第15話 「Take on me」(a-ha)

  <1KR=21円>



ストックホルムから乗った夜行列車は、早朝にオスロについた。今度は駅の近くのホテルを普通に とろうと思って、「地球の歩き方」に掲載されたホテルに電話をいれてみた。シャワ-付シングルで 350KRだ。やっぱり高いけど、それが北欧の相場なのだからあきらめるしかない。とりあえず、宿を 確保することにする。荷物をホテルに預けてそれから街を歩き始めた。






「オスロ」と言えばやはり「ムンク」である。ムンク美術館に行くことにした。地下鉄で移動した。しか し、不勉強な私は「叫び」以外の絵を全然知らなかったのだが……。それから、彫刻だらけのフログ ネル公園を歩いた。有名な「アンガ-チャイルド」(怒れる子供)も見た。思わず、チン○ンの部分を 指で弾きたくなった(笑)。あいにくの雨で、傘をさしてトボトボとわびしく私は歩いたのだった。パン を買って、物価高の北欧でも唯一安い「牛乳」を買って、公園の中の無人の休憩所で、寂しく食べ た。






そして、地下鉄に乗らずに2時間ほど歩いてホテルに戻ることにした。途中、賑やかなところで何度 も「Take on me」(a-ha)が流れていた。彼らは確かノルウェ-出身だったはずだ。自分たちの国 の産んだスタ-として、地元ではやはり大人気なのだろう。






ホテルには15:00くらいについてしまった。時間を持て余す。ソファ-で2時間ほどうとうと眠ってしま う。起きてから洗濯をしてそれから街に出た。オスロ駅前で、ノ-ルカップで一緒だった竹村君に会 った。彼は、ノ-ルカップから沿岸部を南下してきたらしい。「もう夕食は食べた」という彼を無理に 誘って、レストランに入り彼にはビ-ルをおごって、自分はステ-キを食べた。「せっかく遠くまで来 てるんだ。食い物をケチるのはよそう!」という理由で数日前から、私はステ-キを食べることをな んとも思わなくなっていた。(笑)






そうした方針の転換と、今日は誰とも話をしなかった……という淋しさから私は無理に彼を誘って、 話し相手にしたのだった。彼の列車の発車間際まで、おたがいの旅したところをいろいろと情報交 換しあった。そして、彼の話をもとにして私は翌日の行動計画を組み立てていた。






翌朝のホテルの朝食はおきまりのバイキング形式だったがバッグに隠してキ-プできそうなものも あまりなくて、とりあえず私はゆで玉子とビスケットをオヤツ用に奪取したあと、胃袋の限界まで喰 いまくった。といっても、パンを何個喰ってもやはり「メシ」を喰わないと食べた感じがしないのだが ……。チェックアウトの時に350KRの宿泊料を払おうとすると、370KRと言われ、「昨夜は確かに 350KRと聞いたのに……」と抗議しようと思ったが自分の聞き違えかも知れない。あきらめて支払っ た。高すぎるぞ!






オスロ発7:35 ベルゲン行き EXPRESSに乗った。昨夜自分はちゃんと1CLASSの座席をリザ- ブしていて、その席番号を書いたチケットを持っているのである。しかし、その席には、別の人が座 っている。私がチケットを示すと、彼は「空いている席に座れ」ともいわんばかりに空席を指さす。ど ういうシステムなのかよくわからないし、彼の言うことがもしかしたらノルウェ-では正しいマナ-な のかも知れないのであきらめてその空席に座った。4人掛けの座席で、前にはアメリカ人夫婦が座 っていた。いちゃいちゃしていることから見て夫婦仲はよさそうだ。






私は窓の外に流れる景色をずっと見ていた。外には雪がけっこう残っていて、巨大な氷河の端っこ の部分みたいな白い塊も見える。景色に飽きた私は、目の前のアメリカ人に話しかけてみた。変な 東洋人が、いきなり「英語」で話しかけてきたので、彼らはおどろいたようだったが、やはり退屈して いたのだろう。凄い勢いでしゃべりかけてきた。彼らも北欧の物価高には不満を語っていた。「コ- ヒ-が1杯1ドルもするのは許せない!」「アメリカでは50セントだ!」と口を揃えて言うので「東京 では3ドルですよ。」と教えると彼らは「信じられない!」という表情をした。






それで私は、北欧よりももっと物価の高い、東京の物価について説明した。それに比べれば、北欧 なんかずっとマシですよ……と私は言いたかったのだ。ベルゲンまで行かずに、ミュルダ-ルで乗 り換えて、船でフィヨルド観光をするつもりだった私の行動計画を教えると、彼らはあっさりと予定を 変更して、一緒にミュルダ-ルで降りた。なんと奥さんの方が私と腕を組んで歩こうとする。夫は前 を歩いていて気付かない。奥さんは横目で私を見て片目をつぶった。日本人にはウィンクの習慣も ないし、そういう行為を無理にしても似合わない。どうして彼らは、そうスマ-トに振る舞えるのだろ う。うらやましいと思った。






乗り換えた小さな編成の列車は、フィヨルドの港町フロムに向かって急坂をぐんぐん降りて行った。 断崖にへばりついたように線路がある。どうやってこんな崖に線路を敷設したんだ! と私は呆れ たよ。途中で、美しい滝があって、列車がその前で停まった。私は何枚も写真をとったが、この路線 はこうして「観光」目的で列車を走らせているのだろうか。サ-ビスがよすぎる。






フロムの街が気に入ったのか、アメリカ人のカップルはそこに泊まると言い出す。彼らと別れ、フロ ムからグドバンゲンまで船に乗った。観光船と言うよりは地元民の足になっている定期便である。 細いフィヨルドの峡谷を船はゆっくり走った。かもめが飛んできて、乗客の手からエサをもらうのが 印象的だった。グドバンゲンからはバスに乗り換えた。






けっこう混んでいたフェリ-から乗り換える乗客を全員収容できるのか不安だったが、バスは何台 も待機していて、全員無事に乗れた。狭くて曲がりくねった道をバスは走った。(途中1回岩に激突) 難しい道を走っているというのが乗客に伝わるのか、ときどき乗客の拍手が起きる。こういうことも 日本では考えられない。だって、プロドライバ-にとって、走れるのは当たり前のことじゃないか。 (笑)






STALHEIM・HOTELで10分の休憩があった。そこからの眺めはすばらしい。(高所恐怖症の人は 足下がすくんでしまうだろうが。)そのホテルがとっても気に入ったので、フロントで案内をもらった。 1500KRのSWEETに「恋人と来てみたいなあ……」と本気で考えたくらいだ。バスがVOSSについた のは夕方6時半頃だった。その街にもYHはあったがベルゲンまで出ることにした。発車時刻まであ まり余裕がなかったので、ステ-キを喰うのはやめて、ボリュ-ムたっぷりのオ-プンサンドを買っ た。飲み物と合わせて44.5KRだった。VOSSからほんの少し乗っただけで、列車は激しい雨のベ ルゲンに着いた。

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