第五話 しゃぶしゃぶ
ノーザンホースパークを後にすると、次に控えていたのは待ちに待った夕食の時間だ。今日はラム肉のしゃぶしゃぶをやるらしく、ラム肉を食べたことがない俺にとっては、本当に楽しみな行程だ。
例年はジンギスカンだったらしいのだが、どうも生徒の中にその独特の臭みとかが苦手な人が多かったらしく、今年からしゃぶしゃぶになる運びになったそうだ。どちらも食べたことがない俺には、特になにか思うところはないけれど。
クラスごとに席に座ると、店員さんが野菜やら肉やらを運んできた。机の上に置かれた鍋の中ではすでに水がぐつぐつと煮えており、いつでもしゃぶしゃぶを始めることが可能な状態だった。
先生の注意事項を聞き食事開始の合図がなされると、俺たちはすぐさま肉に手を伸ばし、鍋の中に勢いよく投入した。その様に遠慮は全くない。なぜなら、ここのしゃぶしゃぶは食べ放題だからだ!
しゃぶしゃぶ用に薄く切られたラム肉はすぐに煮え、待たされることもなくすぐにその味を確かめることができた。
俺は取り皿にラム肉を移し、そのままさっと口の中に放り込んだ。
う、うまい…!
しゃぶしゃぶだからかもしれないが、聞いていたような臭みは全くなかった。余計な脂身がなくあっさりとした口当たりで、肉の脂っこさが苦手な俺にはドストライクな味だった。
やばい、ラム肉にハマってしまったかもしれない。
周りには友人たちがいるというのに、俺はろくに口も開かず次々と肉をかき込んだ。小食なのも、今は関係ない。それは俺だけではなかったらしく、他にも肉に食らいついている人がちらほら見えた。
「がっつきすぎだろ…」
「…」
隣に座る千堂や、その前に座る光浦が俺のことを、獣を見るかのような目で見ていた。二人は俺と違って行儀よく食べている。俺からしてみれば、このおいしい食事を前にしてなぜ食べまくらないのか不思議である。
「元取らないと…ってか自然と箸が進むだろ!」
「いや、だからって限度があるだろ」
「お前らそれでも人間か!」
「お前こそ犬みたいだけどな」
うまい、座布団一枚。
「って、違う! 別にがっついたっておかしくないだろ! こんなにおいしいのに!」
「食べ方が見ていて不快」
「チクショウ! すいません!」
気づいていなかったが、どうやら食べ方が汚かったらしい。光浦も千堂の言葉にコクコクと頷いていた。迷惑だったんですね、すいません。
そういえば、双葉は変なことをやらかしていないだろうか。残念ながら、一組と二組は席がわけられていて、石造りの壁の向こう側に双葉たちの席があるはずだ。ここからじゃ彼女の姿を見ることができない。
「ジンギスカンやろうよ!」
「どうやって?」
「ほら、鍋の火を使ってさ」
「頭いいねそれ! やろうやろう!」
「「「…」」」
双葉の声かどうかはわからないが、そんな声が聞こえてきた。
「「「バカだな」」」
俺たちは三人同時にそう呟いた。
絶対にいるよね、修学旅行でこういうバカやらかすやつら。
あとから聞いてみたが、ジンギスカンに挑戦したのは双葉たちじゃなかったらしい。だけど、肉はそっちのけで野菜をお代わりし続けるという謎の行動にでていたらしい。カロリーでも気にしていたのだろうか。
肉食えよ!
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