第24話(エロスセンター)
<1DM=70円>
真っ白なシ-ツにくるまれて快適な一夜を過ごし、しかも朝食も何を選んだらよいのか迷うほどのバ ラエティ-に富んだ品数だった。フライブルクでの一夜はまぎれもなく「正解」だった。さて、今日は 余裕の一日である。今夜フランクフルトでもう1泊して明日の昼過ぎの飛行機で発てばいいのだ。フ ライブルクからフランクフルトまで、列車で移動するのはすぐである。東山魁夷の絵で見た「緑のハ イデルベルク」にも興味はあったが駆け足でそこに立ち寄る気にはなれなかった。
私は荷物をホテルに預けたまま、駅とは反対方向に進んで、大聖堂前の広場に広がる朝市の中を グルグル歩き回り、一升瓶みたいなのに入ったアプフェルザフト(アップルジュ-ス)を0.7DMで買 い、歩きながらラッパ飲みし教会の写真や、街の写真を何枚も撮った。街のメインストリ-トの両脇 には清流が流れ、思わずそのせせらぎに足を差し入れたくなるほどである。(きれいな流れで水遊 びする子供もいる。)人々がちゃ-んと生活しているという雰囲気を肌で感じることができてそして、 ほんの少しの自分の好奇心を満たしてくれる、そんな時間が好きだ。
今回の旅行では、みんなが必ず行くパリやロンドン、ロ-マといった大都市には結局一度も行かな かったことになる。せいぜいベルリンやウィ-ン程度だった。でも私は、歩いて全てが楽しめるよう な、そんなこじんまりとした街がこよなく好きだ。もしも自分が外国でしばらく暮らすようなことがあれ ばこの学園都市フライブルクのような、地方の小都市がいいと思った。ちょうど高校で進路指導して いる時に、受験生に松江や金沢と行った地方の魅力ある街の大学を極力勧めてきたように……で ある。
昼近くなってからフライブルクを出て、列車で2時間あまりかけて、フランクフルトまで移動した。駅 近くの安ホテルで、シャワ-付シングル50DMの部屋を見つけた。骨董品のような古いエレベ-タ -に驚く。そのホテル・アポロに荷物を置いて、私は身軽になって街に出かけた。実は、旅の最初 にフランクフルトに降り立った時に、下見だけでちゃんと楽しめなかったところを、今日は堪能する つもりだったのだ。
カイザ-通りの北側の一角に、私の目指す場所はあった。そこには、そのものズバリの「SEX・ SHOP」や「EROS・CENTER」なるものがズラリと並んでいた。私はそれをしっかりと探検して、旅の 最後を締めくくろうと思ったのである(笑)。
覗き小屋に入ってみた。中央に回転する舞台があって全裸の美女が台の上で回っている。その周 囲に扇形の小部屋があって、観客はそこで、コインを入れる。すると一定時間スクリ-ンがあがり 目の前で回転する寝そべった全裸の美女を眺めることができるのである。最初に登場したのが私 好みの金髪、青い目のほっそりとした美女だったので思わず興奮して、コインをどんどん入れて必 死で眺めていた(笑)。そのお姉ちゃんが舞台を降りて、交替で入ってきたイモ姉ちゃんはお世辞に も美女とは言えなかったので、私はすぐに部屋を出た。
個室ビデオもあった。これも先ほどの覗き小屋の小部屋と同様コイン入れると一定時間ビデオが見 られる。もちろん無修正版ですべてが見える。そして、気にいらなければ、いくつかの別のビデオが 選択できる。しかし、日本では必ずそういう場所に置いてあるティッシュの箱がない。(全くサ-ビス が悪いよ!)おかげで私は満たされない時間を過ごした(笑)。
ポルノ雑誌を置いてある店に入った。一冊8DM~15DMくらいで、無修正のエロ本が山積みされて いる。もちろん私は買うつもりで必死で選んだのだが、いわゆる「ビニ本」状態で中味の確認できな いものが多かった。こればかりは表紙の写真とかで判断して選ぶしかない。私は3冊のエロ本を購 入した。あとは税関で没収されないことを祈るだけだ。中味は英語、ドイツ語、オランダ語の三カ国 語で表記されていた。これはドイツ語の勉強に大いに役立ちそうだ(笑)。
さて、フランクフルト中央駅の方まで戻ると、そこにあまり旅慣れない感じの日本人旅行者がいた。 彼は「ザクセンハウゼンに行きたいのだが行けない!」と嘆いていた。当然である。彼の所持してい る「地球の歩き方」では、ザクセンハウゼンの地図上の位置を間違って記載してあるのだ。(私もフ ランクフルトに来た夜に騙されてしまった。)それで、地下鉄に乗って正しい場所に案内して、屋台 のような居酒屋で二人でビ-ルやりんご酒を飲みソ-セ-ジを食べた。彼はマンハイムにホテルを とっているからと早々に帰っていき、私は酒の力を借りて、ついに「EROS・CENTER」に乗り込むこ とになった。
「EROS・CENTER」、それはどう表現すればいいだろうか。巨大売春アパ-トとでも言えばいいのだ ろうか。その建物にはたくさんの部屋があって、その部屋の扉のところに女性が立っている。いわ ゆる「一発屋」である。1回50DMという驚くべき安さで……できるらしい。私はおそるおそる、その 「魔窟」に足を踏み入れた。
階段を上って最初の階には、なかなかの美少女たちがいた。私は一瞬「おっ! いいぞ」と思った。 しかし彼女らは東洋人を見下した表情で、「100マルク!」と言った。美女は高いのだろうか?
もっと上には何があるのだろう?私は階段を2階分ほど上っていった。するとそのフロアは、東洋人 の女性ばかりだった。中国人、タイ人、フィリピン人と私は判断した。彼女らの値段は50DMだっ た。これは聞いていた相場通りだ。もっと上の階に登ってみた。すると、今度は黒人ばかりのフロア になった。「30マルク!」「25マルク!」と声がかかる。
う-む。たしかに安い! しかし、はっきり言ってブスばかりじゃないか。いくら安くても、これじゃあ 気分が出ないぞ(笑)。
他の建物の「EROS・CENTER」も次々と見学した。見るだけなら無料だからだ。
そしておそるおそる、そこにいた白人女性に50DMの料金の内訳を聞いてみた。するとこのような 答えが返ってきた。まず時間を聞いた。すると「To finish.」とのこと。ようするに「イク」までやれると いうことだ。あとはそのプレイの中味である。「What can I do?」と訊くしかない。
>「You can fuck, suck,and touch.」
なるほど、いちおうすべてアリなのか。でもね……。
いくら安くても、少し体型の崩れた自分より確実に年上の白人の姉ちゃんと病気覚悟で遊ぶ気に はなれないなあ……と思ってしまったのである。だったら100Mぼったくる美少女たちならいいのか というと、あのいかにも東洋人を見下した態度の女どもにカネなど払いたくはない。
自分なりの理由をあれこれ考えてしまうのが自分の悪い癖だ。「やりたい」のなら「やりたい」と素 直になればよかったのだ。外国に旅してそこで自分はまぎれもなく、旅先で出会う異国の美少女た ちとの「恋愛」を期待していた。少なくとも自分はここで、心の通い合わない「行為」だけを求める気 にはならなかったのだ。
その夜、私は安ホテルのベッドの上で、覗き小屋で回転していた美女の裸身を何度も思い出したこ とは言うまでもない。ザックの中に忍ばせた避妊具を結局旅の中で一度も使わないまま、ヨーロッ パでの最後の夜は更けゆくのであった。
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