第12話  (ピンクのバンダナ)

<1KR=23円>





ストックホルム行「シリヤライン」の乗船開始を待っている乗客の列の中に、ベトナム人の二人連れ がいて、私の顔を見て「同胞」と思って話しかけてきた。(毎度のことである。私は日本以外のすべ ての国籍の東洋人に見えるのだ。)ニュイエン君とデュン君だった。彼らは二人ともジュネ-ブに住 んでいるとのことだった。スイスは行く予定なので、親しくなっておいたら便利だろう。彼らは私が 「日本人」と知って驚いていた。全然そう見えないそうだ(笑)。






「地球の歩き方」には、シリヤラインの乗船チケットだけで乗れるという2段ベッドのドミトリ-の船内 での位置が記されていたので、私は二人のベトナム人を引き連れ、荷物を背負って駆け出し、まん まと3人分のドミトリ-のベッドをKEEPする。彼らはしきりに「有料かどうか」を気にしてたので、私 は「It's free」を連発して彼らを安心させた。






彼らと船内を探検する。カフェテリアの前には長い行列ができていた。そして、別に豪華なレストラ ンがどうやらあるようだった。ディスコやゲ-ムセンタ-があるのはもちろんだった。さて、夕食であ る。私は、ドミトリ-の値段を気にする彼らが、まともなレストランに入るとは思わなかった。しかし、 カフェテリアの行列を見て私はめげてしまい、「売店で何か買おうか……」と思ったとき、なんとデュ ン君が、「レストランに行こう。生演奏も聴ける」と言い出した。






「おいおい、おまえら金持ってるのか?」






私は他人の懐を心配したが、今までの貧乏旅行を思うと、ここで贅沢してもバチは当たらないような 気がしていたので、「OK!」と返事した。レストランは空いていた。正面のステ-ジではフィリピン人 のバンドが演奏している。私たちはステ-ジにわりと近い席に陣取った。いつものように、フィリピン 人バンドマンは私を同胞と思って挨拶してきた(笑)。






さて、ウェイタ-が持ってきたメニュ-を見た。高い!






それは当然のことなのだが、とにかく安いメニュ-が飲み物くらいしかない。その豪快な値段表を見 て、ベトナム人二人組も、泣きそうな顔をしていた。私はここでは余裕を見せようと思って落ちつい て、ペッパ-ステ-キ(158KR)とBeerを注文した。彼らはあきれたように私を見ていた。そこで私 が太っ腹を見せて、彼らにも同じものを喰わせてやればよかったのか。それこそ、日本人の傲慢さ ではないか? とりあえず私は様子を見ることにした。彼らはコ-ラなどの飲み物だけを注文してい た。






運ばれてきた料理を見て、私は驚いた。一人では喰いきれないほど大量のポテトの盛り合わせが ある。そして、パンが篭にいっぱい入っているのである。パンの個数は3人で喰いまくるのにちょう どいい数だ。結局、飲み物しか注文しなかった彼らは、パンやサラダを私と一緒にどんどん喰いまく って満足したのだった。しかも、私の料金には食後のTeaも含まれ、満足度から考えると、決して 「高すぎる」ものではなかった。



(ちゃんと食べ終えた時に、tea or coffee? と聞かれたぞ。)



また、この時に贅沢の味を覚えた私は、自分が貧乏旅行者であることを忘れ、ときどきステ-キを 食べる堕落した旅行者になってしまったのであった。






勘定を支払うときになって、私は、スウェ-デンの通貨を、支払いに足りるだけ持っていないことに 気が付いた。メニュ-はスウェ-デン・フィンランド双方の価格が表示してあったので、お金もまぜ て払ってもいいような気がしたがそういう複雑な計算にはウェイタ-は慣れていないのだろうか?  両方の国の金をテ-ブルの上に出して、どうしようかと迷っているとウェイタ-はテ-ブルの上か ら、フィンランドマルカの紙幣を取り上げて、それを親切にもスウェ-デンの金にわざわざ両替して きてくれた。(私は彼にチップをあげる羽目になった。)






かくして、2国の通貨をごちゃまぜにして支払うということにはならず全額スウェ-デンのKRでレスト ランの勘定を済ませたのであった。






船内のゲ-ムセンタ-には「ギャラガ」という懐かしいゲ-ムがあった。私はとってもやりたかった が、ベトナム人たちに遠慮してあきらめた。彼らはゲ-ムどころじゃないはずだ。それにしても、旅 先の至る所で日本のゲ-ム機に出会う。クソゲ-愛好家の私としては、日本に失われたゲ-ム機 を求める旅なんかも面白いかも知れない。東欧にはけっこう眠っていそうな気がするぞ。






一眠りして朝になって、ストックホルムにフェリ-は到着した。実は日本を出る前にちゃんと、友人 からストックホルムに住む人を紹介されていたのだ。二人とも大学生なのだが、ストックホルム王立 工科大学のカリンさんとヨハンナさんである。友人の話では、カリンさんはシャイで、ヨハンナさんは ファニ-だということだった。フェリ-から降りてすぐに地下鉄の駅からヨハンナさんに電話した。






(この「友人」というのは、看護婦さんなのだが、旅立つ私に常備薬一式を援助してくれた親切な方 である。私の「白夜特急」の旅の陰の支援者である。もちろん、ヨ-ロッパからこの方には絵はがき を2通出している。)






電話で、自分が「日本人」ということと、看護婦の友人の名前を出すとすぐに話が通じた。なんでも 私が訪問することはすでにエアメ-ルで知らされていたそうである。ちょうど大学も夏休みの時期だ った。しかし、ヨハンナさんは病気で寝ていた。カリンさんはストックホルム駅まで出てこれると言う ことだった。それで、カリンさんにストックホルムの案内をしてもらうことにした。






私はストックホルムの駅まで出て、宿を求めて電話帳のホテルリストを見て片っ端から電話してみ たが、どこもメチャメチャに高かった。シングルで日本円にして1万円近いのだ。それは一日の全予 算だ!






さて、カリンさんは駅の混雑の中で初対面の私を発見できるだろうか。それが実は大丈夫なのであ る。私は電話でこのように伝えたからである。






「 You can find something pink on my head! 」

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