第4話 (アウシュビッツ)
1$=450Zt(正規) 2000Zt(闇)
昨日、YHの受け付けで頑固なオバハンから、「開門は6時からです!」と言われ、どうやって6:15 のザコパネ行き特急に乗るか悩んだが、結局他のYH職員の青年を百円ライタ-で買収して、カギ を開けてもらうことにした。それで5:30に出ることができた。一等車の切符は昨日のうちに窓口に並 んで買っておいた。なんとその時に窓口で私を助けてくれた親切なおばさんもホ-ムにいたので挨 拶する。彼女はどの窓口に並んで買えばいいのかを、英語で教えてくれた恩人だった。
ホ-ムに掲示された編成図を見て、自分の切符に記された座席番号の所に行く。6人乗りのコ ンパ-トメントに入った。なかなか綺麗で快適な室内だ。ザックの中からパンとミネラルウォ-タを 出して朝食にした。目の前に親子連れとおぼしきおっさん、おばはん、若い娘が座った。娘はなんと 英語を話した。ラッキ-! それで少し話をした。しかし、その娘(?)はおっさんと恋人のように抱 き合っていた。それがポ-ランドの親子の日常なのか? それともこちらが夫婦なのか?残酷な事 実を聞きたくなくて、私はその問題には言及しなかった(笑)。
クラクフに着いた。降りるといきなりTAXIドライバ-が話しかけてくる。「アウシュビッツに行かな いか?」ということだ。最初は30$とふっかけてきたが、すぐに20$に下がった。私は10$と持ち かける。(あんまりだよな。)結局12$で商談は成立し、1時に発進するのを約束して、私は街を歩 く。駅前の露店の市場で、リンゴ/40Zt ジュ-ス/45Zt パン/16Ztを買った。そのリンゴを 喰いながら歩いた。
教会前の街の広場に出た。石畳が広がり、中世風の建物が立ち並んでいる。50Ztでわたがしを買 った(笑)。汚いジプシ-の子供が、泣きそうな声で「プリ-ズ ギブミ- ワンダラ-」と寄ってくる。かわい そうなので1$あげた。すると十数人の他のジプシ-の子供が、わらわらと集まって来るではない か。私は身の危険を感じて、全速力で走って逃げた。(笑)
しかし、1$はやりすぎだった。日本円にして2000円くらいの価値なのだから。ザピカンカを喰いた かったが、売っていなかった。空腹だ!(泣)その空腹のわりには、アイスクリ-ムはしっかりと3本 食べた。
アウシュビッツに向かう道をTAXIは100キロ以上で暴走した。クルマは5ドアハッチバックで流線型 の「ポロネ-ズ」という車種だった。周囲には田園風景が広がる。そのドライバ-は今までに千人以 上の日本人を乗せたそうである。ああやって、毎朝クラクフで降りる日本人観光客に声を掛けてき たのだろう。1時間ほどでアウシュビッツ収容所前に到着した。
有名な「ARBITE MACHT FREI」(働けば自由になる)の門をくぐった。靴の山、髪の毛の山、メガ ネの山、ガス室のそばにあった焼却炉。レンガ作りのワラを敷いた狭い3段ベッド。ここでどれほど 多くの人が殺されたのかと思うと、背筋が寒くなる思いだった。後に映画「シンドラ-のリスト」で見 たものと同じ光景だった。ただ、もっと驚いたのは、立ち並んでいる元収容所の建物の一部が
一般の住宅となっていて、普通に人が住んでいたことであった。間違えて中に入りかけて叱られてし まった。
私を待っていてくれたTAXIは、近所にあるビルケナウの収容所跡にも案内してくれた。骨が砕けて 風化した白い砂が足元に広がっていた。
ナチスのユダヤ人虐殺、南京大虐殺、原爆投下、こうした行為ををなぜ人類は過去に犯してきたの か。そして今でも地球のどこかで、そうした行為に類することが起きているのかも知れない。人はな ぜ殺すのか。どうして軽々しく生命が奪えるのか。答えのでない問いを、私は心の中で何度も繰り 返していた。
アウシュビッツを出て、TAXIでカトビッツエという工業都市に連れていってもらった。12$に値切っ たのが少し悪い気がして、結局15$支払った。走った距離を思えば日本ならガソリン代にもならな い金額である。駅で翌日の切符を30分並んで買った。窓口はいつもの長蛇の列だ。ポズナニまで 1等で1750Ztである。400キロ近い距離なのに安すぎる。そんなに安いからポ-ランドの列車は混 雑しているのだ。ホテルに泊まろうとして、前方に見えた「ホテル・シレジア」という一番高そうなホテ ルに向かった。160$と言われた。ひえええ-っ!あきらめて安宿を探す。結局、ホテル BUDOWLANI に泊まることになる。13300Ztだった。だだっぴろいバス付のツインル-ムに案内さ れた。フロントの女性は英語が話せなかったが、ドイツ語はなんとか通じた。
貯まっている洗濯をして、シャワ-を浴びて、のんびりとバスにつかり大きな机もあったので絵はが きを書いた。それから夜の街へ出た。レストランを探して駅までやってきた。駅のレストランに入っ たが、ポ-ランド語のメニュ-がよく読めずに悩んでいると、近くに座っていた人が親切にもいろい ろ注文してくれた。ムニエルみたいな魚料理と、ポテトとトマト、それにビ-ルをとった。全部で360 Ztだった。これに比較したらホテル代は絶対ぼったくりだ。
パン屋があったので、とりあえずパンを買っておく。食糧が切れるのは悲しい。ザックの中にはいつ でもバケットとミネラルウォ-タ-は常備したい。それでもまだそんなに遅い時間ではなかった。私 は駅の構内で、なんとゲ-ムセンタ-を発見して狂喜した。(笑)
そこには、セガとかナムコとかの懐かしいゲ-ム機が並んでいたのである。1ゲ-ムは20Ztだっ た。日本円で2円くらいだ。両替して、コインを積み上げ、やりまくる。ゼビウスとか、ギャラクシアン とか1941というなつかしいゲ-ムがあった。大学生の頃、京都の北白川バッティングセンタ-に 入り浸ってゲ-ムをしていた頃を思い出した。
私が熱中してゲ-ムをしていると、じっとそばで見ているポ-ランド人の少年がいた。私は20Zt のコインを数枚出して「きみもやれば?」と勧めた。しかし、彼は「見ている方がいい……」と断ってく るので、強引な私は席を立って無理にさせてみた。彼はとてつもなく下手であっというまに終わっ た。
20Ztもあれば1食分のパンが買える。変な色付きジュ-スも飲める。その金を、ゲ-ムなんかに 浪費することが、この国の一般的な少年にとってはおそらく不可能に近い贅沢なのかも知れない。 もしもその数枚のコインを私からもらったとしても、彼はそれをもっとまともな方向に使いたいだろ う。ゲ-ムなんかに使いたくないはずだ。彼は私に向かって、いろんなゲ-ム機を指さしては「次は あれをやって……」と次々ねだった。そして、私の技を見ては目を輝かせるのであった。
夜の11時頃にホテルに戻った。絵はがきを6枚書いた。
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