第2話 ダイレクトメール

汗が、顔を伝う。


単調な毎日。毎日形を変えるガラクタのスラム。

そこから抜け出せる。もっとおいしい食べ物がきっとある。

雇い先で一回だけ出されたポテトフライみたいな、美味しいものが。


……でも、僕はアリスの兄。いつでも冷静でいなくちゃいけない。

「コウジにいちゃ。面白そうだね! でも、これ……

……誰かがあたしを見てたの? ……ちょっと……こわい……」

「大丈夫だよ。スキャンてことは、機械が僕たちを読み取った

ってことだ。とりあえず、このカードは僕たちの物ってことだ」

何に巻き込まれたんだとしても、僕は妹を守らなくちゃ。


ペタン。妹は力が抜けたように座り込む。

「……お腹、すいたなあ」蚊の鳴くような声を出している。

僕もお腹がすいていたことに気がついた。しかし、財産は全て、

底をついていた。いや、このカードは、市民権と連動している。

今までだって、スラム暮らしだったんだ。市民権を捨てて、

このカードを売れば。


その時、ピンポン、とカードから音がした。

再び映し出される画面。

管理局からのダイレクトメールだった。

二人にそれぞれ二通届いている。

内容は同じだ。


*** 注意勧告 ***

管理局より注意勧告

カード型端末は許可のない売買をしてはいけません。


*** 視聴者からの支援 ***

視聴者からの支援ポイント、500ポイントを達成しましたので、

現金五千円に相当する、50ポイントを支給しました。


言下に売るなということか。

……どうやら、定期的に情報発信されてるということは本当らしい。

50ポイントも確認した。監視されているストレスは

普通のストレスとは違う。アリスには苦しんでほしくない。

「僕らを応援している人がいるらしい。とりあえず、ご飯にしよう」

薄暗い路地。僕は、カードの中に表示されたストアで

太く切られたポテトフライを購入した。妹も僕の操作を見ながら

自分でやると言った。


コウジ

50—2

=48

残高四十八ポイント


アリス

50—2

=48

残高四十八ポイント


二人でその場で待っていた。トタンの壁を背もたれにして。

トタンが軋む音に慣れきってしまう前に、それは来た。

聞いたことのない、プロペラ音。黄色い球体が、着実に

こちらに向かっている。

目の前の地面に降下したそれは、丸いカバーの中に、

クモのような形の飛行物体と数分前にカードの中で支払った絵と

同じ食べ物が二人前、入っていた。

クレーンゲームの様にカバーが開いた。

飛行物体は飛び立ち空へ消えたが、アリスは目の前の

食べ物に飛びついた。

「……いただきます」これが普通になる日が来るというのか。


僕たちは食欲を満たした後、町へ、外の世界へ出てみることにした。

ストアで同じシャツと短パン、アリスには廃棄場の麦藁帽子、

僕も廃棄場でフリーサイズの野球帽を見つけて被った。

装備や所持金が更新される。


コウジ

48—18

=30


アリス

48—18

=30

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