第14話 違うんだ!
「お兄ちゃん、せっかくだから、ちょっとコスプレしてみない? 衣装なら私のかすからさ!」
声を弾ませ、ニコニコ元気よく言う優奈だったが、この妙に長い金髪のウィッグにその特徴的なリボンは、嫌な予感しかしない。
以前、優奈がイベントにコスプレ参加しようとした時、あんまりにも衣装がきわど過ぎるためにやめさせた某ホロレア駆逐艦の衣装にしか思えない。
「しないからな!?」
俺が優司のいる方に後ずさりながら言えば、優奈も俺の方へと距離を詰めてくる。
「大丈夫! ブレザーがセーラー服になるだけだから!」
「お前の持ってるセーラー服明らかに短すぎて全然大丈夫じゃないんだけど!?」
とりあえず近くにいた優司の腕を掴み、そのまま優司を俺と優奈の間に引っ張る。
「俺はもう十分女装したんだから、今度は優司にさせればいいだろ!」
こうなれば優司を巻き込んで、話を有耶無耶にしてしまおう。
「いや、僕だと衣装入らないから!」
しかし優司も危険を察したらしく、すぐに俺の後ろに周って、俺を優奈に向けて盾にする。
「お兄ちゃんならギリいける気がする!」
「無理だから! 俺も入らないから!」
そうこう言っている間にも、優奈は俺の脚の間に入ってきて、カチューシャを俺の頭に着けた。
「その細っこい身体で言っても説得力無いわ!」
優奈がそう言って例の衣装を取り出した時、突然優司の部屋が開いた。
「…………な、何をやっているのかしら?」
ドアの外には呆然と立ち尽くした春子さんがいて、震える細い声で俺達にそう尋ねてくる。
俺は今の自分達の様子を客観的に分析してみる。
今の体勢だと優司が俺を押さえて拘束しているように見えなくもないし、今、女装していてぱっと見では、将晴とわからない格好をしている。
そして優奈はちょうど俺の股の間にいて、今にも何かしそうな雰囲気である。
……うん、色々と誤解を招くよな!
「いや、違うんだ母さん! 俺将晴だから!」
まずは別に知らない娘さんを連れ込んで何かしようとしていた訳では無い事を伝えなくてはならない。
俺はすぐに身体を起して春子さんに申し出た。
「あっ……確かに、その声は……よく見れば、将晴……だとして、その格好……?」
春子さんは一応俺だとは気付いてくれたようだったが、今度は俺の格好を呆然とした様子で見つめる。
「違うのお母さん! 私がお兄ちゃんに無理矢理着てもらったの!」
「えっ無理矢理!?」
優奈が俺を庇うように割って入ったが、それによってまた別の誤解が発生してしまった。
「違うから! 合意の上だから!」
「合意の上で三人であんなことを……?」
「それも違うんだ!」
さっきから、違うしか言っていないが、実際そうしか言えないんだから仕方が無い。
結局、俺達はその後30分程かけて春子さんの誤解を解いた。
春子さんからしてみれば、買い物から帰ったら俺の靴が増えていて、二階からバタバタ音がするから何かと思い、声のする部屋を開けて目に入った光景がアレだったので、仕方が無いとは思う。
誤解を解いた後、俺は家に泊まる事になった。
夕食を家族全員で囲むと、当然のようにその出来事が話題になり、話を聞かされた親父が優奈に俺の写真をねだるのを阻止したりと賑やかだった。
「同居を始めた時は、仲良くなってくれるかどうか心配だったのだけど、でも三人一緒になってそんな悪ふざけをするくらいなら大丈夫ね。近所迷惑になるからもう少し大人しくしてくれると嬉しいけれど……」
春子さんが笑いながらそんな事を言っていたが、元々仲が悪かった訳ではないものの、二人と仲良くなったきっかけを考えると、なんとも言えない。
正体を隠した女装コスプレによって優司と優奈と仲良くなり、女装した俺に惚れた二人の恋愛相談に乗りながら仲を深め、その二人によって今回女装をさせられ義母に目撃されてしまった。
考えてみたら、この一年、俺、女装ばっかしてないか……?
今更ながら自分の現状の異常性を再認識した俺だったが、しかし解決策も思いつかないので、俺はそれについて深く考えるのをやめることにした。
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