第9話(ノ-ルカップへの道)
<1FMK=31円>
サボリンナのYHは、2DKにベッドが4つあって、自炊できるように電磁調理器もあった。そこに一 人で眠るのがもったいなかった。それだけ広いことを知っていたら、別のホテルに泊まっている女性 2名も呼ぶことができたのに……と思った。 40FMK 昼食代以下の安さだ。しっかりと洗濯をし て、シャワ-を浴びて身体の隅々まで洗ってスッキリした。
朝、起きると腕時計の液晶が死にかけていた。リチウム電池が寿命だった。昨夜の日本人女性二 人と待ち合わせしていて、一緒にカウッパトリ(市場)でいろいろ買い込んで、湖水を間近に見なが ら芝生の上で朝食にした。彼女らは「カラクック」とかいう変な食物を買っていたが、私はやめた。 (笑)サイマ-湖の遊覧船に乗ることにした。70FMK(少し高い!)船に2時間乗って、そこから列 車をつかまえて、ヘルシンキに戻ることに決めた。
サボリンナ → プンカハリュ- 間を船で移動ということになる。
プンカハリュ-からの列車で私はいったんヘルシンキまで戻り、そこから夜行寝台で北へ向かうこと にした。女性2名は途中まで一緒だったがイマトラで降りてしまった。しかし、住所はちゃんと聞いた から安心だ(笑)。私が目をつけた方の女性(笑)は、ヘルシンキ郊外にホ-ムステイしていることを 知った。電話番号はしっかりとメモした。
彼女、N子と、のちに深く関わることになるとは、その時は思いもしなかった。
さて、ヘルシンキで私は時計店を探して、電池を交換してもらった。料金は50FMKだから、日本並 かな。時計店の店員が日本語で話しかけてきて思わずびっくりした。どうやら日本語学校に通って いるとか。
「ワタシ ヤッコ デス。」
「ヤッコ」っていったい何なんだ? と思ったが、実は彼の名前だった。私は「ヤッコ凧」とかを連想し てしまったよ。しかし、フィンランドには変な人名が多い。もっとも、その「変」というのは、日本語か ら見た「変」であって、別にその国では変ではない。「ミンナ」「ヘンナ」という名前がポピュラ-な存 在で、「アホ」という姓がある。その結果、「ミンナ・アホ」「ヘンナ・アホ」という組み合わせもある。 (アホ首相という方もそういえばいたなあ……)
そういえば、フェリ-の中で知り合った人は「エエロ-」という名前だった。
ヘルシンキから、ロバニエミ行きの夜行寝台に乗ることにした。寝台券50FMK 3段式で、コンパ -トメントになって仕切られていた。私の券は中段だった。広いし、快適に眠れそうだ。私は寝台の 中で考える。サボリンナで逢ったN子のことを思う。不思議な親近感が湧いたのも、よく考えてみれ ば、旅立つ前に日本で別れてきた片想いの相手に似ていたからである。どうして自分はいつも同じ タイプの女性を好きになるのだろう。
おっと、まだ今回は好きになったわけではない。気になっているだけだ。いずれ、またどこかから電 話してみよう。
列車は朝になってロバニエミに到着した。ここはサンタクロ-スの里として日本でも有名だ。そこで 日本人3人を駅で発見した。なんでもみんな北へ向かいノ-ルカップ(北岬)を目指すとか。とりあえ ず、私も彼らと行動をともにすることにした。ノルウェ-との国境の町、カラショクまでバスに乗って 移動することにした。
ロバニエミ→カラショク(149FMK) なかなか高い料金だぞ。
しかし、まだノルウェ-の金(クロ-ナ・KR)をまだ全然手に入れていない。ヨ-ロッパは、列車やバ スが直通なので、国境という感覚はあまりないのだが(特に西側諸国は)、しかし、通貨だけは確実 に変わる。だから、国境を通過するときは、両方の国の通貨をどうすればいいのかいつも悩む。ノ -ルカップに行ってそれからどうするのか?そのまま、海岸線に沿ってベルゲンまで南下するのな ら、もうフィンランドの金を必要としないのだから、全部両替してしまえばいいのだ。しかし……。
途中、いかにもラップランドという雰囲気の中をバスは走った。けっこう陽射しは強く、バスが停まっ て休憩するところでは、いつものようにアイスクリ-ムを買って食べてしまう。すくってくれるアイスの 盛りが特に大きいような気がするのもフィンランドが親日国家という証拠だろうか(笑)。地元の人か らは「Japan?」とよく話しかけられた。
カラショクで夜になった。いちおう、「夜になった」と書いたが、それは表現としては正しくない。時間 は確かに 19:15 だが、全然暗くないしそれ以降もやはり明るいままだった。実は真夜中でも、空 は薄明るくて、「夜」とは呼べなかったのだ。日本人3人に、私と、変なオランダ人を加えた一行の5 人は、バスを降りて、そのままカラショクのYHに直行した。YHは一泊60KR、(1KRは21円くらい に相当する。) 食事はなし。
バンガロ-のような建物に案内されたが、さすがにそこまで来るような日本人はみんな旅慣れてい る。それぞれザックの中から思い思いに食糧を取り出して夕食にした。フランスパンを何本かと、ミ ネラルウォ-タ-や缶ビ-ルをザックに忍ばせておくのはヨ-ロッパ放浪旅行者の常識だ。翌朝 (といっても一晩中明るかったが)、カラショクからホニングスボ-グまでさらにバスに乗った。そこ からフェリ-に乗って、さらにバスに乗ってそれでやっとノ-ルカップに到達できるのだ。(バス代は 高かった。)
さすがにフェリ-の上では半袖ではいられず、長袖トレ-ナ-を出した。北極海の海は冷たそうだ った。そうして到達したノ-ルカップは殺風景な場所だった。北極海に向かって切り立った断崖が続 き、ふと左の方を見ると、さらに北極海に突き出た半島の部分があった。
「もしかしたら、あっちの方が最北端じゃないだろうか?」
でも、せっかくそこが「ノ-ル・カップ」と呼ばれているのだからそんな無粋なことを言うのは「野暮」 というものである。(笑)
私はノ-ルカップの郵便局でやっと手持ちの$をKRに交換した。オランダ人と日本人3人は、その ままノルウェ-経由で南へ向かうとか。私は、もう一度N子に逢いたくて、同じル-トをヘルシンキに 戻ることにした。今度は一人でバスに乗って、カラショクまで戻ったのである。YHでカギを渡され、 往路と同じバンガロ-に今度は一人で眠った。
手持ちの最後のカロリ-メイトはそこで食べてしまった。
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