神様sステップ

ドーベルマン

プロローグ…いつもの日常

 

 窓から夕日が差し込んでくる。

 珍しく今日は昼寝をした。この世界に来てからも、生活のリズムはちゃんとしていたのだが…


「…降りるか」


 ベットから抜け、部屋を出てから階段を降りる。


 「おはよう母さん」

 「おはようじゃないわよ。もう夕方よ?」

 「分かってるって」

 「あ、父さんがお風呂用の薪を作ってるから手伝って来て」


 言われた通りに父さんの手伝いをしに行くことにした。

 父さんがいつも薪を割るところは決まって家の裏にある切り株のところだ。


「痛ッ」


  やはりさっきまで寝ていたせいか目にあたる夕日が痛く感じる。ちょっと昼寝に後悔。

  それと同時に聞こえてきたのは一定間隔で聞こえてくる気持ちのいい音。俺には聞き慣れた音。


「おぉ、起きたか」

 「おはよう父さん。で、どれを運べばいいの?」

「じゃあ、そこに積んである薪を半分ほど持って行ってくれないか?【愛佳あいか】が風呂を待ちわびているからな」



 汗を拭う父さんの姿はかつて俺たちの住んでいた世界にいた時よりも輝いている様に思えた。


「どうした?」

 「いや」


 俺は二回に分けて風呂のある場所まで運ぶ。

 割と重いからね。


 「お兄ちゃん遅い!」


 運び終わったと同時にそんな文句を言ってくるのはご想像の通り我が妹の愛佳だ。

 こっちはさっき起きたばかりで働かされているってのに着替えを持ったこいつはいいご身分だ。


 「今から沸かすからまだかかるぞ」

 「えー!なんでぇ!」

 「ガスや電気が無いんだから仕方ないだろ。それにもうこの生活が始まって1年になるんだからいい加減馴れようぜ」

 「こうなったのはお兄ちゃんのせいじゃん!」

 「それは言わない約束!」


 確かにこの様な生活になったのは俺のせいだ。家族にも負い目が無いと言えば嘘になる。

 しかし分かって欲しいのが俺だって来たくてきたわけでは無いということ。


 「とりあえず沸かすから少し待ってろ」

 「はーい」


 俺は薪を所定の位置へ数本セットし、火をつける。


 「炎ノ第3魔法イグニス


 この世界にはあちらの世界と違い、魔法という概念が存在する。聞くところによると魔法を使う者。俗に言う魔法使いはこの世界にも少ないということ。

 ちなみに今唱えたのは初歩的な魔法。

 魔力を持っていれば大抵の者が使える。

 対象に火をつけるという簡単な魔法だ。

 威力はバーナーと同じくらい。加減次第ではライター代わりにもなる。


 「ねぇ、まだぁ!」

 「速いよ!今つけたばかりだよ!」


 妹の文句と煙たいのを我慢しながら、お湯を沸かしていく。

 魔法には4段階の階級がある。


 【第3魔法】は魔力を持つものは大抵使える一般的な魔法である。


 【第2魔法】は初級魔法とは違い、誰でも使えるわけではない。

 生物は大抵ここが限界だと言われている。


 【第1魔法】は人間、および生命の最強魔法。

 使えるものはほんの一握りも居なく、膨大な魔力を消費して地形を変えてしまう程の威力を発揮する。


 【第0魔法】神の魔法とされる無敵の魔法。

 俺みたいな神様や余程特別なものでないと使用できない。

 訳あってこの魔法はほとんど浸透していないが知っているものは知っている。


 (そろそろ沸いたかな?)


 「もういいぞ」

 「やったー!」


 そんな声とともに勢いよく水が飛び散る音がする。


 「湯加減は?」

 「んーちょっと冷たいかも」


 まぁ、大急ぎでやれば多少のミスは仕方ない。後から修正すればいいだけの事。

火力を上げ、火に勢いをつける。


 「こんなもんか?」

 「うん!ちょうどいいよ!」


 これがいつもの日常。前の世界ではボタンひとつで全てができていたが、この世界では違う。全てが自分たちの手で行わなければならない。

 まさにサバイバル状態だ。


 「愛佳ぁ!父さんも入ってもいいか?」

 「絶対ダメ!」

 「……はい」


 それはそうだろ。愛佳も15だ。世間一般で言うお年頃と言う時期にあたるだろう。

 自分の父親ながらバカだなと思ってしまう。


(昔はあんまり話さなかったっけな)


 そんな事を思うのも今日がやはり特別な日だからかもしれない。

 俺は火加減を調節しつつ、入り終えるのを待つ。











 「ご飯できたわよー」


 待ってましたと言わんばかりに俺たちの4人家族はテーブルに座る。


 「では」

 「「「「いただきます」」」」


 合掌をし、全員同時に恒例の言葉を言う。

 本当の意味での感謝の気持ちをこの世界では知ることができた。悟りを開いた気分だ。


 「っとその前に。【斗真とうま】誕生日おめでとう」

 「おめでとう」

 「おめでとうお兄ちゃん」

 「なんだか急に言われると照れるな」


 そう、今日は俺の17の誕生日。それと同時に俺たちがこの世界に転移させられた日。そして、俺がこの世界の神になった日だ。

 どういう経緯かというと、それはもう適当なものだった。人材不足で困った神が取った行動は人間からこの異世界の神を選出した。


 それが俺だったということ。


 しかし、誰でもいいわけでは無いらしい。

 社会不適合者や死者は除き、神にふさわしい心と現世での地位を手にしているものの中から選ばれると言う。


 「しかし、家族揃って食事なんて…何だか、すごく特別な様に思えるな」

 「何言ってるの、いつものことでしょ?」

 「いや、前の世界ではこんな光景は滅多になかったからな」

 「そうだよね。お父さんは残業。私は部活。お兄ちゃんは気まぐれで、お母さんは決まった時間に食べてたからね」

 「ふふ、そうね」


 俺が神に選ばれたことによって、可哀想だからと家族も一緒に連れてこられた。最初は俺を含め困惑していた。

 でも、今の光景を見ると良かったのかもしれない。


 『私のことを忘れては困りますよご主人様。私がいなければみなさんすでにのたれ死んでますよ?』


 もう1人、いや、一冊忘れていた。


 俺はこの世界に来る時、一冊の本をわたされた。それは神様マニュアルと呼ばれるもので、この世界の基本的な事。それに神の能力を記した一冊の辞書の様なものだ。

 一般と違うところは、常に宙に浮いている。喋る、心を読む。


 「うん、だいぶ違うな」

 「どうしたの?お兄ちゃん…ってあ!マニがいる」

 「今日は見ないからどこか出かけているのかと思ったのよ?」


 ちなみにマニとはこの本の事。

 てか、本がどこかへ出かけるってどんな状況だよ……


 こんな異形の存在も最初はあんまり受け入れられてはいなかった。

 だが、こいつの知識とアイデアで、生き延びられた。今ではこいつを家族の一員だとみんな思っている。


 「まぁ、で、どこへ行ってたんだ?」

 『行っていたという事は無いのですが、私も少し眠っていたので他の方には見えないかと』


 マニは眠っているときは俺以外に見えないようになっている。


 「あぁどうりで薪割りの時も見えなかったわけだ」


 ガハハと笑う父。昔は酒飲みだったが、この世界に来てタバコも酒もやめた。事務の仕事から肉体労働に切り替わり多少ワイルドになった。


 「腹減ったぜ、早く食べよう」

 「そうだな」

 「いただきまーす!」

 「いただきます」


 目の前にはいろいろな事をいっぺんに祝う様な豪華な食事。もっとも全てが山の食材。みんなが協力して得た成果だ。








 食事も終盤。豪華なディナーがどんどん減っていき、全員のお腹がいっぱいになった頃。俺のマニが真剣な声で話し出した。


 『話したい事があるのですがよろしいでしょうか?』

 「みんなに伝える事か?」

 『ええ。今日はあなた方がここにきて一年が過ぎました。この世界にも慣れてきたでしょう』

 「ま、まぁな」

 『そこで私が授かったのは神様からの指令。ご主人様。明日からこの世界をよく知るために旅をするように…と』


 神に神から指令が降るとはまた変な状況だな。まぁ、ここに送り込んだ奴って事は俺に取ってもくらいの高い神だろうしな。


 しかし、随分と急だな。


 『それは申し訳ありません』

 「心は読むな」


 静かな空気が場に流れる。

 気まずいというよりか息苦しいと言ったところだろうか?


しかし、そんな空気を引き裂き、俺の父さんが口を開く。


 「良いんじゃないか?」

 「そうね、このまま呑気に暮らすのも悪くはないけど神様としての責任はあるもの。仕方のない事だわ」

 「じゃあ、お兄ちゃんの部屋は私が使うね。あといろんなところのお土産よろしくね!」


 ちょっと飲み込みが早い子がいるな。


 だが、まぁちょうど良い。この世界の神としてほとんど無知と言っても過言ではない。ちょうど良い機会だし、この世界について学ぶ事も大切だな。


 「分かったよ。明日出発する」

「じゃあ、これが最後の晩餐って事になるわね」


 いや、別に最後にする気はないんだが…まぁ良いか。


 最後の肉を頬張り、よく嚙みしめる。

 旅に出てしまえば、なかなか食べる機会がないだろうからな。


 「じゃあ、寝るわ」

 「ああ、おやすみ」

 「ちゃんと準備して寝るのよ」

 「お土産はとりあえず沢山買ってきてね♡」


 妹よもう少し別れを惜しんで欲しかったぜ……

 俺は階段を上がり、自分のバックにお金と下着を入れる。

 お金には困らない。なぜならこの世界に来たと同時に家と一緒に大量のお金を渡されたからだ。


 『ご主人様。ここに座標マーキングをなされてはいかがでしょうか?」

 「ん?なんで?」

 『ご主人様の瞬間移動テレポートはまだ未熟です。そこへ座標を設定すればここに来やすくなるというものです』


 マニの言うとうりだ。俺はよく壁や地面にめり込む。やはり座標を設定しておいたほうが良いだろう。


 「座標マーキング


 これは神の能力。魔法とは違う俺専用の能力だ。


 そうして俺は眠りにつく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る