第17話(ロマンチック街道)

<1DM=70円>





理性が欲望に打ち勝った私は、ハンブルグで結局ミュンヘン行きの夜行に乗ることにした。途中(シ ュタイナ-ハ)で乗り換えて、ロマンチック街道のど真ん中ロ-テンブルクに行くことにしたのであ る。






これまでどちらかというとマイナ-な観光地ばかり回っていた私だが、ここでついに日本人旅行者 の王道に立ち戻ったのだ(笑)。しかし、多くの日本人がこのロ-テンブルグにやってくるが私のよう にロ-カル線の列車で早朝に到着するような者は他に誰もいなかったようで、駅に降り立った時日 本人は誰もいなかったし、旅行者らしい人影もなかった。






田園風景の中をコトコトゆっくり走るその2両編成のロ-カル線こそ、ロ-テンブルク入りするのに もっともふさわしい気がした。日本人のパック旅行の連中は、豪華な観光バスでやってくるのだろ う。






駅からしばらく歩くと、城壁が見えて、ロ-テンブルクの街が登場した。実は、私は極度の空腹状態 だった。昨夜から何も喰っていないのだ。荷物を預けるために、バスタ-ミナルの近くの店(宿屋兼 レストラン)に入っていきなりいろいろ注文した。






オレンジジュ-ス、Tea2杯、半熟卵、ハム・チ-ズの盛り合わせ大きな白パン4個、スライスした黒 パン1枚、サラミソ-セ-ジ……。それらを一気に食べて、大満足だった。しかし、ふと発見したメニ ュ-に日本語が存在するのを見て私はびびった。






「この店は、日本人のよく来るところだったのか、しまった!」






しかし、どんなに高くても、北欧のようなことはないだろう。私は少し豪快に喰ってしまったかなと恐 れつつ、勘定を訊いた。すると、8DMで済んだ。日本円にしてたった560円だったわけだ。まった く、マクドナルドのバリュ-セット3人前くらいは軽く喰ったのにこの金額で済むとは、さすがドイツは 物価が安い! と旅の中盤に北欧で失った金銭を取り返せそうだという期待が持てた。その店の好 意で荷物を預かってもらって、目の前のバスタ-ミナルでユ-レイルパスで乗れるロマンチック街道 のバスの時間を確かめた。






それから私はカメラを手にしてロ-テンブルクの探検を始めた。城壁の上を歩き回り、路地を行っ たり来たりして、あちこちで写真をとった。いろんな店が、店先に掲げている金属製の看板が面白く てアルバムを見ると、その写真がやたら多いことに気が付く。「地球の歩き方」に出ていた市庁舎の 塔にも登ってみた。この塔は階段が狭くて急で、いつも行列になっている。別に私は狙っていたわ けではないのだが、目の前にスカ-トをはいた国籍不明の若い女性がいたので、黙ってその後ろ から登った。おかげで久々に目の保養になった(笑)。






涼しかった北欧では、一日1、2本くらいしかアイスクリ-ムを食べなかったが、南ドイツに来るとさ すがに暑いので、ついつい食べてしまう。1本2DM~1.5DMとそんなに安くはなかったが、それで もバスが出るまでに4本も食べてしまった。13:30くらいにパンやジュ-スを買い込んでバスに乗る。 バスの中は、なんと日本人だらけだった。そしていつのまにか私を含めて女性3名・男性5名の8人 組のグル-プが結成されてしまった。






その中でドイツ語がしゃべれるのは、私と神戸大医学部のT氏だけだったのでみんなに頼りにされ てしまう結果となった。






ロ-テンブルクから、ヨ-ロッパバスはいくつかの街に停車しながら少しずつロマンチック街道を南 下していった。どの街もロ-テンブルグと似た感じで、中世の雰囲気を再現しようと気を配ってるよ うだったが、そういうわざとらしさはだんだん鼻についてきた。






最初、ロ-テンブルクで「凄い」と思った感動は、徐々に薄れていった。それは例えば、倉敷のよう な都市が、わざわざ「美観地区」というのを作り観光客に、「これが倉敷ですよ」と媚びているそうい う「作為」をこのドイツでも感じてしまったからである。みんなは真面目に観光していたが、私は停車 の度にアイスクリ-ムばかり喰って他の日本人メンバ-から少し不審の目で見られていた。そうそ う、アウクスブルクの街角で、偽マクドナルドという雰囲気のハンバ-ガ-屋があって、さすがに本 家よりも安くて美味しかったぜ。店の名前をメモしていなかったので紹介できないことが残念であ る。






バスはロマンチック街道の終点、フュッセンに着いた。もうすっかり暗くなっていた。8人は暗くなっ たフュッセンで宿探しに奔走しないといけなかった。私とT氏が一緒に次々と宿屋を回っては部屋が あるか尋ね歩き、ついにある宿屋で、3人部屋が2つ空いていることを発見した。料金は1部屋12 0DMだった。(田舎なのに少し高いぞ!)1人あたり40DMである。さて、ここからが値切りの交渉 だ。8人ならいくらになるか?






宿屋は当然、40DM×8=320DMという主張をぶつけてきた。まあ、それも当然である。しかし、 ベッドは6人分しかないのである。どうしてベッドに眠れない人数まで正規の料金をとられるのか? 我々は、あくまで2部屋分ということで240DMという主張を変えなかった。






結局、240DM+追加人数は一人当たり10DMという好条件を引き出し、それで話し合いはまとま った。我々はその夜の宿を手に入れたのである。明日はいよいよノイシュバインシュタイン城であ る。明日になれば城は見られるのに、誰かが「夜はライトアップしているのだ!」と言い出し、疲れ 切った身体にムチ打って、さらにそれを見るための深夜の「死の行進」がスタ-トした。(私は眠り たかったぞ!)フュッセンからどれほど歩いたらノイシュバインシュタイン城につくのかそんなことも きちっと理解せずにみんな歩き出した。






1時間ほど歩いて、それからふと、「ライトアップといっても一晩中しないよな」と言い出した奴がい て、それもそうだということで、またまた引き返した。結局その死の行進は、メンバ-全員の睡眠時 間を大きく奪っただけに終わった。くじ引きで私はベッドで眠る権利を手に入れ、短い夜を貪るよう に眠った。男5+女3の8人を、4人ずつ二部屋に分けるわけにもいかなかったので男は3人部屋 に5人が詰め込まれる状態になったのである。しかも、翌朝の宿泊料の精算では、総額を人数で割 って、女の子たちの負担を軽くしてやったのである。私を含めなんとも優しい男たちであった(笑)。

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