第25話(旅の終わり)
パンが2個とTea・coffeeのみという貧弱な安ホテルの朝食を終えて私はフランクフルト中央駅に向 かった。そこから空港まで10分程度だ。もう旅は終わってしまう。空港で家に電話をかけた。妹が 出た。
「これから飛行機に乗る。無事に旅は終えた。」
「おみやげ忘れてヘンやろね!」
私は、家族へのお土産など何にも考えてなかった。ウィ-ンで買ったお菓子はザックの片隅に入っ ている。しかし、それは量にしてほんのわずかである。そして、昨夜手に入れたエロ本はまぎれもな く、「自分」へのお土産である(笑)。
空港の銀行でマルクのCASHを売った。(チェックは帰国してから換金すればいい)114.4DM→ 8000円となった。昨夜結局エロスセンタ-で使うつもりだった100マルク以上のCASHがまだ残っ ていたということだ。そして、もはや他の国を訪問しないことを思うと、円に換金してしまうという結論 に到達したのだった。そして、この時に私は、自分のカ-ド電卓が死んでいることに気が付いた。旅 の終わりで本当によかった。
両替の時に手数料を気にして、少しでも換金率のいい銀行を探し回った私に
とって、この電卓はどれほど役に立ったことだろう。
旅立つ前読んだ本には、現金は危険だからCHECKにするようにと書いてあった。しかし、CHECK をCASHにするにはCOMMISSIN(手数料)がかかる。CHECK1枚の換金にかかった手数料は、ド イチェBANKが2DM、VOLKS・BANKが0.5DM、バイエリッシュBANKがタダだった。そのことを知 ってからは必ずバイエリッシュBANKを探し、ドイチェBANKを無視した。そういうことは、実際に旅し てみてわかったことだ。やはりCASHが便利だ。(今はどうなっているのかわからないが……)
安いチケットを買った不安から、オ-バ-ブッキングが気になってなんと空港の搭乗窓口のカウン タ-に、4時間も前から並んだ。実はパキスタン航空でヨ-ロッパ入りした友人が、やはりオ-バブ ッキングでカラチで足止めを喰ってしまい、1週間ホテルで次の便を待ちその間に食あたりして猛烈 な下痢で苦しんだ話を聞かされていた。なんでも、こちらが抗議しても「アラ-」とか言われるわけで 全然取り合ってくれなかったそうだ。何事もアラ-の神の思し召しなのだ(笑)。
自分の乗るのがそんなメチャクチャな会社の飛行機ではないことは確かだが念には念を入れて、 早い目に来たのである。これで乗れない(帰国できない)ことは絶対にないだろうと思ってである。し ばらく待っていると、日本人夫婦が現れた。奈良教育大講師ということだった。少し旅の話をした。 彼らは、新婚旅行のようだった。パックツア-を使わないとは自分同様、不真面目な人々だ(笑)。
飛行機は無事に離陸した。エアコンが効きすぎている。14:10に離陸して、シンガポ-ル到着は6:30 である。単純計算では16時間20分も飛行機に乗ると言うことになるのだが時差が6時間あるので、 実際は約10時間というところだ。それでも長いが。来るときは、途中ドバイに着陸して13時間だっ た。今度は時間は短いとはいえ、ノンストップで10時間だ。かえって疲れそうだ。
旅の終わりに、自分の旅の目的はいったい何だったのか?それをはっきりさせておきたくなった。 自分はこの旅で何か変わったのか?4年間の片想いに見切りをつけて、「素敵な夢」を探そうとし て、1カ月あまり気の向くままに放浪したこの旅で自分はどんな成長を遂げたのか? あるいは何 も変わらなかったのか。この旅は所詮、ただの自己満足、自慰的行為に過ぎなかったのか?
空席をたくさん残したまま、シンガポ-ル行きSQ27は離陸した。私の隣の席も空席のままであ る。窓から見える主翼は、けっこうしなっているように見える。こうして金属疲労が蓄積され、いつか は破断するのだろうか。自分が乗っているときでないことを祈りたいものである。
そういえば、往路の日本からシンガポ-ルまでの飛行機の機内で男性乗務員が日本人乗客の女 性をナンパしていたことをふっと思い出した。スチュワ-デスの容姿のレベルは相当高そうである。 こういう人たちをナンパしてしまうのだから野球選手は違うなあ……とふと思ってしまう(→江川卓) (笑)。
ジュ-スが運ばれてきた。おかわり自由なのでもう1杯飲んだ。あとでビ-ルも運ばれてきたので、 「損した!」と思った。退屈なので、ヘッドホンをあてて音楽を聴いた。クラシック音楽にダイヤルを 合わせると、ポ-ランド訪問の因縁だろうかショパンの「英雄ポロネ-ズ」を聴くことができた。おつ まみのピ-ナツはなかなか美味しかった。翌翌年私は大韓航空機で再び渡欧することになるのだ が、その時に出されたピ-ナツとは比べ物にならぬほどこの時食べたピ-ナツは美味しかった。ひ とつを父への土産にした。
シンガポ-ルまで12時間20分とパンフレットに書いてあった。手元の時計が2:10を指せば(まだ 真夜中だが)、もうシンガポ-ル到着だ。真夜中に朝になってしまう。そして、シンガポ-ルから乗り 継いで日本へと飛ぶ飛行機では、もっと夜は短いはずである。
エアメ-ル用の封筒が配られた。なんでもシンガポ-ル航空では、サ-ビスとして、機内からエアメ -ルが出せるのである。もちろん、その郵送料は航空会社負担である。
「なんと、タダで何通でも誰かに手紙が書けるのか!」
私は手帳に記されたヘルシンキのN子の住所を早速その封筒の宛名部分に記した。飛行機に乗っ ている長い「魔の退屈」の時間に、私は小さな文字を便箋にぎっしりと詰め込んで長い手紙を書くこ とに決めた。自分がなぜこの旅をしようと思い立ったか、そしてどんな旅をしてきたのか今、どんな 気分なのか……ということを。
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