第41話 役者は揃った
中島かすみと一真さんを説得し、作戦を詰めて各自その計画を実行するために解散した後、俺は稲葉に電話をかけた。
俺の計画には、稲葉の協力も必要だからだ。
「将晴か!?」
「よう」
「一ヶ月は連絡しないって言ってたのに、何かあったのか!?」
早速稲葉に電話してみれば、なぜかいきなり心配された。
どちらかというと、世間話で聞こえてくる稲葉のトラブルにまみれた日常の方が心配のような気もしないでもないが、慣れというのは恐ろしいもので、最近は俺もまあ稲葉だし。とか思ってしまっている。
「あれは『朝倉すばる』としてだろ? なんで俺の方まで連絡絶たなきゃいけないんだよ」
「そうか、そうだよな……」
俺が答えれば、稲葉はどこか安心したように呟く。
……こいつも、悪い奴ではないのだ。
ただ致命的に女運が悪いだけで。
「今話しても大丈夫か?」
「ああ、平気だ」
「今お前の家に一宮来てるだろ、とりあえず、話聞かれるとまずいから、一旦離れてくれ」
「あ、もうベランダに出てる」
「準備いいな」
話を本題に移すため、話を聞かれないようにと注意を促せば、思いの外仕事の早い稲葉に俺は驚いた。
コイツはこんなに察しの良い奴だっただろか。
「一ヶ月連絡しないって言ったのにもう電話してくるなんて、そうとう深刻な事が起こってるんじゃないかと思って……」
「確かに深刻かもな……ある意味、俺の命がかかってるし」
「は!?」
稲葉の答えに納得しつつ、俺は本題を切り出す。
内容は中島かすみや一真さんに話したのと同じ内容だったのだが、稲葉は美咲さんのあの奔放さは今更どうにかできるレベルではないと難色を示した。
しかし、一宮雨莉には同情していたようで、少しでも美咲さんが今までの態度を改めるきっかけになるのなら、と協力してくれる事になった。
これで役者は揃った。
後は事が上手く運べば良いのだが。
中島かすみの話では、一宮雨莉は美咲さんと喧嘩した場合、大体数日で美咲さんの元へ戻るらしいので、稲葉にはできるだけそれを引き止めてもらうことにした。
今まで何度か同じ事を繰り返してきたせいで、今回、美咲さんは全く雨莉の事を心配していない。
どうせなら一週間程家出して、少しは不安にさせてやろうと稲葉に提案してもらう事にした。
一宮雨莉は最初、あまり休むと仕事が……と渋っていたようだが、その方がありがたみもわかって、一宮雨莉への愛情を再確認するのではというような事を言ったら、職場にしばらくの休暇と引継ぎの電話を入れだしたそうだ。
一応この前大きな仕事は一区切りついたばかりなので、今なら雨莉がいなくても特に問題なくまわっていくと思う。
その間に一真さんにはこの一週間で、現状に全く問題を感じていない美咲さんに、今の状態の不安感を植え付けてもらうことになっている。
コレが一番難題だと思うのだが、一真さん曰くアテはあるらしいので、やり方等は全て任せる事になった。
実際、結構心配だったのだが、後日仕事で美咲さんとあった時、やたらと元気が無かったようなので、どうやら上手く言っているらしい。
一週間が経った頃、俺は美咲さんの仕事が片付いた頃を見計らって彼女に話しかけた。
「美咲さん、雨莉とはあの後どうなりましたか?」
何も知らず、ただ心配しているフリをして美咲さんに問いかける。
「すばるちゃん……実はあれからもう一週間になるのに、全く帰ってくる気配がないのよ……仕事の方の引継ぎはしてくれてるみたいだから、そのうち帰ってくるとは思うのだけど……」
暗い表情で美咲さんが答える。
良心が痛むが、そんな美咲さんに更に追い討ちをかけていく。
「そうでしょうか?」
「え……?」
「雨莉、前に美咲さんに必要とされてないんじゃないかって思いつめてたから……」
できるだけ深刻な顔を取り繕って美咲さんに告げる。
もちろんそんな事実は無いのだが、実際あいつがかなり精神的に追い詰められていたのは事実なので、あながち完全に嘘とも言い切れない。
「美咲さん、稲葉から聞いたんですけど、雨莉は今、稲葉の独り暮らししてるマンションにいるみたいです……迎えに行ってあげてくれませんか?」
戸惑う美咲さんに、実は口止めされていたのだけど、とこっそり耳打ちをする。
美咲さんは驚いたように俺の顔を見て、
「ええ、もちろんよ。すばるちゃん、ありがとう」
と、力強く頷いた。
美咲さんが事務所から出て行ったのを確認して、俺は中島かすみにラインでGOサインを出した。
すぐに既読が付き、俺はすばるの部屋へと向かう。
移動時間から逆算して、美咲さんが一宮雨莉を迎えに事務所を出て行った頃に、中島かすみが一宮雨莉を稲葉の部屋から連れ出す手はずになっている。
稲葉に聞いたら、美咲さんは稲葉の独り暮らししている部屋の鍵は持っていないそうなので、まずは部屋に行く前に稲葉と合流するだろう。
そして稲葉と二人で稲葉の部屋に向かうが、そこには一宮雨莉のいた痕跡はあるものの、本人の姿は無い。
タイミングを見計らって稲葉が俺に電話をかけ、俺は一宮雨莉が偶然中島かすみに保護されたらしいと伝える。
加えて、自分もずっと一宮雨莉と連絡が取れなくて心配していたと伝えた所、まだ美咲さんの所に戻るのはためらいがあるようなので、落ち着いたらすばるの家まで送ると中島かすみが言ってくれた。と説明する。
その一方で中島かすみは、俺からサインが来たら、美咲さんの事で話しておきたい事があると一宮雨莉を自分の家に連れて行く。
そこで以前俺が中島かすみと付き合っていると話したが、それは美咲さんが俺と浮気している事を隠すための嘘だったと話す。
なぜ中島かすみが一宮雨莉にそんな事を暴露するのかという理由については、『そっちの方が面白そうだったから』で十分だ。
この一週間一宮雨莉が美咲さんの元に戻らないように画策していたのも俺だと告げられれば、憤慨した一宮雨莉は、早速位置情報アプリで俺の居場所を確認し、すばるの部屋に乗り込んでくる事だろう。
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