第3話 ショッピングセンター

僕は、日雇いで何度もこのショッピングセンターには来た。アリスは、

よちよち歩きの子供の時に来たけれど、覚えていないようだ。

周りをキョロキョロ見ているが、走り出さずに

僕のシャツの端をつまんで、後ろでついて来ている。


「にいちゃ。どうすればいいの」

アリスは慣れない外の景色に戸惑っている。

……そうだな。

決定事項じゃないから、話すのをためらっていた。でも、

言った方がアリスがしっかり行動できるかもしれない。


「僕は仕事を探す。アリスはその髪の毛をどうにかしよう」

「……髪の毛?」きょとんとしてアリスは伸び放題の

長い鳥の巣頭をちょっといじった。

洗ってはいても、アリスは女の子だ。このままでいいはずがない。

在ったと叫んでアリスが駆けだした。ついていくと、

床屋と書いてある所へ着いた。一回五百円か。安いのか?

幸い、この端末カードが使えるようだ。


アリス

30—5

=25


僕はアリスが髪を切っている間に、あるところに顔を出していた。

入荷倉庫だ。在庫管理もしている巨大倉庫。

ロボットによる労働力が普通になった今時分でも、

故障などによる労働力の変化は大打撃。

在庫確認などもロボットがやるが、

人の目を通すように決められている。

安い労働力の上に、ロボットよりも

早く確実な仕事ができるとなれば、当然このオレを雇うだろう。


二日後からの一週間の約束になった。

時給700円の一日十二時間労働に十五分の昼休み。

相当ブラックだが、しかたない。


アリスとの待ち合わせ場所へ向かうところだったのだが、

カードからのアラームが止まらない。突然なり始めたのだけれど、これはどうしたことだろうか。

カードを見ると、通信申請を許可しますか、とある。

通信申請を説明するテロップがすぐに表示された。


◇◇◇通信申請◇◇◇

電話やテレビ電話などを申請できます

通信を許可する際は、画面をタップしよう


つまりは誰かからか、僕に通信申請でんわが来た、ということなのか。

廊下のわきによけて、画面をタップする。例の通り、画面が

表示された。


「コホン……もしもし?聞こえますか?」

目の前にいるようなクリアな音声で若い男性の声が聞こえた。

僕は、僕への電話は初めてだった。

「こ、こんにちは。き、聞こえますよっ」

あがってしまってうまく話せない。

「よかった。君がコウジくんで間違いないよね?」

名前を知っているってことは、

向こうからこちらのプロフィールが見えるのか。

「はい、……僕がコウジです」しかしこの人は誰だ。


「あなたは誰ですか?」

「あっ、俺としたことが自己紹介を忘れていたね。

俺はシュージ。植田劇場っていうヨウツベの番組チャンネル

仕切っている者さ」

ヨウツベは無料動画サイトで、僕は見たことないが、植田劇場と

言えば、有名なチャンネルだ。

「俺は、君への支援を開始したいんだ。いいかな?」

「支援って……なにするんですか?」

「そうだな……。君、義務教育受けてないだろ。

僕なら経済的な支援ができる」

経済的な支援……底辺の僕らにそんなにいい話は無い。

どうしてそんな人が僕に?……いやその前に。

「あなたが得することなんてないじゃないですか?」

底辺にお金をばらまくだけでは散財と同じだ。

すると、しっかりとした声が返ってくる。

「いいや。俺はそれでいいことが起こる。十レベを超えると、

善意ゲージと悪意ゲージが出るんだ。俺はその

善意ゲージを貯める為に今行動しているんだよ」

そんな機能があるのか。あっちにも利益はあるんだ。

「その支援、受けても良いですか」

せっかくのチャンスだ、このまま底辺の人間のまま、

貧乏なままに、アリスを不幸にしないためには

受けるしかない。

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