第11話 まずい。
「すばるさんって、あのすばるさんだからね! +プレアデス+の! そのすばるさんが男って言った!?」
優奈は一気にまくし立てながら俺をガクガクと揺さぶった。
「いや、それは……」
頭ごとものすごい勢いで揺すられながら、俺がとりあえず優奈を落ち着かせようと優奈の腕を掴んだ時だった。
「そうだよ」
俺のすぐ横で優司があっさりと優奈の言葉を肯定した。
同時にピタリと優奈の手が止まる。
「おいっ!」
「聞かれてしまったのなら、もうそのまま本当の事を教える方が親切だと思う」
抗議の声を俺が上げれば、優司は小さく首を横に振って俺に言った。
それに優奈ならすばるさんに不利になる事は絶対しないと思うと優司は付け加えたが、俺の抗議したいポイントはそこじゃない。
朝倉すばるの性別がばれて、それが広がる事自体が俺にとってはダメージがでかい。
それも、一番正体を知られたくない義理の弟と妹だ。
「つまり、すばるさんは……」
一方優奈は呆然とした様子で床に座り込む。
無理も無い、優奈が憧れ恋心を抱いていたのはあくまで美人なお姉さんの朝倉すばるだ。
決して女装癖のある男ではない。
夢を壊してしまった罪悪感もあるが、それで優奈の恋が冷めるというのなら、いつまでも今の関係でいる事は難しい以上、ちょうど良いタイミングかもしれない。
そう考えた俺は、意を決して以前、優司にしたのと同じ説明をした。
朝倉すばるの性別は男であるが、中身は女で、正直色々事情が込み入っているのであんまりオススメできる物件ではないので、あまり深入りはしない方がいいという、忠告を装った俺の希望である。
「……優司は、その事知ってたの?」
優奈は俺の話を最後まで大人しく聞いていたが、やがて聞き終わると、静かに視線を優司の方へと向けた。
「最近、偶然知った」
「いつ」
「一ヶ月とちょっと前」
優司が答えると、なぜそんな大事な事を黙っていたのかと言いたげに、優奈は不満そうな顔をした。
「あいつは今、女としてメディア露出してるし、この事を知っている人間はごく一部なんだ。万が一にも世間にばれる訳にはいかないし、誰にも話さないよう優司に言ったのも俺だ」
俺が優司をフォローすれば、今度は優奈の不満げな顔は俺に向けられた。
優奈はしばらく不満そうな顔で俺を睨み、部屋の中を静寂と気まずい雰囲気が支配した。
しかし、どういう訳か、しばらくすると、堪えきれなくなったという様子で急に笑い出した。
まるで悪役の高笑いのように、若干邪悪さの漂う顔で優奈が言う。
優奈から話を聞いたところ、せっかくだからとワザと不機嫌な態度をとって俺達の反応を見ていたらしい。
高笑いの理由を尋ねれば、優奈は晴れやかな笑顔で答えた。
「だってすばるさんが男なら、私はすばるさんと何の問題もなく結婚できるじゃない!」
ところが直後、優奈のこの発言は、優司の
「それはない」
の一言であっさりと切り捨てられた。
「なんでよ!」
不満そうに優奈が食い下がれば、優司がなんでもなにも、と口を開く。
「さっき兄さんも言ってたように、すばるさんの性自認は女で、前に兄さんの事が好きだったように恋愛対象は男だからだよ」
まあ、今までの情報を総合すると、そういう事になるよな……。
俺はどうしようもない切なさとやるせなさを感じつつも、優司の言葉は否定しなかった。
実際の俺はノーマルな嗜好を持つ普通の男なのだが、朝倉すばるというキャラクターの人物設定を考えれば、優司の言っている事が一番違和感が無いだろうとは思うからだ。
優奈の顔を見れば、さっきまでの大勝利とでも言わんばかりの笑顔がみるみるがっかりしたような顔へと変わって行った。
が、流石優司の双子の姉と言うべきか、そこであっさり引き下がる優奈ではなかった。
「……でも、そんなの関係ないわ! もしすばるさんが男の人しか好きになれないというのなら、私が男になる!」
突然立ち上がったかと思うと、優奈はそう力強く宣言した。
まずい。
これは本気でまずい。
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