第三話 確かめたい

 空はよく晴れていて、風が気持ちいい。今日は絶好のデート日和だと言えるだろう。

 三月に入り、俺は双葉とともに瓦町にくり出していた。


「修学旅行で白い恋人パーク一緒に回ったのに、もうデートしちゃうんだね」

「確かにな」


 双葉は可笑しそうにふふっと笑って、つられて俺も笑ってしまった。修学旅行が終わったのはついこの間のようで、今も記憶に新しい。そんなものだから、感覚的にはすごい頻度でデートしているように思える。


「とりあえず、どっかゆっくりできるとこに入るか?」

「うん、そうだね」


 三、四回目ともなると少しはデートにも慣れてきて、ぎくしゃくせず自然に動けるようになったと思う。最初はなにからすればいいのか全くわからずあたふたしていたが、今は落ち着いて考えることができている。


 そして、その冷静な頭で俺は静かに考える。今日のデートにはある思惑がある。

 というのも、最近双葉が素っ気ない…気がするのだ。話しかけても返事が味気ない気がするし、彼女から話しかけてくることがまったくなくなってしまった。


 付き合って時間が経てば最初のようにときめきだらけの毎日ではなくなると聞くから、これは俺のただの杞憂にすぎるかもしれない。でも、あんな不吉な悪夢を見てしまった後でもあって、心中穏やかではいられなかった。

 だから、今日のデートで再確認したいのだ。双葉はまだ俺のことを思ってくれているのかどうかを。


 女々しいなと自分でも思ってしまう。しかし、千堂や端島に言われた胸を張っていろというのは、どうやら俺には荷が重いらしかった。

 俺と双葉はタリーズコーヒーに入り、初デートの時のようにそれぞれウインナーコーヒーとアイスココアを頼んだ。


「なあ…杉下」

「? なに?」


 ココアでのどを潤してから、俺は真剣に話を切り出した。俺の空気を感じ取ったのか、双葉はどうしたのかと不思議そうな表情を浮かべていた。


「俺になんか、不満とかないか?」


 うだうだと考える性分ではあるが、まどろっこしいのはあまり好きではない。俺は双葉にそう直球を投げてみた。

 双葉は大して動揺した様子もなく、間髪入れずに答えた。


「ないよ、ない。びっくりするくらいない」

「そうか…」


 こう返事が返ってくるのはわかっていた。双葉の性格からして、きっと不満があったとしても、心の中にしまって俺には言ってくれないと思うから。だが、俺の予想とは反して、双葉はさらに続けた。


「むしろ今までの、その…人たちがなんであんなに嫌だったんだろうって思うくらいないよ。武野はすっごくいい人! オレが保証する!」


 言っていて恥ずかしかったのか顔を真っ赤にして、しかし表情は一切変えずに言った。


 俺はその時、心がじんと熱くなった。それと同時に恥ずかしさとうれしさが同時にこみあげてきて、泣きそうになってしまった。でも、双葉の前と言うのもあって、俺は目から涙が零れ落ちるのを必死にこらえた。


 双葉はこんなにも俺のことを思ってくれている。それは前々からわかっているはずの事だった。なのに、俺は彼女にこんなことを言わせてまで、その愛を確認しようとした。

 なんと愚かで、浅はかで、醜いことなのだろうか。彼女を信じないで、どう彼女を愛するというのだろう。


 こんなことを続けていても意味がない、いい加減、俺も彼氏らしくならないと。


 目に涙をためた俺を心配そうに見つめる双葉に笑いかけ、俺はようやく腹をくくった。


 でも、なぜだろうか。結局俺は変わることができなかった。…想像したくもなかったことが起きてしまう。


 不安はいつまでも俺の心を蝕んでいく――。

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