第13話(JAPANESE PIZZA)
<1KR=23円>
ストックホルムの駅で、ピンクのバンダナを頭に巻いて待つ私をカリンさんはすぐに発見した。 「something pink」がまさかバンダナとは!彼女は会うまでいったい何を想像していただろう。(笑)
彼女が着くまでに私は駅の近くのホテルをあたってみたが、シングルで350KRという値段は、私の 予算をはるかにオ-バ-していた。それで、予約はしなかった。カリンさんが安宿を教えてくれるか も知れない。荷物を駅のロッカ-に預け、彼女に導かれるままに旧市街(ガムラ・スタン)の方角へ 歩いた。ノ-ベル賞に関わるある建物も教えられた。まあ、世間に迷惑しかかけない自分には一生 縁がないだろう。(笑)
ガムラ・スタンの教会の塔に登るツア-がある。(人数限定) 14:00~のそのツア-にカリンさんが 申し込んでくれた。それまでの時間つぶしで、12:00から王宮で、衛兵交替の儀式を見物した。これ は「観光客に見せる」のが目的で行われているらしい。1時間近かったがなかなか迫力があって、 動きが少しコミカルで面白かったよ。日本の皇室も、こんなサ-ビスをしてくれればもっと国民の親 しみも増すだろう。そのあとで、王室に関わるいろんなものが展示してある王宮内部に入った。14: 00からのツア-にはまだ間があったので、広場に面したオ-プンカフェでランチをとった。(3種類 のメニュ-から選べて、37KR)私は緑の麺のパスタ料理を食べた。そういえば、麺類を食ってない なあ。日本では、ソバやうどんやソ-メンやラ-メンという各種の麺類を常食にしている私(お好み 焼きやタコ焼きもだけどね。)はふと思い出してしまった。その時むしょうにソバが食べたくなった よ。
食べ終わってぎりぎり14:00ジャストに教会に着いて、予約していたツア-に参加した。(15KR)塔 に登ると、ストックホルム市街が一望できた。教会の内部をいろいろ見せてもらえたのも面白かっ た。それほど暑くはなかったのだが、やはり喉が渇く。そして、アイスクリ-ムを売っているとついつ い食べたくなる。カリンさんに、「何か冷たいもの欲しくない?」と訊くと彼女は嬉しそうに笑ったの で、さっそく私は二人分のアイスを買った。そして歩きながら食べた。少し行儀が悪い(笑)。
ちなみに私の勤務する学園では、通学時にそういう行為をすると厳重注意だ。いったんストックホル ム駅まで帰ってロッカ-から荷物を出し、地下鉄でユニバ-シュタットまで行き、カリンさんの住む 学生寮に向かった。「ホテルの予約をしてない。」ということを話すと「私の学生寮に来ればいい。そ れが一番チ-プでいい!」とのことだった。ここは甘えることにする。それに、部屋までついてくと何 かいいことがあるかも知れない。なにしろ、ここは北欧である。
地下鉄を降りたところにコンビニ風の店があったので、私はふとよせばいいのに、今日の夕食を作 ってあげようなどと提案した。お世話になったお礼ということである。「JAPANESE PIZZA」と称し て、得意のお好み焼きを作ってあげることにした。
もっとも、天カスとか、青海苔とかカツオなんかは手に入らないし、奇怪なものになってしまいそうだ ったが、ごまかせるだろう。キャベツ、肉、玉子、ネギ(みたいなもの)は何とか存在した。ソ-スは どんな味かわからなかったが、とんかつソ-スやおたふくソ-スがこんなところで売られているはず がない以上、似たもので代用するしかない。しかし、日本で存在するような「甘い」ソ-スはないだろ う。(事実、おそろしくスパイシ-な味だった。)
1時間半ほど格闘して、どうやらお好み焼きらしきものになった。学生寮のキッチンで、二人でお好 み焼きを前にして乾杯している写真がある。あまりにもスパイシ-なソ-スに、口の中がヒリヒリ痛 んだがビ-ルを大量に飲んで「酔い」でごまかしたのである。カリンさんは、日本やタイを旅行した 時に撮ったスライドを見せてくれた。その時に部屋を暗くしたので、私は妙にドキドキしたよ。随分遅 くまでいろんな話をした。英語ではうまく意志が伝わらないけど、自分の旅立ちの理由とか、これま でに見てきたところなどを話した。
夜も更けて、いよいよ……というときに、カリンさんは「私は隣室の友人の部屋で寝るから、あなた はこのベッドを使って……」と言って部屋を出た。ただ、シャワ-は自室のものを使うということであ とで全裸にバスタオルを巻いただけの彼女が部屋に入ってきて、シャワ-を使った。私はその水音 が聞こえるだけで妙に興奮していた。
しかし、結局何事も起こらなかった。
カリンさんは隣の部屋に帰り、彼女が去ったあとの寂しくなった部屋で、今度は私がシャワ-を浴 び、髪を洗い、たまった垢を落とした。「お湯の入ったバスタブにつかる」という行為ができないので どうも私は物足りないのだが、そういう習慣がここにないのだからしかたがない。旅に出てから、バ スタブのお湯につかることができたのは、ベルリンのインタ-コンチネンタルホテルと、カトビッツエ のホテルだけだ。あとは常にシャワ-のみだった。もっとも、自分が安宿にしか泊まらないことも大 きな原因だが。
カリンさんがいつも眠っているベッドに横になったもののベッドから立ちのぼる「女の匂い」に私はな かなか眠れなかった。目の前で見た、「バスタオルを巻いただけの裸身」もまた、私の眠りをさまた げた要因だった。しかし、そこが自分の部屋ではない以上、私はそこで悶々とした時間をただ過ご すだけだった。
「スウェ-デンはフリ-セックスの国じゃないのか?」
「これじゃあ話が違うぞ! 真面目じゃないか。」
などと全く勘違いのことを想像する救いようのない自分がそこにいた。泊めてもらえただけでもあり がたいのに、「恩知らず」とはまさに私のことだった。
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