかわらず、齢十二の歳の暮れに迎えた成人の儀を終えて三年が経とうとしている今もなおこの村に留まっている偏屈者だ。

 もっとも、今頃になって村を出ようと思っても、大人たちが彼を手放すことはしないだろう。

 何故なら老人ばかりのこの村は若い働き手が圧倒的に不足しているからだ。今や彼は、大人たちにとってはなくてはならない存在となっていた。

 どうせ心優しい彼のことだ、生まれ育った村の大人たちへ恩を返したいとか、そんな理由でずっと残っているのだろう。そのことで、リズもとやかく口出しをするつもりはない。

 とはいえリズは密かに疑問に思っていた。

 成人して村を去る同齢どうれいの子らから異端視いたんしされてまで、自分とは対照的な存在である彼が、多くの可能性を捨ててまでに残ったのはなぜなのかと。


「……というか、もう夜だぞ。いつまでこんなとこに居る気だ? 結界が張ってあるとはいえ、今日こそは凶暴な魔物が現れないとも限らないからな。危機感は捨てちゃあならんぞ」

「ナニソレ、ぜんぜん怖くないよーだ」


 がおー、と子供をおどかすような仕草をみせるヴィラーにあっかんべーを返すリズ。

 この辺境の地に魔物が襲撃してきたことは、リズがこの村へ来てからただの一度もない。フィッシャドーフ村は、魔物からも忘れられるほどに平和な土地だった。それはもう、退屈なほどに――。

 なんとなく不快な気分にさせられたので、リズは口を尖らせたまま問い返した。


「……そういうヴィラーはなに、まだ仕事終わりの時間じゃないでしょ。こんなとこまで来てまたサボり?」

「心外だな。俺は以外は仕事を抜け出したことは無いぞ。……あと、べつに悪気は無かったんだからそう怒るなって」

「べつに、怒ってないよっ。……それで? 今がそのヒジョージやらだとして……それは私に関係あるもの?」


 本題を尋ねると、ヴィラーはやれやれと身振りをしてから腰に手を当て、話を切り出した。


「実は……珍しいもんが村に流れ着いたんだ」

「珍しいモノ?」

「ああそうだ。なんだと思う?」

「んー……マニユイルカとか、ディアマンテとか……? あ、わかった! コキュートスの幼体とかっ?」


 リズは思いつく限りの珍品を口走るが、ヴィラーは頷かない。


「いや、もっと珍しいモノだ。それこそ、この村に居る俺らには一生縁がないものだ」

「もったいぶらないで言ってよっ!」

「俺もそうしたいんだが……正直あれをなんと定義していいのやら……」

「得体の知れないもののくせに珍しいって分かったんだ?」

「まあ、滅多なことで仕事を投げ出さない俺がわざわざお前を呼びに来るくらいは珍しいな」


 ヴィラーは自分で言って、含み笑いをした。彼の口振りから察するに、あまり喜ばしいものではないらしい。

 彼の冗談のセンスは置いておくとして、リズは意を決した。


「気になるから案内してっ!」

「そう言うと思った」


 立ち上がろうとリズが左手を動かすと、それより早くヴィラーが左手を差し伸ばしてきた。


「……ありがと」


 リズは彼の力を借りて左脚を軸に立ち上がった。そして片足立ちのままヴィラーの手は離さず、その場に制止する。

 リズは、まず右足を地面に着ける前に左手を右大腿部にかざした。次の瞬間にはリズの左手が発光し始め、掌から伝った光がリズの右脚の側面を這うようにゆっくりと伸びていく。リズは目を閉じたまま、ひた神経を研ぎ澄ませる。光を交互に折り重ねていくイメージで歩行補助魔法の術式を組み立てていき、つま先まで術式を組み終えたところで光が霧散した。

 そうしてようやく、リズは右足裏を地面に接着させた。時間をかけて、ゆっくりと右足に体重をかけていく。


「っ……」


 リズは苦痛に僅かに顔を歪める。気にせずそのまま数回足踏みをした。やがて脚の神経が体に馴染むのを待ち、痛みが和らいだのを確認してから――ヴィラーを見た。


「……よしっ、お待たせ。いくよっ!」


 リズの一連の行動を改めて目にした彼は眉をしかめていた。


「……なあ、そんな無理して自分で歩かなくても、昔みたいにおぶってやるぜ?」

「いいのよ。村の中では歩かないと……もう私は子供じゃないんだから……っ」

「そうかい」


 呆れて肩をすくめるヴィラーを置いて、リズは自分の足でさっさと歩き出した。


 ♪


 中央大陸ケントルムはスペルビア王国の南西端に位置する小さな村、フィッシャドーフ。

 百人にも満たない人口の大多数は高齢者が占め、一部の者を除いた村民全員が無色レクサスで構成されている。収穫物の大半は農作物で、他にも薬草や海産物などを少々。村民全員が数ヶ月生きて行けるだけの食料を確保し、余剰分を近くの街へ出荷することでなんとか生活していくだけの稼ぎを得ている程度で、村民の暮らしは決して裕福とは言えず、しかも作業のほとんどが手作業で行われているため、効率化の余地はないに等しい。高度魔法社会から隔離されたアナクロな田舎だった。

 そんな現状でこそあれども、現状の暮らしに不満を述べる者は誰ひとりとしていなかった。

 なにより、フィッシャドーフは平和だった。厄介事とは無縁。生きるために余計な何かを考える必要はない。昔からある暮らしをそのまま続けるだけ。国の危機だって蚊帳の外。揉め事は誰々が浮気しただの食料をちょろまかしただの、そのレベルのことしかない。

 無色レクサスとして迫害され、隅っこへ追いやられた先祖たちが辿り着いた村であるが故に、「今の生活を変えるために街へ行き起業してひと儲けしよう」などと血を沸き立たせる大人はいない。過去の歴史が思想に根付いてしまったために、変革の必要性を誰一人として感じていないからだ。

 大人たちは皆口を揃えて言う。「平和が一番だ」と。

 とはいえこの平和は偶然得たものではない。

 村で唯一の魔法師である長老が村の周囲に結界を張り、凶暴な魔物の接近を防いでいる。さらに血に飢えた攻撃的な魔物は、より多くの人が住む街へ引き寄せられる性質があるため、この村には比較的大人しい魔物しか姿を見せない。もし仮に村人を襲うような魔物が近付いてきたとしても長老がいち早く感知し、王都から崎守さきもりの任で派遣される派遣士たちを筆頭に、武器を扱えるものたちで退治できる。

 だからこの村で大人たちが魔物だなんだと騒ぎ立つことは皆無に等しい。過去に一度だけ、大型の飛行虫を見た老婆が魔物と騒ぎ立てたことがあったが、今では見事宴会の席で語られる鉄板ジョーク集の仲間入りをはたしている始末。

 三年前ほど前まではリズと同齢の子が十数人居て今よりも賑わっていたが、皆成人の儀を終えて早々に、王都おうと騎士きしとして国王に忠誠を誓う者、あるいはずっと大きい街で稼ぎの良い職を探す者、大望たいもうかかげて未だ見ぬ世界へと冒険の旅に出る者、中には玉の輿こしという漠然としているがリズから言わせれば充分具体的といえる夢を持つ者等、それぞれ適当に理由をかこつけて村を出ていった。

 たとえ自身の未来予想図が出来ていなかったとしても、こんな狭い村でのうのうと生きているよりはよっぽど利口というものだ。未来ある子供たちはそう考え、平和を退屈と呼んで嫌っていた。

 かくいうリズもこの村を出ていくつもりだった。豊かな暮らしは望まないにせよ、知識と見聞を広め、時間をかけて将来設計を図るために王都での教育を受けようと心に決めていた。その過程で自分のやりたいことが見つかればいいな、くらいに考えていた。

 ところがあるときを境に、リズは夢を見ることを諦めた。

 それは、リズにとっては忘れたくても忘れられない日――。

 周りの皆が成人し、未来への切符を手にして喜び勇んだその日――リズは唯一の家族である母と右半身の感覚を失った。

 その日以来、リズはろくに歩くことさえ叶わなくなった。村の中を移動するだけならまだなんとかなる。だが走ることなど到底出来ない。ましてや魔物が徘徊はいかいする街道を突き進み、無事に王都まで辿り着くことなど到底不可能だ。誰かの足手纏いになって道連れにしてしまうか、囮役として犠牲になるのが関の山だろう。

 剣や魔法が優秀であったなら、時間をかけさえすれば王都へ辿り着けただろうが、利き手が使えなくなっては剣を使って戦闘するなど論外。格好だけでもと派遣士に頭を下げて習ってはみたが、耐えがたい右手と右脚の痛みで一日ともたなかった。

 諦める最大の要因となったのは、リズが神と色精霊のどちらからも魔力を賜らなかったことだ。

 母が無色レクサスだったが故の、遺伝だ。文句のいいようもない。その者が授かる御名色は、遺伝による影響が一番大きい。だから奇跡でも起こらない限り変色へんしょくの希望もない。

 無色レクサスは、無色レクサスという枠組みから外れることは難しい。

 これは呪いだ。己が未来だ。己が宿命だ。

 万が一、億が一、奇跡的に王都に辿り着けたとしても、半身不随のこの身体でいったい何ができるというのか……。

 そしてリズは、家の中から彼らを見送った。笑いながら村を出ていく、かつての自分の姿をそこに見ながら。

 病気とはいえ、働かずに貴重な食料を口にするリズのことを、大人たちは口をそろえて「村の若者は」と陰口を叩いた。ヴィラーの村への貢献は誰が見ても著しいことから、それがリズの蔑称べっしょうであることはすぐにわかった。

 だからリズは食事をするときと寝るとき以外、村近くの森のはずれにあるマーテルマレ大洋が見下ろせる崖の上、そこに聳える一本の大木の下で人知れず絵を描いていた。

 毎日やることと言えば、幼い頃から唯一続けていた絵を描くことくらいしかなかったから。

 さすがに利き手である右手のようには上手く描けなかったが、左手で描いているうちに次第に上達していった。

 いつしかリズは孤児院の子供たちに好かれるようになり、孤児院の経営者であるイブハム夫人から「子供たちに色々なことを教えてほしい」と依頼され、仕事を引き受けるに至った。それからは、大人たちからの風当たりは幾許か弱まったといえる。

 そんな生活が続き、三年の月日が流れた――。


 その日は、村の様子はいつもと違っていた。

 辺りに夜のとばりが降りはじめていた頃。浜辺には松明たいまつを持った大人たちが集まり、地面に幾つもの影を揺らめかせていた。獣道を抜け、高台から遠目に見ただけでも、寂れた村の民が一堂に会する様子は明らかに異様な光景だった。

 浜辺に辿たどり着くころには、大人たちがかもし出す不穏な空気を肌で感じれるほどに、周囲は張り詰めていた。

 大人たちは同心円状に並び、ある一ヶ所を見つめていた。人垣が厚く、後ろからはよく見えない。

 リズは大人たちの間を縫って前に出た。

 大人たちの視線の先には、波打ち際に横たわる何か――。


「人……?」

「の姿は一応しているが……見てみろよ、あの髪」


 隣にいた男がリズの言葉を継いだ。隣にいたのは王都騎士団所属、派遣士隊長のエジルだった。エジルは砂の上に突き立てていた剣を抜き、振り上げた切っ先で《人の姿をした何か》の頭部を指す。

 リズは左手をひたいに宛てながら目を凝らした。


「なにあれ、黒い……」


 何よりも真っ先に目につくのは、頭部の黒い毛髪。夜の闇よりも暗く、見る者の心を飲み込みそうなほどの漆黒。

 不気味さを感じつつも、リズはそこから視線を動かして観察を続けた。

 力なく伸ばしている四肢は人と同じ骨格、手の指は左右に五本ずつ。体系は細身。僅かに露出した肌は白く、その皮膚には魔獣のような剛毛は生えていない。角や牙、翼、尻尾の類のものはどこにも見受けられない。黒い髪以外に変わっていることといえば、見たことのない召物めしものを纏っていることだ。髪と同様に黒い外套を羽織っている。少なくともこの村よりは良いところの民族衣装か何かだろう。


「…………」


 しばしの間観察をした結果、それはどこからどう見ても《人》にしか見えない。しかし一向に皆がそれを《人》と言い表さないのは、髪の色が黒いことに起因きいんしている。

 なぜなら黒は《悪魔》の象徴だからだ。

 この世界には、魔界インフェルナムの主である魔王サタンを代表格とし、その他様々な《悪魔》が存在している。彼らは時に魔界から現界げんかいし、人の血肉や欲望を食らい、もてあそび、奪うなどの悪さをすることがある。

 ただし悪魔が現界を果たすためには「既にこの世界に存在する者の肉体を用いなければならない」という条件があった。そうして悪魔に肉体を預けた、あるいは奪われた者は、その身に宿した魂すらも食われ、生来自らが持っている《色》を失い、髪や瞳の色が闇より深い漆黒に染まる――堕落だらくしたその姿こそ、悪魔の真の姿であるという伝承があった。

 そして悪魔は同時に、人を滅ぼす存在とも云われている。

 人を導くのが天使なら、人を陥れるのが悪魔であると。

 神同様、悪魔は確かに存在する。それは皆知っている。それらの伝承を加味しても、浜辺に集った大人たちが遠巻きに眺めるばかりで誰も近付こうとしないのは、悪魔というを目にするのが初めてだからだろう。

 知らないが故に、人は目の前に横たわるその存在すら恐怖し、恐れおののく。

 堕落だらくした人がその後どうなるのか。悪魔がどんな災厄をもたらすのか――。

 その先にある己の平和を脅かす死を想像し、怯えているのだ。


「エジルさん、あれはやはり悪魔だと思いますか……?」


 遅れて背後から現れたヴィラーが尋ねると、エジルが唸った。


「ううむ……なんとも言えんな。もしあれが悪魔だとしたら、早々に手を下さなければ我々の命が危うい」

「……どうします?」

「長老様を待って、判断を仰ぐ。先ほど使いを出したから、もうじき来るはずだが……そういや遅いな。俺は少し様子を見てくる」

「分かりました」


 ヴィラーとエジルのやり取りを聞きながら、リズはある決意を固めた。

 平和ボケしたこの辺境の地の民は、歳の甲に秀でた者の指示がなければどうすることもできないのは今更知ったことではない。


「お、おいリズ、お前何してる……!?」


 迂闊うかつに悪魔を目覚めさせないようにするためか、背後から声を潜めたヴィラーの叫び声が飛んできた。それを機に、周囲の大人たちからのざわめきがより一層不安の色へと染まる。


「なにって、確かめるのよ。遠くからじゃ本物かどうか分からないじゃない」


 リズが振り返って告げると、ヴィラーは勢いよく蹈鞴たたらを踏むようにして足元の砂を巻き上げた。


「本物の悪魔だったらどうする……ッ!? リズ。あっという間に殺されるんだぞ……っ!?」


 ヴィラーは忠告するだけで、傍に来て自らの手で止めようとはしない。


「悪魔だったら、そこにいても同じよ。悪魔は上級魔法なんて指を振るだけで使える。だからもし彼が本物の悪魔なら、村に侵入を許した時点で皆とっくに死んでるよ」

「…………」


 リズの堂々とした発言に、ヴィラーの勢いは失速した。それが正論だと理解したからだ。俯き、脚を静かに引き戻して押し黙る。

 リズはそれを見て小さくため息を吐いた。前方に向き直り、一歩ずつ悪魔へと近付いて行く。

 いやに静かだが重みを含んだ空気の中、リズが唾を飲み下す音が響く。汗が頬を伝い、砂の上に落ちていった。

 怖くないと言えば嘘になる。いつもより脚が重い。不思議と右脚の痛みは感じないけれど。それよりも何よりも、他ならぬこの平和ボケした大人たちと同じ徒党を組んで、ただ傍観していることが耐えられなかった。

 しかし同時に、長く忘れていた、心が揺すぶられる感覚もあった。

 今まで見て、描いてきたせかいの中に、これほどまで綺麗に黒く染まったものは存在しない。黒は想像でしか描いたことがなかった。何度試しても、持っている画材だけでこれほどまでに綺麗な漆黒を作り出すことは終ぞ叶わなかった。

 今まで見たことのない色を、もっと近くで見たい――。

 そんな衝動的な欲求が、リズの体を突き動かしていた。きっとこれが好奇心というやつなのだろう。心臓が大人たちの喧騒よりも騒々しく鳴動している。興奮か恐怖か分からない混沌とした心理状態のまま、リズは一歩、また一歩、歩行補助術式が解けて転ばぬよう慎重に、しっかりと砂を踏みしめ突き進む。

 今にもあの悪魔が飛び起きて襲い掛かってくるかもしれない。

 足の遅い私は真っ先に《悪魔》の餌食えじきになるなあ。そのときはしょうがないよね……。

 思わず乾いた笑いが漏れる。

 そんなことを考えている間に、リズは悪魔に手が届く位置にまでやってきていた。

 気付けば、先ほどまで後方でどよめいていた大人たちは皆静まり返り、リズの一挙手一投足に視線をそそいでいる。その中の誰一人逃げ出さないのは、それが許されないほど空気に棘が含まれているからだろう。

 誰かが「あいつは死んだな」「真っ先にあいつが死ぬから大丈夫だ」と耳擦りする声がハッキリと聞こえる。

 振り返ると、ヴィラーが首を横に振った。


「そんなこと言われても、今更引き返せないよ……」


 リズは一度空を見上げた。雲一つなく澄んだ空には見事なまでに丸いルナが昇っている。


「私は大人たちあいつらとは違う……死ぬときは、自分の意思で死にたい……!」


 握りしめていた拳から、ふっと力がけていくのを感じる。

 リズは深呼吸をしてから、膝を折り曲げ砂の上に膝をつけた。

 この時点で、逃げることは不可能になった。一度座ったら、立ち上がるのに最低でも三十秒はかかる。魔法術式が解けていた場合は一分以上の時間を要する。


 この《悪魔》が本物なら――私は死ぬ。


 うつ伏せに横たわる《悪魔》の体躯に、ゆっくりと手を伸ばしていく。

 今日は暖かいはずなのに。指先から凍るような奇妙な感覚が伝わってきて、咄嗟に手を引っ込めてしまった。


「やっぱり怖いなあ……っ」


 どこに居ても一緒だなんてヴィラーに言っておきながら、今の今まで死ぬ覚悟が出来ていなかった自分に気付かされた。

 指先に血が通っているのを触って確かめる。


「うん……大丈夫」


 リズは覚悟を決め、再度手を伸ばした。

 そうしてやっと、《悪魔》の胴体に触れた。続けて二度三度と軽く触れて反応がないことを確かめてから、海水を含んで質量が増した召物をつまみ、もそもそと指を這わせ、向かって奥の右腕を掴んだ。ヴィラーよりも細く、柔らかい。凶暴性など微塵も感じられない、ひ弱な体格だが、リズ自身も本物を実際に見たことが無いので何とも言えない。

 そこでリズは《悪魔》の肩を掴み、仰向けにすべく手前に引っ張った。


「よい、しょっ……――きゃっ!?」


 勢い余って砂の上に左肘を突いた。気付けば《悪魔》の顔が伸ばした膝の上に乗り、こちらを向いていた。


「ひ…………っ!?」


 一瞬変な声が喉の奥から漏れた。同時に大人たちからも驚きの声があがる。

 しかし仰向けになった状態の《悪魔》は、相変わらず目を閉じたまま動こうとしなかった。リズは体勢を起こし、《悪魔》の顔をじっくりと覗き込んだ。

 目の前の《悪魔》は、想像以上に人だった。

 髪が黒いことを除けばどちらかというと色白で、リズと同じくらいの年端もいかないただの少年にしか見えない。


「悪魔って……まつ毛長いのね……」


 目鼻立ちは整っており、中性的な印象を受ける。そこいらの男よりも遥かに繊細な顔のつくりをしていた。

 しかしここにきて、彼が本当に《悪魔》なのかどうか、もはやリズにとってはどうでもよかった。


「……きれい」


 傍らの砂に不自然な角度で突き刺さっている松明の炎によってほのかにえる彼の漆黒は、本当に美しかった。

 リズはそっと、彼の髪に触れてみた。水気を含み、砂がこびり付いてざらざらしているが、触り心地は悪くない。

 絵を描いているときに心のどこかで感じていた物足りなさの正体が、今目の前にある。どれだけ綺麗なものを描こうが、心の中にはいつだって抱えきれないほどの闇があった。

 その闇を表すために、この色が不可欠だった。


「すごいなぁ……こんなの作れないよ……」


 目の前の純黒を何度作ろうと試みたか。胸の中にある混沌をぶちまける為に。

 リズは完全に見惚れてしまっていた。


「……リズ、どうだ!?」

「――!?」


 突然背後から声をかけられ、身体がびくんと跳ねた。振り返るとヴィラーが松明を片手に近付いてくる。


「えっ、あっ、えっと……まだ、分からない。今から調べてみる!」


 リズは急いで膝の上から彼の顔を下ろし、若干身を引いて砂の上に座り直した。

 リズは当初の目的を果たすため、再度彼の胴体に触れた。


「…………」


 まぶたを閉じて意識を集中させ、指先の感覚を研ぎ澄ます。

 ぴたりと動かなくなったリズを訝しんでか、大人たちがどよめきだした。ヴィラーはリズの隣までやってくると、リズの行動に眉根を寄せながらも傍で見守る。

 そんな中、10秒の沈黙を経てからリズが首を傾げた。


「……おかしい……」


 ぱっと浮かび上がった違和感の正体を確かめるため、繊維越しにではなく、首筋の露出した彼の肌に直接指を宛がう。

 それを背後で見ていたヴィラーが「お、おい」と言葉を漏らした。

 そして、再度数秒の沈黙を経て、リズは確信した。


「この悪魔、マナが全然感じられない……」


 マナ――それは、この世界において人が生きる上で必要不可欠とされている魔力まりょく粒子りゅうしのこと。

 意図的に綺麗な人の姿を長時間維持できるのは、魔力保持領域マナプールに莫大なマナを所持している悪魔に限られる。そんな悪魔からマナを感知できないなど、有り得るのだろうか?

 彼を発見してから現在まで推定で約10分。それだけの時間を経ても尚、無意識下で完全な人の姿を保てているとなると、リズの目の前に居る少年は上級悪魔以上の個体であってもおかしくはない。

 リズは自身が持ち合わせている常識的見地をもとに思考を走らせた。

 つまり、もし彼が本当に悪魔だったとしたら――。

 本来ならばリズが手を触れずとも、その体内から溢れんばかりの魔力を感知できたはずなのだ。しかし、直に触れても体内からマナの残滓ざんしすら感じられない。

 ということは――。


「悪魔じゃ……」

「え?」


 悪魔じゃないと断定付けようとして、いや待てよとリズは自らの言葉のあやを是正するように言葉尻を飲み込んだ。

 今までの観点から結論を述べるなら、たしかに彼は悪魔でない。しかし同時に、リズが導き出した結論は、ということを意味していた。

 そんなはずはない。

 第一の前提として、人の身で白と黒の髪をしている者は誰一人として存在しない――故に彼は人ではない。

 しかしここにきて、もうひとつの事実が追加された。

 それは第二の前提、悪魔としてこの世界に存在する為のマナを保持していない――つまり、彼は悪魔ではない。

 それならばいったい――


「キミは……だれなの……?」


 この世界に存在する魔力法則の上で考える以上、『存在を消すことは、その存在を偽装することよりも難しい』とされている。全知全能の神であっても、人の姿に化けることは出来てもその存在を消すことは不可能だ。

 ならば彼は人とは違う別の何かということなのだろうか……?

 リズの額から、たらり、と汗がつたって砂の上に落ちた。

 学者でも、賢者でもない。無学のリズには、その程度の見解を導き出すのが精一杯だった。悔しいが自分の手に負えるものでないということは確なようだ……。


「……あ」


 諦めようとしたそのときだった。ふいにリズは短く音をこぼしてから、躊躇ためらうことなく彼の胸に耳を宛て、鼓動の音を確かめた。


「………………………………」


 無音。

 何も聞こえない。

 マナ循環が停止している――?


「そっか、そういうことだったんだ――!」


 この少年が悪魔であるか否かということばかりを気にして、普通なら誰もが一番先に疑うであろう事実を見落としていた。

 彼が人であったなら――。

 浜辺で倒れていたという話を聞いただけで真っ先に気にするべきことだった。

 そこからのリズの行動は早かった。彼の頭部に手を添えて顎の角度を調節し、気道を確保してから、ゆっくりと顔を近付け――。


 唇と唇を密着させ、息を吹き込んだ。


「きゃ――っ!?」


 次の瞬間、視界ががくんと揺れた。突然のことに受け身が取れず、左肩から柔らかい砂の上に落ちる。何事かと力が加えられた方へ目を向けると、そこには鬼のような形相でリズを見下ろすヴィラーの姿があった。


「ばか野郎ッッ!! いったい何を考えているんだお前はっ!? こんな悪魔に、き……接吻せっぷんをするなんて――ッ!!」


 目をひん剥いたヴィラーの怒号が辺りに響き渡った。

 リズは急変したヴィラーの態度に呆気にとられるも、飛躍しすぎたヴィラーの解釈を是正するために砂の上に左手を突いて上半身を起こした。


「た、ただの人工呼吸よ、口から直接マナを送り込んだの! ヴィラーもそれくらい知ってるでしょ!? 触ってみれば分かるよ、ほら! マナ循環が停止してるの! このままじゃ死んじゃうんだよ!?」


 そもそもマナというのは、空気中に無尽蔵に漂っており、同時に魔法が使える使えないに関わらず、生きとし生けるものの体内に必ず存在している物質マテリアルである。生物は体内のマナをエネルギーとして消費し、不足したマナを空気中から摂取する《マナ循環》を繰り返している。そのため、すべからく生物の体内にはマナが存在し続けることになり、それは天使や悪魔、精霊とて例外はない。

 心臓は、マナ循環における最たる役割を担う重要な器官だ。それが停止しているということは、彼が命の危機に瀕しているということを意味している。

 人か悪魔か。ハッキリと判別がついたわけではない。まだ彼が悪魔だという可能性は潰えていない。だが、もしも彼が人であるなら――彼が生死の境を彷徨っているということだけは確かだ。ならば、迷うことなどない。

 ――彼を助けなきゃ……っ!

 ところが、リズの体は再びヴィラーによって突き飛ばされた。


「やめろよ……! 何やってんだよ、リズ……。悪魔に触るだって……!? そんなことできるわけないだろうッ!? 俺まで悪魔になっちまう!!」

「ぇ……?」


 ヴィラーの暴論に、言葉が喉につかえて出てこなかった。先ほどまで隣で見ていたくせに。この期に及んでそれを口走るの……?

 内心悲しみ呆れたことでリズの感情は昂り切らずに、逆に落ち着きを取り戻した。気付けば彼の叫び声に呼応するように、周囲が沸き立っていた。


「悪魔に口付けをしただってッ!?」

「悪魔を助けようとしたのか……!」

「信じられないッ!!」

「あいつも悪魔だ――!!」

「村から追い出せ――!!」

「神よ、目の前の悪魔を打ち滅ぼし給え――!!」

「悪魔の子を殺せェ――ッ!!」


 大人たちが目にかどを立てて発狂し、次々とリズへ罵声を浴びせてくる。とてもじゃないが皆正気の沙汰ではない。狂っている。

 悪魔はこの世で何よりも忌み嫌われる存在だが、実際問題ただ寝ているだけの少年を前にそこまで恐れおののく必要があるのか、リズにははなはだ疑問でしかなかった。何より味方をしてくれていたはずのヴィラーまでもが、今や周りの大人たちと同じようにその目を血の色に染め、リズのことを人外でもみるような目で見下ろしている。

 もうそこに温厚なヴィラーの姿はない。団塊だんかいの炎を背に影が落ちた形相こそ、悪魔のソレに見えた。


「……じゃあ聞くけどさ…………悪魔に触った私は悪魔になるの……?」


 リズは大衆の威を駆るヴィラーに負けじと精一杯下から睨み返した。すぐには立てないのでその頬を引っ叩いてやることも叶わなかったが、足元に詰め寄った分だけヴィラーが退しりぞいたのが分かる。

 本当に怯えられているのか。揺らめく炎に浮かぶヴィラーの顔は先ほどとは違って、恐怖におびえる人間ならではの実に滑稽な表情を浮かべているではないか。

 狂乱の空気に飲まれたのか、悲しいはずなのに笑いが込み上げてきそうだった。

 いっそのこと涙でも伝ってくれたらどんなに楽だったろう……。


「そ、それは………………」


 先ほどまでの威勢はどこへ行ったのか、分かりやすく狼狽うろたえるヴィラー。言葉は待てども返っては来ない。胸の奥底で沸いた悲しみは、どんどん膨れ上がっていった。


「ねえ、ヴィラー……教えてよ……私は悪魔? 魔女の娘? この村にとって邪魔な存在?」

「リズ、おれは………………」


 ヴィラーは押し黙り、言葉を紡がない。


「ねえ……どうして肝心な時に何も言ってくれないの……?」

「………………」

「どうしてよ、ヴィラー。友達だって……私のこと、信じてくれていると思ってたのに…………なん、で……っ」


 想いのままに言葉をぶつけていると段々と視界がぼやけてきて、咄嗟に口許を覆う。とうとう言葉の代わりに涙が次々と溢れ出てくる。

 口の中でじゃりっと砂を噛む感触がした。

 悔しくて、悲しくて。どうしようもなく孤独な自分が、情けなくて――。

 昔からヴィラーに対して当たることは多かったけれど、それでもヴィラーは自分のことを気にかけてくれた。大人たちの差し金で食料の配給をもらえなかったときも、こっそり人目を盗んで届けてくれた。

 この期に及んでわがままが過ぎるのは分かっている。

 でも、彼には一言だけでいい。言ってほしかった。

 

「ただ、ひとこと……だけで……いい、のに……っ」


 自分の中でヴィラーへの信頼が壊れていくのを、止めてほしかった。


「……………………」


 しかしヴィラーは何も言わなかった。

 固く口を閉ざしたまま、どこか別の方へと視線を散らせていた。

 二人の間に沈黙が訪れても、静寂はやってこない。大人たちのリズへの罵声は今もなお続いている。

 ――だが、


「二人とも下がれ!!」


 喧騒の中に、ひと際張り上げた声がどこからともなくあがる。その次の瞬間には、罵声が悲鳴へと変わっていた。


「ヤツを囲めッ!! 戦闘態勢――ッ!」


 リズが状況を理解するよりも早く、ガチャガチャと鎧を鳴らす音とともに五人の派遣士はけんしが砂上を駆けて悪魔かれを取り囲んだ。


「立て、リズ!」


 リズの目の前にエジルがやってきた。真っ直ぐに手を差し伸べられる。


「エジルさん……いいの……? 私……悪魔かれに……」

「悪魔に触れただけでは、悪魔にはならない……! いいから早くッ」

「ありがとう……」


 リズはエジルの手をしっかりと握った。そしてエジルに肩を担がれながら、片足飛びで悪魔かれから距離を取らされる。大人たちの人垣のところまで来るとリズを砂の上に座らせてから、エジルは抜刀した。


「抜刀、構え――ッ!!」


 他の派遣士たちが村民の誘導を終え、陣形が整ったのを確認してからエジルが叫んだ。その号令を合図に、悪魔かれを囲んだ派遣士たちが「しゃりーん」と軽快な金属音を鳴らして鞘から剣を抜き放つ。エジルも同様に、リズを悪魔かれの視界から隠すようにして立ち、剣を構えた。

 いまいち状況が掴めぬまま体を傾けてエジルの背中越しに奥を覗くと、悪魔かれが咳込みながら口から水を吐き出し、手足を微かに動かしていた。

 息を吹き返したのだ……!


「待って、エジルさん殺さないでっ! 彼は悪魔じゃない!」


 剣を宙にかかげて今にも突撃命令をかけようとしているエジルの前にリズが躍り出た。脚の激痛に顔を染めながら訴えるリズの言葉に、エジルは左の掌を空へ伸ばす途上で制止させる。


「なんで辞めるんだよっ! やっちまおうぜエジル……! 今ならまだ俺達でもヤれるッ!!」


 派遣士の一人が叫んだ。それに続くようにもう一人が号令を急かす。


「おいエジル!!」

「ッ…………なぜ、そう言い切れるんだ……?」

「エジルぅッ!?」

「なあおいッ!!」

「早くしろォ!」

「分かってる少し静かにしろッ!!」


 号令を待ちきれない派遣士たちの恐怖に染まった声が一斉にエジルに向けられる。立て続けに、大人たちからも次々と煽動せんどうの掛け声が飛んできた。


「ヤっちまえェ――!!」

「はやくヤれェ――!!」

「切り殺せェ――!!」

「エジルさん、ダメ! 私の声だけに耳を傾けて、聞いて!」


 憎悪と恐怖の渦中に立たされたエジルは混乱のあまり頭を押さえ、付き纏う恐怖を振り払うように叫びながら拳を斜めに振り降ろした。


「ああくそッッ! ……おいリズ、ちゃんとした根拠はあるんだろうな……?」

「……マナの循環が止まっていた時に確認しただけだから断言はできない……けれど、私は彼が悪魔だとは思わない!」

「じゃあなぜヤツの髪が黒い!?」

「分からない……髪が黒いから悪魔という前提が間違いなのかも……」

「過去に何度か堕落だらくしたヤツを見てきたが、皆同じように黒い髪をしていた……! どの報告例を見ても、黒いヤツらは悪魔でしかなかった! ならばヤツも悪魔と考えるのが道理だ!」


 エジルは未だ横たわる彼を剣で指し示す。

 エジルの言っていることは紛れもない真実。三十年以上騎士団に所属している彼は、幾度も戦場を経験していた。実際に何度か悪魔と呼ばれる存在を目にしたこともあった。

 だがそれでも、リズは首を振り、退こうとはしなかった。

 心肺停止状態ではマナの循環が停止し、魔力の感知は難しくなる。しかしだからと言って彼の体からマナが感知できない直接的な原因にはならない。たとえ死んでいたとしても、悪魔の体にはマナの残滓があるはずだった。

 彼は完全にリズの理解を越えた存在であるが故に、悪魔と断定することはできい。

 だからこその逡巡。だからこその迷い。

 ここで退けば、人かもしれない彼を殺すことになるかもしれない――。

 リズを突き動かすのは、その想いだった。

 そもそも、何を以て悪魔と定義するのか、リズには知識がない。

 故にリズには悪魔であるという証明も、悪魔ではないという証明もできなかった。


「違う。何かがおかしいの……! 少なくとも彼が悪魔だっていう根拠がない、だから絶対とは言い切れない――っ!」

「それはお前の希望的観測に基づく判断じゃないのか!?」

「ちがう……私にも分かんないよ! 分かんないけど……でもっ! 悪魔だったら色々とおかしな点があり過ぎるの……! 少なくとも、誰も彼を悪魔と決め付けて殺すことは出来ない! 私たちは髪が黒いという理由だけで、! だからダメだよっ、エジルさん……!」


 具体的な根拠とは程遠いリズの直感的かつ感情的な訴えに、エジルにもリズの意志が伝播しているのが伝わってくる。

 その視線に帯びた迷いを察知した周りの派遣士たちが叫んだ。


「エジルッ!! いつまでそんな茶番やってるつもりだッ!?」

「そいつから離れろッ!! そいつはさっき悪魔に蘇生を行っていた魔女だ!!」

「そうだっ!! 魔女だから悪魔ヤツを庇おうとしてるだけだっ!!」

「なっ……!?」


 突如自分に向けられたもう一つの蔑称べっしょうに、リズは腹の底から怒りが込み上げてくるのを感じた。王都から派遣された誇り高き騎士ですら恐怖に煽られてそんなことを口走るのか……!


「おたおたしてると悪魔ヤツが動き出して殺されるッ! すべてその魔女の陰謀だァ――ッ!」

「なあおい頼むからみんな落ち着いてくれよく見ろ頼むからなあ――!! ……怖いのは分かるが、自分を見失うんじゃない!! 誉れ高き騎士団の訓辞を忘れたかっ!?」


 我慢の限界を迎えたエジルが怒りのあまり怒声を発した。


「……いいか、俺たちは――俺は、悪魔だったら容赦はしない……! だが今目の前にいるのは、俺がよく顔を合わせているこの村のリズという少女――人だ! そして……死の淵を彷徨っている、騎士団が守るべき国民……かもしれない少年だけ……そうだろ、なあッ!?」


 エジルの顔は、努めて正気を保っているようだったが、疲労の色に染まっていた。派遣士としての責務に則り、村人の命を守るか、無実かもしれない少年の命を救うか。人の命を天秤に掲げなければならない重責じゅうせきに、本当は恐怖に任せて行動したいところを、理性でもってなんとか制御している様子だ。その言葉はどこか自分に言い聞かせているようにも聴こえる。


「お願い、エジルさん……武器をしまって……!」


 エジルがひとたび命じれば、派遣士たちは彼と、あわよくばリズにまで斬り掛かろうという勢いだ。エジルとリズの間には信頼や好意などという深い繋がりはない。師匠と弟子の契りは交わさなかった。ただ、エジルがこの村に派遣されてから五年くらい経つだろうか、自然と顔を合わせれば話すようになっただけに過ぎない。

 ただの顔見知り程度でしかない。だが、何度か会話を交わしている。

 その過去は、周りの派遣士は持っていない。だからこそ、無情に、無責任に叫べるのだ。

 怒り狂ったエジルがどのような判断を下すのか、リズにはまったく予想が出来ない。それでも彼を信じるしかなかった。どのみちリズの脚では派遣士たちからは逃げ切れない。

 リズはエジルから目を離さなかった。

 ところが――


「うわぁぁああああああ!!」


 いよいよ恐怖に耐えられなくなった派遣士の一人が、エジルの命令を待たずにリズに斬り掛かってきた。


「きゃっ!?」

「よせ、やめろォっ!!」


 エジルが庇うのは間に合わない。剣がリズに振り下ろされる。

 斬られる――っ!?

 尻餅を突き、咄嗟に腕で顔を庇った。

 剣が空気を割く音がする。

 ――刹那。



「静まれぇぇぇい――!」



 大気を震わす声が、辺りに響いた。

 その途端、言霊ことだまに従うが如く、周囲にしじまが訪れる。


「…………!?」


 リズが恐る恐る目を開けると、炎が揺らめいていた――のではなく、群衆の松明を映し出した白い刀身が文字通り目と鼻の先でぴたっと静止していた。鈍色に光る凶器を前に開いた口が塞がっていないことに気付き、乾いた口内を潤すために唇を固く結んで無意識のうちに嚥下した。

 よく分からないが、どうやら生きている。もうコンマ何秒か遅ければ、リズは剣で真っ二つに斬られていただろう。

 殺意を手にしていた眼前の派遣士の表情は、もはや別のものに支配されていた。小刻みに体を震わせ、顔から水分という水分を分泌させながら愕然とした表情のまま身動きが取れずに固まっている。

 状況を理解するのに5秒ほど時間を要した。

 ゆらりと、陽炎のような歪みに目をしばたたかせ視線を巡らすと、複雑な模様が刻まれた円陣が眼前の派遣士の足元に展開されている。それはまるで、その派遣士の周りの空間だけが強大な力によって凍結されているかのようだった。


「リズ!」


 名前を呼ばれ、再び差し出されたエジルの手を反射的に握る。エジルによって剣尖けんせんの下から引きずり出された。まさに次の瞬間、拘束の糸が切れたようにゆっくりと派遣士が動き出し、リズが居た地面に剣が振り下ろされた。勢いが完全に死んでいたわけではないのか、切っ先が砂の上に突き刺さった瞬間、小さな地響きとともに斬りつけられた場所から砂がぶわっと宙に舞い上がる。

 あれはただの剣戟けんげきではない。魔力で強化された剣術――魔技まぎだ。あの派遣士はリズをただ真っ二つに斬るだけでは不十分だと思ったのか、文字通り木端微塵にするつもりだったらしい。

 一命はとりとめた。しかし安堵の息は出てこなかった。

 未だに驚愕から覚めやらず、一体何が起こったのかと落ち着きなく視線を巡らせる。

 先ほどまで騒いでいた大人たちが、ひとり、またひとりと視線をひとつの方角へと向けていくのが見え、リズもそれに倣うように視線を向けた。次第に人混みが左右に分かれ、その先から赤い宝石の埋め込まれた魔杖まじょうを地面に突きながら、リズたちの前にとある人物が姿を現す。


「長老様!?」


 それはこの村で唯一人の魔法使いであり、魔法師まほうしクラスを持つ偉大な老人。村の周囲に結界を張り、民の平和を約束している最長者。村民が敬意を込めて「長老様」と呼ぶ存在。

 エジルが剣を収めて駆け寄り状況を説明しようと試みるも、長老はそれを手で制した。毛深く、顔の向きでしか見ている方を推察できないが、悪魔の少年かれとリズの方を見た後、もぞもぞとひげを動かした。


「息はあるのかの?」

「え? あ、えっと……」


 長老に問われ、リズは砂の上に横たわっている彼に這い寄り、再度胸に耳を宛てて確認する。今度はしっかりと鼓動の音が聞こえた。――しかしやはりマナは感じられない。

 息を呑み、乾いた喉の奥から声を絞り出す。


「……はいっ」


 声が掠れて出てきて、リズは喉を鳴らした。砂が入ったかもしれない。

 長老は「そうか」と呟くと、杖を空へ高く掲げて――落とした。

 直後、緑色の雷撃らいげきが地を走り、大人たちの足元を走り抜けてリズのすぐ傍らの彼の下まで達すると、淡い光が彼の体を包み込んだ。次の瞬間、彼が横たわる砂の上には、一瞬にして先に見たような光の模様が刻まれる。まず初めに円、そしてその中にいくつもの不可思議な図形や文字が幾つも展開されていった。

 先ほどは何が起こったのか理解できなかったが、直接目の当たりにしたリズは納得した。


「魔法だ……」


 彼の体を包み込んでいた光がより一層輝きを放った後、集束。続けて光が具現するように魔法陣が砂から浮き出てきて、何も無いはずの空気中に無数の光の粒子が現出し、魔法陣の上に横たわる彼の身体ごと宙へと浮上し始めた。

 リズは唖然としながら、夜の闇に光り輝く奇跡の演出にただただ目を奪われ続けた。大人たちからも感嘆の声があがる。家の中に隠れているように言い付けられていたであろう子供たちまでもが不思議な光に誘われるように外へ出て、「わー!」とか「きれいー!」とかはしゃいでいた。

 長老が魔法師だというのは聞いていたが、魔法を使っているのを見るのは初めてだった。

 目で見たところで、魔法が使えない無色レクサスにはその技は到底理解のしようのない未知の力。奇跡のわざ

 リズが使う歩行補助の魔法は、術式を組めば誰でも使える、わば初級中の初級。世の魔法師を目指す者たちからすれば魔法と呼ぶには値しないただの簡易魔法、小技こわざでしかない。使えて当たり前、常識の範疇はんちゅう

 だが、無色レクサスはその小技すら使えない者がほとんどだ。

 この村に住んでいる大人たちは皆、無才だ無力だとさげすまれ、王都や街から追いやられた者ばかり。年月を経て人が老いるように、力を使おうとしなければその呼び名に相応しく色がちていき、最終的には茶色へ落ち着く。

 そうして見渡す限り茶色の髪と瞳をした人々が集まったのが、このフィッシャドーフという辺境の村――。

 しかし今やリズの視界には色彩が溢れていた。

 まるで地味な色ばかり使って描いたキャンバスが、突如として彩り溢れる秀作へと進化を遂げたような不思議な力、魔法の存在をしみじみと体感していた。

 ふと、魔法の光を眺めながら思い出す。

 あの頃――まだ魔法も知らず、自由に走り回っていた子供の頃。母がよく口にしていた言葉。


 ――アイは、きっと綺麗な色に染まれるよ。


 リズは知らず知らずのうちに、己の拳を握りしめていた。


「この少年の身はワシが預かろう。皆は安心して家に戻り、夕餉のときを迎えなさい」


 力があるからこそ、村の平和がある。この平和は長老在ればこそ。故に長老に異を唱える者は誰一人としていない。

 長老によって解散宣言された大人たちだったが、皆奇跡の業を前に茫然と立ち尽くしていた。光に誘引される魔物や羽虫のように、魂が抜け落ちた屍人しびとのように、少年を乗せて平行移動する魔法陣を目で追い続けている。

 魔法陣は少年を乗せたまま、長老の元へと一定の速度で移動していった。


「おぉ、そうじゃそうじゃ」


 長老が三歩ほど歩いて歩みを止めた。その間も魔法陣は動き続け、人混みに突っ込みそうになるも大人たちが慌てて尻餅を突きながら回避する。魔法陣は長老に追いついて右後方を位置取ると、忠犬のように大人しくその場で静止した。


「皆諸々疑問に思うことはあるじゃろうが、この件に関してはリズの言う通りじゃ。悪魔などこの村にはおらん。ワシが保証する。髪が黒いのは……おそらくオケアノスの精霊がイタズラでもしたのじゃろう。じゃから皆の者、怯える必要はないのじゃ」


 大人たちの視線が、長老が指し示す先。長老と真反対の位置に居るリズへと向けられた。

 先ほどのような憎悪や恐怖の視線を向けている者は、誰も居なかった。しかし誰も何も言わずに、視線だけをリズへと向ける。

 リズは何とも言えない気持ちになった。もしかして、少しくらいは申し訳ないとか思ってくれているのだろうか――いやまさか。

 長老は補足を終えると踵を返し、ゆったりとした歩みを再開した。魔法陣もそれに倣う。


「あ、長老! 私も行きます……!」


 リズは慌てて右脚に手を宛がい歩行術式の展開を確認してから立ち上がった。大分無理をしたせいか、脚がズキズキと痛む。だがこの場に留まっていたくはない。

 大人たちが長老と魔法陣のために開けた道を通り、長老の歩みに追いつくと魔法陣と並んで歩いた。

 リズは後ろ髪を引かれるように顧みると、それぞれの家路へ戻っていく大人たちの中に、ただ一人突っ立ったままこちらを眺めるヴィラーの姿を見つけた。

 彼の表情は松明の陰が落ちていて、よく見えなかった。

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