第13話 血が騒いだ
「お兄ちゃんすごく可愛いよ~」
心底楽しそうに優奈が囃し立ててくる。
「思った以上に様になってるというか、ちょっと洒落にならないレベルで似合ってるね……」
一方優司は随分と驚いた様子、というよりは若干引いているようにも見える。
現在俺は、優奈の高校の制服と、恐らくコスプレ用と思われる金髪ロングのウィッグを身に付け、優奈にされるがままにメイクを施されている。
カラコンが無いのがせめてもの救いである。
メイクも金髪のウィッグに合わせてギャル風の物になっているので、すばるとは似ても似つかないだろう。
鏡を見て抱いた印象は、可愛いけど性格きつそうな子だな……だった。
「それにしても、お兄ちゃん腕も脚もつるつるのスベスベって、どういうことなの……」
優奈が半袖のワイシャツから出た俺の腕をまじまじ撫で回しながら呟いた。
「……元々、体毛が薄い体質なんだよ」
目を逸らしながら俺は答える。
女装コスプレのために体毛の処理に精を出し、毎日のように風呂で薄めた豆乳を刷り込み一年が過ぎた俺の肌は、自分で言うのもなんだが、無駄にスベスベで体毛がほとんど目立たない卵肌になっている。
「あ、そういえば一緒に住んでた時も、お兄ちゃんの脚からすね毛を見た覚えが無いかも」
「普段そんなにちゃんと見るものでもないしね」
そう言えばという様子で優奈が言えば、優司も俺の脚をまじまじと見ながら言う。
同居していた高校時代もちょいちょい+プレアデス+としてコスプレ写真をあげていたので、こまめに無駄毛処理をしていたのが功をそうしたようだ。
「ところで、思いの外可愛くできたから写真とってもいい?」
目をキラキラさせながら優奈が言う。
「やめろ」
「大丈夫、ぱっと見別人に見えるから! せっかくこんなに可愛くなったんだから記念に! ね?」
当然俺は断ったが、優奈は引き下がらない。
「いや、そういう問題じゃ……」
そうは言つつも、やっぱり可愛いと褒められるのは嬉しい。
確かに普段は絶対しないような格好だし、ちょっとくらいなら写真を撮っておいてもいいんじゃないか、という気もしてくる。
「いいよいいよ~可愛いよ~それじゃあちょっと可愛いポーズしてみようか!」
チラチラ姿見の方を見ていた俺に気が付いたのか、優奈はワクワクとした顔で俺にスマホを向けてきた。
考えてみたら、やっている事は普段の女装コスプレとあんまり変わらないし、俺の正体に二人が気付いている訳でもないし、別に今回だけならいいんじゃないか……?
「……しょうがねえなぁ」
そう言って俺はあごを引いて上目遣いをしつつ、右手を口元に添えて身体を捻り、身体を少し前に倒す。
コスプレイヤーの血が騒いだ。
「ちょっと、お兄ちゃんのポージング完璧すぎ!」
優奈はツボにはまったようで爆笑しながらも何度もシャッターを切っていた。
撮影がひと段落してふとさっきからベッドに腰掛けてずっと黙っている優司の方を見れば、ノリノリだった優奈とは対照的に、ちょっと引いていた。
「……正直、兄さんの板の付き方に困惑してる」
という優司の発言は、もっともだった。
しかし、散々すばるに夢中だった優司を目の当たりにしている俺としては、ちょっと面白くない気もする。
俺は優司の隣に腰掛けた。
「優司君は、
あえて猫撫で声で、ぶりっ子全開の素振りで優司に言ってみる。
完全なる悪ふざけである。
「……なんか、高校入学早々に告白してきて、付き合ったと思ったら、人の趣味を全否定してきそうな感じがしてちょっと」
「なんだその妙に具体的な理由は」
しかし、帰ってきたのは盛大なため息と、明らかに体験談と思われる否定理由だった。
「最初いい雰囲気だったのに、話していくうちにどんどん不機嫌になっていって、最後にすごい低い声でキモッとか言ってきそう」
「そ、そうか……なんか、ゴメンな」
どうやら思いっきり地雷だったようで、もういいしゃべるな! という気持ちになりつつ、俺は静かに優司の肩を叩いた。
そんなやりとりを俺と優司がしていると、優奈は無言で俺の優司とは反対側の隣に座ったかと思うと、無言で俺の太ももを撫でてきた。
「ひぇっ! 何するんだよ」
突然のセクハラに抗議しつつ、優奈の手を掴んでやめさせる。
「うーん、優司の趣味はともかく、ホント思った以上に上玉だったな~、と思って」
「何を言ってるんだお前は……」
呆れながら振り向けば、俺の太ももを撫でていた優奈の反対の手には、うさぎのように大きな黒いリボンの付いたカチューシャがあった。
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