第1話…旅の始まり

清々しい朝。

 旅立ちにはうってつけの日だ。少々不安もあるがやはり知らないものを知る旅が楽しみなのだろう。


 「お金持った?下着は?服は?何か他にいるものない?あっ、マニはちゃんと持った?」

 「か、母さん。大丈夫だって」

 「そうだな。頑張ってこいよ!」

 「じゃあお土産よろしくね〜」

 「お前は昨日からソレばっかだな!何?悲しくないの?お兄ちゃん行っちゃうよ?」

「別に〜」


 もう、なんだか悲しくなってきた……行くのやめようかな……

 でも、うだうだ言っても仕方ない。


 「はいはい、分かった分かった。じゃあ行ってきます」

 「おう!行ってらっしゃい」

 「行ってらっしゃい」

 「行ってらっしゃい!お土産忘れないでね」


 まったく……「無事に帰ってきてね♡」くらい言えないものかね、我が妹というのは。

 まぁ、絶対に怪我なんてすることはないけどね。


 『では、行きましょう』

 「ああ、瞬間移動テレポート


 瞬時にしてその場から姿を消す。

 これで少し離れた王国までひとっ飛びだ。


 『ご主人様、そろそろ出口にございます』


 闇に包まれた空間に差す一筋の光り。そこが出口だ。


 「よし!出た……」






 『ご主人様。やはり……」

 「言うなマニ……」


 やはり失敗した。俺の腕は見事にレンガの壁にめり込んでいる。

 俺の瞬間移動テレポートは出口の空間を消しとばして無理やり出口を作る。

 しかしこれは、生物のところには現れず、岩や地面などの無機物のところのみに出口が現れる。

 まぁ、俺が出口を鮮明にイメージできればこんなこともないんだがな…


 「いや、これは予想の範囲内だ」

 『……そうですか』


 とりあえずこの腕を抜こう。


 「で、まずどうしようか」

 『まずは人のいる場所へ行きましょう』

 「……行かないとダメ?」

 『はい』


 あんまり行きたくはないんだけど……まぁ、情報が全然ないから集めなければな。

 俺は……いや、俺たちはほとんど街に来たことがない。それはちょっとした理由があるんだけど。


 「おっと兄ちゃんごめんよ」


 俺の肩にぶつかってくる人あり。とっさに俺も謝ってしまう。


 「……何だかわざとぶつかられたような」


 慌てて胸ポケットを探ってみる……が


 『またですか……』

 「これだから治安の悪い国は…大嫌いだぁ!」


 俺の叫びは人の多い道に響く。

 すれ違う人々、露天の商人、いろんな種族の人。とにかく多くの人に聞こえ、睨まれたと思う。


 しかし、叫ばずにはいられない。なぜなら……


 「もう3回目だ…財布をすられるのは……」

 『……やはりですか』

 「俺ってさ、こんな街に来たのは全部で何回だと思う?」

 『さぁ、5回くらいでしょうか?』

 「3回だよ!すられた数と同じだよ!毎回毎回俺の財布持って行きやがって! なんのつもりだよ!」



 はぁ〜、叫んだところで仕方がない。今回は幸い2つに分けていたからな。次はマーキングをしておこう。

 まずは観光名所にでも行こうかな。


 「この辺りの観光名所は?」

 『分かりません』

 「え?なんで?」

 『そんなナビみたいに行くわけはないでしょう。私にもできないことくらいあります』


 ……どうしよう。俺のナビがまったく機能しないんだが……それにこいついつの間にナビなんて言葉覚えたんだ?車好きだった父さんの影響か?

 でもなぁ本当に目的がないのはまずいな。右も左もわからない。誰かに聞くにしても全員怖いしな……美人は多いけど逆に話しかけづらい。


 「ふぅ〜、疲れた疲れた」


 体力的にも精神的にも疲れた。

 なので俺は近くの広場にある噴水に腰掛ける。


 『どうします?何が有名で何があるのかさっぱりですよ?』

 「目標が無いほど疲れる事はない」

 『私がいたるところから情報を集めてもいいですが、やはりここはご主人様自身にやってもらったほうが良いかと』

 

 「コミニュケーションも大事だよな」



 大事だけど、でも、なんか俺が座っているところから距離を取っている気がする。地獄耳ではないがコソコソ悪口めいた事が聞こえてくる。


 「何あれ。気持ち悪い……」

 「ね、なんか1人・・でブツブツ言ってる。あんまり近づかないほうがいいね」


 美人2人がこちらを向いて、俺の心に容赦なく刃を突き立ててくる。

 俺のライフがひどく削られていく。あんな美人の話題に上がるのは嬉しい。でもそれが悪口だと効果はバツグンだ。


 「な、なぁ。気になる事があるんだけど」

 『何でしょう?』

 「あの子たち俺を1人だって…それに周りの人もこっちを避けてるようだし…お前ってまさか!」

 『他の人には見えてませんが何か?』

 「ホワァッツ!!」


 じゃあ何か!?俺は今まで自問自答を繰り返していたように見えてたのか?

 確実に危ない奴のレッテルを貼られてしまった……こんなにも早くみんなの信仰心を損ねてしまうなんて……それが目的ではないけど。


 「とりあえずここを離れよう」


 みんなの視線が痛い。

 なのであまり人目にもつきにくく治安も良さそうな場所に一時避難する事にした。

 俺のテリトリーへ







 俺がこの世界に来てもちろん1番最初にこの王都を訪れた訳だが、やはり速攻で財布をすられ落ち込んでいたところに偶然見つけた。

 以降、落ち込んだ時にはここへ来る事にしている。

 そう、教会へ……


 「いや〜、ここはいいな。何といったってあのステンドグラスがいい。それにこの椅子の配置。結婚式をするならここがいい」

 『結婚なんて考えてるんですか?まぁ、一生無理でしょうけど(笑)』


 時々出るこいつのバカにしたような物言いがたまにカンに触る。でも、真面目なだけだったら付き合いにくいだろうけど。


 「で、どうするよ。これからの方針は」

 『そうですね。やはり私が何かしらの情報を集めてまいります』

 「よろしく」


 マニは実体がない訳ではない。丁寧に教会の扉を開け、出て行く。それと同時に人が入ってくる。


 「いんや〜聖霊様ぁ。今日も無事に帰れましたぁ〜」


 その男性はボロい布をまとっていた。このことから彼は冒険者と言えるだろう。

 冒険者とはこの世界の職業の1つである。冒険者はある一定の場所で他の人からの依頼を受け、それを遂行することで報酬を受けるというものだ。


 「聖霊様ぁ〜。明日もよろしくおねげぇします」


 さっきからこいつが言っている聖霊様とはこの世界での神的存在だ。

 いや、神という存在は今ここにいる訳だが、やはり認知されているのは聖霊の方。

 なぜなら神というのは何もしなく、存在も定かでない。しかし、聖霊は様々な恵みを与えてくれると信じられているからだ。


 聖霊の存在は確認されている。存在がある分信仰に値するのだろう。


 「あなたも聖霊様にお祈りを?」

 「違う。俺は聖霊様になんか祈らない!」

 「罰当たりな」


 そう言って出て行った。

 本物の神様の前でお祈りするか?しかも俺様神様ぞ?


 言ったところで仕方ないか……


 「目の前にいるのが神様だなんて夢にも思わないよなぁ」


 あの通り、聖霊の信仰は根強く染み付いている。

 この世界の通貨は聖霊の王と呼ばれている【ネフィル】から取られ呼び方は、1フィルとなっている。

 ちなみに1フィルは日本円で100円。


 「布教…頑張ってみるかな。でも1斗真は嫌だなぁ」

 『何を言っておられるんです?』

 「いいや、何でも。てかいつ帰ってきた?」

 『さっき出て行った人と入れ替わりです』

 「へぇ〜、で何かしらの収穫はあった?」

 『ええ、もちろん』

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